第349話、エンゲージ
ワイバーンの群れ。全長10メートルを軽く越え、幅に関しても二十メートルはあるだろう空トカゲどもは三つのグループに分かれて南下しつつある。
目標第一群10頭、第二群は9頭、最後尾の第三群は11頭。
まず先頭の第一群を狙う。俺たちとあちらさんは、正面から突き進んでいるので、いずれは衝突する。
本来、戦闘機同士では正面から撃ち合うな、という鉄則があるが、相手は戦闘機ではないのでさほど気にしない。なにせワイバーンは正面に撃つ飛び道具を持っていないからな。
各機、誘導噴進弾を一発ずつ使って、攻撃する。10機が一発ずつ撃てば、はずさなければ、それで第一群は全滅だ。
誘導の仕組みはこうだ。機体に搭載されたナビが、魔力レーダーで捉えた標的を、ミサイルの誘導装置に転送する。この誘導装置もまたコピーコアであり、ミサイルを制御、ロックした相手に誘導、激突する。
俺の世界でコンピューターにやらせることは、全部コピーコアに押し付けている格好である。なに、向こうだって全部機械にやらせているのだからどっこいだ。
ナビがワイバーンのロックオンを報せる。戦術リンクで繋がったナビが味方機のロックオンが完了したことを伝える。
「全機、ミサイル発射!」
俺は操縦桿についているミサイル発射ボタンを親指で押した。トロヴァオンの右ウイングに搭載している誘導噴進弾が一発切り離され、次の瞬間、噴射炎と煙を引きながら飛翔した。
10機の戦闘機から発射された10発のミサイルは、ワイバーン第一群へと迫る。緊張の一瞬。正面から飛来するミサイルに反応して飛竜どもが急回避を試みるのではないか?
そのワイバーンどもが頭をずらした。続いて身体の方向を変える。猛スピードで突進してくる飛翔体に気づいたのだ。このままでは衝突することを察し、回避機動を取るが、もう遅い!
横を向いたことで、頭ではなく胴体に命中したミサイルが、その体内で爆発する。直撃を受けた飛竜が哀れにも空中で四散し、または翼を吹き飛ばされてきりもみしながら落ちていく。
七、八……九、十! ミサイルは全弾が飛竜の身体に直撃か、その至近で爆発した。約半分の個体が粉々になり、残りは身体や翼の一部を食い破られたように失い墜落する。
即死しなかった奴がいるな……。落下してそのまま激突死するのもいるだろうが、生き残る奴がいるかもしれないな。
が、いまは飛んでる奴だ。一挙に10頭が血祭りに上げられたことで、他の飛竜どもの動きが慌しくなった。
「トロヴァオン・リーダーより、ドラケン、ファルケ各隊へ。ドラケンとファルケの第一編隊は敵第二群を攻撃しろ。トロヴァオンとファルケ第二編隊は第三群を相手にする!」
『了解、トロヴァオン・リーダー』
『了解したトロヴァオン。……ジンよ、そっちのほうが多くないか?』
「そう思うなら、さっさと片付けて手伝ってくれてもいいんだぞ?」
念話の向こうでベルさんが笑った。
10機の戦闘機は二手に分かれる。飛竜たちもこちらに正対して対決の姿勢を見せる。さすが獰猛なる空の魔物。あの程度ではビビらないか。
「トロヴァオン各機、ミサイル第二弾用意。一気に三発。ナビ、複数ターゲットへの同時ロック!」
『了解』
ナビが再びロックオンの行程に入る。今度は同時に3頭の飛竜を狙う。戦術リンクも行い、二番機、三番機とも標的が被らないようにする。
これで9頭。ファルケが二機ついているが、こちらはミサイルを撃たせない。小型機ゆえ、ミサイルを三発までしか積めず、残りは二発だからだ。一方、トロヴァオンは翼に計六発、胴体内ウェポンベイに四発の合計十発を搭載している。
グングン距離が近づく。お互いに向かい合っているので、接近するのも早い。あまり近づき過ぎると、ミサイルが命中コースに乗る前にすれ違ってしまう可能性も出てくる。もたもたできない。
ロックオン。誘導噴進弾――魔石弾頭ミサイル、発射!
俺に続き、アーリィー、マルカス機も噴進弾を放った。直進するワイバーンは正面からミサイルを喰らい、頭を貫かれて爆散する。三、四頭と俺たちのもとに到達することなく煙を引き、血しぶきを巻いて落下していく。集団の後ろのほうにいたワイバーンが逃げようとしたが、さらに三頭ほどが避けきれず撃破される。
が、二頭がからくもミサイルの直撃をかわすことに成功したようだ。初めから狙わなかった二頭を含め、第三群は四頭となる。
すでに双方、目と鼻の距離にまで近づいていた。ミサイルは近すぎてロックしても当たらない率が高い。
「このまま真っ直ぐ突っ切る! 続け!」
俺は魔力通信機で呼びかける。トロヴァオン、そしてファルケ2機は全速力でワイバーンのあいだを突き進む。至近を飛竜の翼がかすめたように見えたが、実際はそこまでギリギリではない。
マルカスからの魔力通信が俺の耳朶に響く。
『後ろに回りこまれるぞ! 旋回しないのか!?』
「わざわざ格闘戦に応じてやる必要はないぞ! 振り切れ!」
俺は咆える。『しかし……!』というマルカスに、俺は続けた。
「俺たちは騎兵だと思え。一撃離脱だ!」
トロヴァオンは、空中格闘戦もこなせる戦闘機だが、小回りは生物であるワイバーンのほうが上手だ。一方で、スピードはワイバーンを軽く凌駕している。旋回しての格闘戦を挑むより、一撃離脱に徹したほうが、はるかに楽だ。
追尾してくる飛竜ども。空中戦では後ろについたほうが有利というが、ワイバーンは飛び道具がないので追いつかれなければ怖くない。
「ファルケ3、4。編隊ごとの飛行に移る。隙を見せたヤツからヒット&アウェイで叩く」
『了解、トロヴァオン・リーダー』
ファルケ2機が、俺たちトロヴァオン小隊とは別方向へ機首を向ける。さてさて、追って来るワイバーンは……。
俺が敵の動きを注視していると、二頭が追尾を諦めたが残る二頭が、こっちを追いかけてくる。とはいえ距離が開きつつあるので、直に諦めるだろうが……その前に、追手がないと見たファルケ3と4が旋回し、俺たちを追う敵の後方へ取り付くと、サンダーキャノンを浴びせた。紫電の如き電撃弾が、ワイバーンの胴を穿ち、翼を引き裂き、たちまち叩き落す。
『敵飛竜、排除』
「グッジョブだ、ファルケ3、ファルケ4」
俺たちトロヴァオン小隊も反転、戦場へ引き返す。追尾を諦めた二頭のワイバーンが右往左往している。
「トロヴァオン2、3。あいつらを仕留める。一撃離脱だ。俺がカバーする」
やってみせろとばかりに僚機に割り振る。アーリィー、そしてマルカスのトロヴァオンがワイバーンの側面から後方へととりつくと、搭載されたサンダーキャノンが火を噴いた。
だがワイバーンもまた危険を感じて振り切ろうとスピードを上げた。初弾はかすめただけではずれた。追い越してしまう前に連続攻撃を――俺が見守る中、二人はそれぞれのワイバーンに再度の攻撃をかけ……。
アーリィー機の電撃弾が、ワイバーンの翼の付け根を撃ち抜いた。バランスを崩してきりもみ落下していく飛竜。片翼を失っては復帰は不可能、そのまま地面に叩きつけられ絶命した。
「ナイスショット、アーリィー!」
さて、マルカスは……こちらも一頭のワイバーンを撃墜した。だが速度が落ちている。あいつ、追い越さないようにスピードを落としやがったな。
「グッド・キルだマルカス。だがあまり減速をかけるな。他に敵がいたら狙われるぞ」
『ああ、すまない。しかし、追い越してしまうところだったんだ。仕留め損なってしまう』
「そういう時のためにカバーがついてるんだよ。空中で速度を失うことは自滅するものだと思え」
近くに他の飛竜がいなくてよかったな、ほんと。
敵第三群は全滅した。ベルさんたちが相手をしている第二群は……っと、こっちもほぼ終わりそうだ。ベルさんのドラケン・カスタムが最後のワイバーンを追い回してミンチに変えていた。
あれは主翼に装備した魔力刃だな。戦闘機にあるまじき空中格闘用武装で、すれ違いざまの斬撃で敵を切り裂く。空中衝突の危険性が高くなるから俺は装備を見送ったんだが……。まあ、ベルさんだからね。
ともあれ、これで飛竜は全滅か。だが安堵する間もなく、魔力通信機が音を立てた。
『トロヴァオン・リーダー。こちらホーク7。南下する巨大飛行体を発見。未確認なれど、大きさから推定、フォルミードーの可能性大』
ちなみに、飛竜の編隊の発見を通報した偵察鷹と、フォルミードーを通報してきた偵察鷹は別個体です。




