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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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352/2028

第350話、飛来、フォルミードー


 それはまさに超巨大飛竜と言うにふさわしい威容を持っていた。


 翼の端から端まで百メートルは優に超えているのではないか。まるで空飛ぶ船、いや壁か。あれが伝説のフォルミードーで間違いないだろう。その存在感は半端ない。


 よくもまあ、あんな巨大な物体が空を飛べるものだ。相手がデカ過ぎて、こっちが余計に小さく感じてしまう。

 グンとひとかき、羽ばたくだけで風が吹き荒れる。接近する角度を間違うと、風に巻き込まれて機体の制御を失ってしまうかもしれないな。


 ここまでデカいと当てるのは難しくないが、果たしてサンダーキャノンが通用するだろうか? あいつの外皮がどこまで硬いかはわからないが、あまり効果がなさそうな印象を受ける。


 こんな時のために誘導噴進弾(ミサイル)を用意したのだが、確信が持てなかった。まあ、一発二発がダメならあるだけ叩き込むだけだが。


「全機、噴進弾用意。目標、フォルミードー!」


 俺は指示を出した。愛機であるトロヴァオンには残り六発の噴進弾。ファルケは最初の一発しか使っていないので二発ずつまだ持っている。ドラケンは六発搭載しているが、初回の一発以外は使ってないよな。各機同時二発ずつ、計二〇発は叩き込めるだろう。


『的がデカ過ぎて余裕で当たるな』


 ベルさんの軽口にも似た声が聞こえた。


『で、どこを狙えばいいんだ?』

「顔面にキツイ一発当ててやるってのはどうだ?」


 どうせ正面だし。そう言ったら。『よし、そうしよう』とベルさんは乗り気だった。 

 ナビがロックオンを報せる。俺は操縦桿のボタンを押し込んだ。


「トロヴァオン1、発射!」


 噴進弾が火を噴いて機体を離れた。相次いで僚機が噴進弾を発射。白い煙を引いて鋼鉄の槍がフォルミードーへと伸びていく。

 あれだけデカい図体だ。回避は無理だろうな、と俺は噴進弾の航跡を見つめ、その瞬間を待った。


 着弾。超巨大飛竜の頭や胴、翼に二〇の花火が咲いた。


 絶叫が大気を震わせた。果たして、フォルミードーの叫びはどこまで響いただろう。コクピットキャノピーごしにも聞こえた咆哮。しかし、巨大飛竜は落ちない!


『効かない……!?』


 アーリィーの驚きの声。マルカスも『当たったはずだ!』と声を上ずらせた。ベルさんが言った。


『どう思うよ、ジン?』

「当たったのは間違いない」


 が、二〇発も喰らってふらつきもしないとは。しかし爆発により外皮の一部が飛んだのは見えた。うっすらと煙が晴れれば、命中箇所がめくれ血が出たようで赤くなっている。


「外皮を貫かずに表面で爆発したんだろうな……」


 まったく効かなかったわけではないだろうが、表面で爆発するのと、肉をえぐって中で爆発するのでは当然与えるダメージに差が出る。

 貫通力不足、ということか。あれで硬い外皮をお持ちということだろう。


「そうなると、次の手は、一点集中攻撃だな」


 急所となりそうな部分を狙うか、一発当てて外皮を吹っ飛ばして肉がむき出しになったところに立て続けに当てる。


『ジン!』


 アーリィーの警告するような声。

 正面、フォルミードーが着地するように足を下ろしたのだ。まるで二本の足で立つような姿勢になったが、翼は羽ばたいたまま――それはさながらヘリのホバリングのような空中静止。その巨大な目はこちらを睨んでいる。


「各機、注意しろ、何か仕掛けてくるぞ!」


 次の瞬間、フォルミードーがひときわ強く羽ばたいた。突風を叩きつけるつもりか!?


「各機散開!」


 とっさに叫んでいた。10機の戦闘機は正面を避けて、四方へ回避運動を取る。わずかな間を置いて、機体が衝撃波を喰らったらしく振動した。シートベルトはしていたが、まるで軽い地震に遭遇したような揺れだった。


 ちら、とディスプレイに目をやり、ナビによる被害状況を確認する。――異常なし。風に煽られただけだ。


「誰かやられたやつはいるか!?」


 確認で呼びかければ、それぞれから損傷なしの報告が返ってきた。生身で喰らっていたら吹っ飛ばされていただろうな。さすが伝説の飛竜、一筋縄ではいかないらしい。


「各機、上昇! 俺に続け!」


 スロットル全開。加速するトロヴァオンは高度を取る。アーリィーの二番機、マルカス機が続き、ベルさんカスタム、ドラケン、ファルケが列を形成して追尾する。

 フォルミードーは元の飛行態勢に戻り、南下を再開する。おや、今の突風で俺たちをどうにかしたと思ってるのか? それとももう眼中にないか?


 ある程度高度をとった後、機体を(ひるがえ)し、旋回。そしてフォルミードーの背中に向けて降下する。残弾まとめてぶち込みたい衝動に駆られるが、そいつは我慢。一点集中攻撃で、まず叩き落すのが先だ。


「トロヴァオン・リーダーより各機、噴進弾攻撃だ。フォルミードーの右の翼、その付け根を狙う。まずは俺が当てるから、後続機はそこを狙って攻撃しろ!」

『了解』


 仲間たちの返事を耳朶(じだ)に受けつつ、俺の視界はすでにフォルミードーの巨体でいっぱいになっている。みるみる距離が縮まっているとはいえ、なんでデカさだ。


「ワイバーン退治のコツ。空を飛ぶのに二枚の翼が必要というなら、その片方を叩き折れば――」


 ロックオン。ミサイル発射!


「飛び続けることができず、墜落する!」


 トロヴァオンの後部下面の武器庫(ウェポンベイ)から噴進弾が白い尾を引いて落とされた。接近しているので、爆発の衝撃に巻き込まれないように機首を起こす。

 フォルミードーの翼の付け根――人間に例えるなら、腕を繋ぐ肩にミサイルが着弾、その外皮とわずかばかりの肉、血を撒き散らす。


 離脱機動を取りながら振り向けば、アーリィー機が噴進弾を発射し、むき出しとなっているフォルミードーの傷口に的確に命中させる。肉をえぐり、より深いところで爆発することでさらに肉片が飛び散り、超巨大飛竜が狂ったような声を上げた。

 傷口に塩を塗られるのは痛いよな。えぐられればなお痛い。


 そこへ容赦なくマルカス機、ベルさんのドラケン・カスタムとフォルミードーの急所となった右翼付け根にミサイルを叩きつける。

 肉を削り、骨をひび割れさせ、そして砕いた。

 トドメの爆発は完全に右の羽を切断し、フォルミードーはその巨体を急激に落下させ、あっという間に地面に激突した。


 派手に大地が揺れ、土煙が上がる。滑るように地表を削り、その身をめり込ませながら、超巨大飛竜の身体はやがて止まった。

 咆哮(ほうこう)が木霊する。まだ生きてやがる!


『どうする、ジン? もう噴進弾の残りはゼロだぞ!』


 ベルさんが言った。噴進弾を10発搭載するトロヴァオンですら、残り2発。ファルケはもちろん、ドラケンも使い切っている。


『あと6発であれを倒せるの?』


 アーリィーも不安げに言ったが、俺は誰も見ていない中、首を横に振った。無理だろう、ミサイルでは。


「だが、噴進弾はもう必要ないよ」


 俺は単機で緩やかに機体を降下させる。地面でのたうち、恨みがましい絶叫を響かせるフォルミードーへと近づく。


「地上に落ちてしまえば、戦闘機ではなくてもいいわけだからな」


 速度を落とし、浮遊魔法での空中静止。キャノピーを開けると、生温かな風が吹き込んだ。俺はシートベルトをはずし、ストレージからDCロッドを取り出すと、その先端を超巨大飛竜に向けた。


 魔力チャージ。膨大な光が杖の先に収束する。


「飛べない飛竜など、ただの的だ」


 光の掃射魔法バニシング・レイ。絶対に外しようのない光がフォルミードーに炸裂した。

裏話:実はフォルミードーは熱線放射が可能だったのですが、範囲攻撃(突風)を優先したら結局使う暇がなかった。

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