第403話、尋問のお時間
グリグ製造工房を押さえた。夜中にもかかわらず緊急出動をする羽目になった王都騎士団に後始末を押し付け、俺たちはウィリディスに戻った。
が、まだアウラ・ボナの身柄を確保していない。引き続き、作戦は続行だ。
彼女に張り付いているシェイプシフターの報告では、いま自宅に戻り、お休み中。
というわけで、彼女が工房が制圧されたことを知って、高飛びする前に、こちらからお迎えに伺う。
アウラ・ボナの邸宅は、王都でも高級住宅街にあり、洒落た豪邸に住んでいた。庭付き、堅牢そうな塀に囲まれ、警備付き。
工房のときみたく、面倒事を二回も繰り返す気はないので、手早く片付ける。
ベルさんに断絶結界を敷地全体に張ってもらって、まずは閉じ込め。
続いて、ダスカ氏、ユナ、俺で睡眠魔法を大気中に散布して、屋敷全体に魔法を流し込んでいく。夜勤の警備やメイドら、起きている者たちを残らず眠らせていく。
DCロッドでテリトリー化、そしてスキャン。動いている奴は……いない。状態異常系魔法に備えて、魔法具を装備している奴とかいると思ったんだが。
「魔法具による警報装置とか、そういうのもないのかね」
「ジン君、自分が何言っているかわかってます?」
ダスカ氏がやんわりと言った。
「そんな高度な警報装置なんて、そうそう手に入りませんよ? まあ、あなたなら作ってしまうんでしょうけど」
「魔法使いには魔力波を感知できる者もいるから、それと似た効果を持つ魔法具とか作ろうって思わないのかな……」
「自分で感知できるなら、わざわざそういう魔法具を作る必要あります?」
ユナが指摘した。俺は苦笑した。
「君は、自分は魔法が使えるからいい、という考える魔法使いの典型だな。別に悪いとは言わないけどさ」
「ジン君は、魔法が使えない人でも、それと同じ効果があるものが使えるようにと、道具を作ってしまう人ですよね」
ダスカ氏は穏やかに言うのだ。ウィリディスにある魔法具や兵器類を見れば、一目瞭然である。
「まあいいや。こちらも動こう」
リアナ――と俺が合図すれば、彼女とシェイプシフター兵がぞろぞろと、塀を乗り越え、敷地内に侵入した。俺、ダスカ氏、ユナも、ゆっくりとその後に続く。
DCロッドでスキャン済みなのでトラップの類もわかるのだが、さすがに個人宅ということで、そこまで気をつけるべき代物はなかった。
それでは、お邪魔します、からの不法侵入。
濃厚な香水の香りが鼻についた。人の家には、その家の臭いというものがある。魔石灯で明るい室内を、我が物顔で進む。
アウラ・ボナが若い男とイチャついていた寝室まで、DCロッドのお導きで一直線。そして遠慮なく、お部屋へ突入。
「こんばんは~」
お休み中のアウラを襲撃。
SS兵がライトニングバレットを構えて、ベッドを取り囲む。進み出たSS兵が、淡々とアウラの頭に黒い袋のような頭巾を被せた。そこでようやく目が覚めたらしく身動きする彼女だが、すぐにSS兵が拘束具をかけていった。
・ ・ ・
ベッドを壁際までずらし、部屋の中央に椅子を置く。
アウラ・ボナを拘束し、椅子に座らせる。
一度、アウラの頭巾をはずすが、正面から閃光を当て、やはり目を閉じさせる。その隙に後ろから黒い布で目隠しをかけ直す。
「それではこれより尋問を開始する。アウラ・ボナ、我が主の質問に正直に答えること。嘘をつけば、苦痛を与える。その過程で死んだ場合、貴様の死体を店先に吊るしてやるのでそのつもりで」
「いったいあなたたちは何者!? どうしてこんなこと――!?」
「質問はこちらがする。余計なことを言って時間を浪費するな」
冷酷に機械的な声でスフェラは言うのだ。傍らで待機しているサキリスが、ぶるっと身震いした。恐怖の感情で震えたのではない。念のため。
「アウラ・ボナ、貴様は、グリグの製造を命じ、王都にてその密造を行った。相違ないな?」
「……」
「王都南地区にあった貴様の所有する製造工房は、すでに王都軍によって急襲を受けた。部下たちは、貴様の指示だったと証言したぞ?」
スフェラは質問を繰り返した。
最初は言葉少なく、否定的な言葉が多かったアウラ・ボナであったが、工房で部下に命じた言葉を、聞いていたシェイプシフターが彼女と部下の声で再現したあたりから、観念して喋り出した。
グリグを製造するよう命じたのは間違いなく、目的は金儲けだった。自分の店の拡大と巨万の富を手に入れるために、危険薬物をバラまいたのだ。
ポーション類に、過剰摂取で中毒を起こす可能性があるモンを入れたのも、ボナ商会の商品への依存度を高める策である。飲めば飲むほど、ボナ商会のポーションを求めるようになる。
冒険者たちは、比較的ポーションを使用する回数が多いため、ターゲットのひとつとしていたらしい。中にはグリグを直接混入させたポーションを売ったこともあるという。
「世の中にはバカが多すぎるのよ。人をさんざん見下しておいて、金があればころりと態度を変えて……」
常客や富裕層にも、性欲増強剤などと言って、グリグを販売していたという。薬漬けにして、金を搾り取るつもりだったようだ。
さて、アウラ・ボナのグリグに関わる行為の証言をとれたわけだが、こちら側の尋問はなおも続いた。
協力者の有無。どこからグリグの原材料を手に入れたのか。他に製造工房がないか。また薬をバラまいていた連中の素性や、その他詳細。これらは捕虜とした手下たちにも尋問している最中であるが、アウラ本人からも直接情報を引き出す。
「エリサ・ファンネージュに罪を着せた理由は?」
この質問はかなり重要である。冤罪って胸糞悪い言葉と思うんだ、俺はね。
かつて俺のいた世界でも中世に魔女狩りってのがあって、無実の人が魔女だと訴えられて火あぶりにかけられた。
エリサはサキュバスだったが、アウラが危険薬物製造の冤罪を着せなければ、明日火あぶりにされることはなかったはずである。
「あの魔女は……私を馬鹿にしたのよ!」
半ば叫ぶようにアウラは言った。
「私の仕事の提案を断った! 自分が美人だからっていい気になってるクソな魔女! 自分だって男を垂らしこんでいるくせに! あの、人をバカにしたような目が気に入らない! だから商売敵でもあるあの女を地獄に落としてやったのよっ! でもあいつは悪魔だった。はん、クソ淫魔は罰せられて当然なのよ!!」
要するに嫉妬が原因で、エリサは処刑される羽目になったのか。彼女も災難だったな、本当。




