第347話、哨戒飛行
やることと言うのは、戦闘機の慣熟訓練を兼ねた哨戒飛行である。
いくらアシストがあるとはいえ、扱うのはパイロットである。常日頃から飛行したり、訓練をしなければ、その腕前も下がると言われている。……もとの世界にいた頃、そう聞いた。
だから哨戒飛行も、己の技量向上や機体の特性を掴むために利用するのである。
それに哨戒飛行中は、位置にもよるが拠点から飛ぶより早く、通報に対応できる。
この哨戒任務は交代で行われた。
トロヴァオンは俺が小隊長となり、2番機をアーリィー、3番機をマルカスに預けた。
マルカスは以前、俺が戦場に行くなら同行するのが騎士だ、と言っていたからわかるが、アーリィーもまたパイロットとして飛竜退治に積極的だった。理由を聞いたら――
『ボクも王族の端くれだからね。国の危機には率先して戦うべきなんだ』
王子だったころの教育の影響だろう。後方でお姫様をしていてもいいんだけどな。ただ俺はアーリィーの意志は尊重したいと思っている。
それに、実のところ、操縦の腕前はアーリィーのほうがマルカスより上だったりする。ちょっと意外だったんだけどね。
昔、空戦ゲームで覚えた空中技を説明したら、アーリィーの理解力は早かった。マルカスが「何でそんなにわかるんですか?」とアーリィーに聞いたことがあるが、彼女は「イメージかな」と答えていた。……以前、『子供の頃、空を飛びたいって思っていたから』と言っていたが、それも影響しているのかもしれない。
少々脱線したので話を戻す。
ドラケンについては、ベルさんカスタムと一般機に性能差が出たため、ベルさん単独かファルケ2機が支援につく。一般機は2機で1編隊とする。ちなみに一般機のパイロットはSS兵である。
残るファルケは2機で1編隊、それが2組となる。
そんなわけで機種ごとに隊を作ったわけだが、俺たちトロヴァオン小隊の面々は、魔法騎士学校通いなので、哨戒飛行の頻度は落ちる。学業との両立は大変だ。
一方でSSパイロットやファルケは、着々と飛行時間を積み重ねていった。
我がベース・レイド航空隊で初戦果を上げたのは、ファルケ第2編隊。単独で侵入したワイバーンに追いすがり、サンダーキャノンを連続で叩きつけてこれを撃墜した。
ファルケ搭載のコピーコアの撮影した映像を後で俺たちも見たが、サンダーキャノンは標準サイズのワイバーンに充分通用した。
その翌日、珍しく哨戒任務に志願したベルさんが、侵入したワイバーンを撃墜。その二日後、俺たちトロヴァオン小隊も飛竜と交戦、これを撃ち落した。
・ ・ ・
「ワイバーンの侵入件数が増えているな」
ベース・レイドの司令室のある建物。魔石照明が照らす室内は、モノをあまり運び込んでいないので最低限の家具しかなく、殺風景な印象を与える。
机の上に広げられた北方地域の地図を俺は睨む。スカウト・ホークが持ち帰った地形記録をもとに、その地図は正確性を増していた。
スフェラが地図上に飛竜との交戦地点に目印となる駒を置いていく中、メイド姿のサキリスがトレイを持ってやってきた。
「ご主人様、コーヒーです」
「ありがとう」
湯気を立てるコーヒーカップを受け取り、俺は、サキリスの顔を見つめる。
「疲れてないか?」
「いえ、わたくしのことなど……。ご主人様たちの苦労に比べたら――」
「ワイバーンの死体回収をやってもらってるからな。結構、重労働だと思うが」
そうなのだ。ベース・レイドに配備されたTH-1ワスプヘリは輸送コンテナを搭載し、戦闘機隊が撃墜したワイバーンの死体処理を行っていた。サキリスはSS兵らと共に処理ならびに魔石や素材回収作業を指揮していた。
拾えるものは拾う主義なのは冒険者ならではであるが、そのためにサキリスには苦労をかけているのである。こういう裏方の存在が大事なのだ。
何かご褒美を用意しないといけないな。
「で、ワイバーンの侵入件数が増えている……そうだな、ジン」
マルカスが言えば、俺は首肯して答えた。
「ああ。ここ三日のあいだに侵入した敵は10頭。それ以前は単独だったが、いまは二頭、三頭と組んで移動しているパターンが増えてきた」
「今後、さらに群れで来る可能性があるわけだな」
ベルさんが地図の上を歩く。隣国から、ヴェリラルド王国方向へ。アーリィーが顎に手を当てる。
「ワイバーンは他の方向にも移動しているのかな? その、この国以外の方向とか」
「その件でしたら――」
すっとユナが手を挙げた。これまで黙っていたから気づかなかったが、いつの間にか来ていたらしい。
「季節は秋ですから、より温かな場所へ狩り場を求めて南下していると思われます」
「迷惑なことだ」
俺はコーヒーをすする。
「例年より今年はワイバーンの数が多いということだが?」
「ええ、いつもの年でしたら、国を越えて飛来すると言ってもせいぜい一桁。ですが今年はすでに二桁ですから」
王都方面だと一頭現れただけで大騒ぎになっていたようだが、北方ではそれよりも飛竜が多いんだな。そのわりに迎撃方法はお粗末なままだから呆れてしまうが。
ジャルジーがミサイルランチャーに歓喜したのも、毎年それに悩まされてきたからなんだろうな……。
シェーヴィル王国は、とんでもなくヤバい状況なんじゃないだろうか。大帝国の軍勢がこちらへの年内侵攻を諦めざるを得ないというのも、何となくお察しである。
再び視線は地図へ向かう。
すると、司令部の専用端末に収まっていたコピーコア『レイド』が光った。
『ホーク8より受信。「ワレ、多数ノわいばーんヲ発見。三群ニ分カレ、けーにぎん領ニ接近シツツアリ。総数三〇頭」』
30頭ものワイバーン!? 司令部にいた一同に緊張と驚きが走った。おいおい、ちょっと洒落になってないんじゃないかね、この数は。
「ジン」
ベルさんに続き、仲間たちが俺を見た。言うことは決まってる。
「戦闘機隊、全機出撃だ!」




