第345話、新兵器のお披露目
クロディスまでの行きは戦闘機、帰りはポータルだった。
そのまま、ジャルジー公爵とその部下フレックを連れて、ウィリディス屋敷内を進む。
「お帰りなさいませ」
クロハらメイドたちの出迎えを受け、晩餐の準備を頼む。新兵器のお披露目を前に、冷たいブドウジュースを提供。よく冷えたブドウのジュースをゴクゴクと飲み干すジャルジー。フレック騎士長は、冷やされたジュースの味に驚き、じっくりと堪能した。
「美味でございますな。しかしよく冷えている……」
「冷蔵庫と言って、モノを冷やす魔法具がある。これでエールを冷やすと格別だよ」
俺が言えば、フレックはゴクリと喉を鳴らした。ジャルジーは口もとに笑みを浮かべた。
「いまは飲めないのか?」
「晩餐の時にどう?」
「ぜひ!」
それから、俺たちは屋敷の玄関を通って外へと出る。
視界に広がる泉と、上の台地から流れる水の壁。屋敷との間に、小さな道があり、そこには魔法車が待機していた。SS兵が見張りに立っていたが、俺が近づくと下がっていった。
シープの運転席に俺は乗り込み、ジャルジーは助手席。フレックと同行するアーリィーが後ろの特設席に座った。エンジンはすでにかかっていて、俺はハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。
「これから向かうのは演習場だ。そこで新兵器を見せるよ」
「いったいどんな武器なんだ?」
当然の質問だったので、俺は先に概要だけ伝えることにした。
「誘導噴進弾。狙った標的に遠くから攻撃する武器だよ。その標的が動かなければ、百発百中」
「百発百中!?」
ジャルジーは目を剥いたが、すぐに驚きを引っ込めた。
「いや、弓やクロスボウでも、的当てなら百中の腕前を持つ者もいる。しかし、ワイバーンに有効な武器なんだよな?」
シープはウィリディスの地を走る。遠景に緑豊かな森林。初秋の日差しが柔らかく降り注いでいる。ほぅ、と後ろでフレックが感嘆の吐息を漏らした。美しいところですね、と無骨な騎士長は感想を言った。
やがて、演習場に到着する。
そこにはすでにSS兵らがいて準備を整えていた。フレックは、ウィリディスの守備兵をしげしげと観察し、ジャルジーもまた首をひねった。
「先ほども一人見かけたが、ずいぶんとここの兵たちは変わった格好をしているのだな」
「動きやすさを優先しているんだよ」
やや現代兵士の趣向の入った軽鎧姿のSS兵たち。その素顔は黒い兜に覆われているために年齢も推し量れない。一応、肩口に階級章というか識別用の横線が引いてあったりする。
「分隊長、用意は?」
『いつでも』
「やってくれ」
分隊長と呼ばれたSS兵は、部下のSS兵に合図した。俺たちから三十メートルほど離れた場所に立っていた兵が肩に筒状の物体を担ぐと、その視界前方にある的――百五十メートルほど離れたそれに、筒の先端を向けた。
次の瞬間、筒の反対側が火を噴いた。
突然のことに、ジャルジーは身構え、フレックはとっさに公爵を庇うように前に出た。……大丈夫、ここまで噴射の炎は届かないよ。
筒状の物体――ランチャーから飛び出した飛翔体は炎と煙を引きながら飛んで行き、小さく方向を調整したかと思うと、的に激突、そして爆発した。
轟音と共に的の後ろに積み重なっていた岩ブロックが砕け、派手に吹き飛んだ。
「おおっ……」
ジャルジーは絶句した。俺自身、すでに何度か試射で見た光景なので今更驚かない。
「対飛竜用誘導噴進弾。あれが直撃したら、並みのワイバーンはどうなるかな?」
「……」
「おそらく、爆死するかと」
声も出ない主に代わり、フレック騎士長が何かを押し殺したような声を出した。
「あれは魔法なのですか? ジン様」
「推進に魔力を燃焼させているから、魔法と言えば魔法だが違うと言えば違う」
俺は、別のSS兵にランチャーと弾頭である噴進弾を持ってこさせる。
「これは魔法が使えない兵士でも使えるれっきとした武器だよ」
「当たった瞬間、爆裂魔法が発動したようにも見えましたが……」
「ああ、弾頭に魔石を仕込んでいてね。衝撃を受けると魔石内の魔力を全部使って爆裂魔法が発動する仕掛けになっている」
実は一番先頭にはコピーコアによる誘導装置が仕込まれていて、それがロックした標的に誘導するように作ってある。が、それを外部の人間にコピーコアのことを言うつもりはないので黙っておく。
「ま、魔石を仕込んだだと……!?」
ジャルジーが声を上げた。
「す、するとあの一撃に、魔法使いの杖の触媒に等しい魔石を使ったと言うのか!? それもたった一回使っただけで吹き飛ばした?」
「そういうことだ。だからあれ一発で、並みの民家が一軒建つくらいの金が飛ぶぞ」
「……」
またも絶句するジャルジー。フレック騎士長は、いつもの調子を取り戻して言った。
「しかし、その使い方はいささかもったいなくはないですか?」
「誰でも使えて、ワイバーンを殺せるという条件で作ってるからな。もう少し安く作れるだろうが……高性能な火薬の作り方を知っているなら」
実は、サフィロの素材生成で火薬も作れるが、そちらはまだ試験運用中でまだ実戦では使えない。爆発物だからね……。
SS兵が持ってきた噴進弾を受け取り、俺はジャルジーらの前でそれを見せる。ジャルジーはじろじろと異形の武器を見つめた。
「先端は槍のようであり、後ろは矢のようでもある。形としては不恰好ではあるが、なるほど矢ではなく槍を飛ばすのであれば、確かに威力もあるというもの。それに爆裂魔法を仕込む……」
「かなり値が張るが、これまでに比べて、ワイバーンへの勝率は上がると思う」
「劇的にな! ジン、これは凄い武器だぞ!」
若き公爵殿は声を張り上げた。
「元来、魔法は遠距離の攻撃は苦手だと聞いている。届くまでに魔力が減退してしまい、効果が落ちてしまうためだ」
よくご存知で。ジャルジーも多少魔法の心得があるのだろう。
「だが、この距離であの威力。Aランク魔法使いでもこの威力は出せまい。それも魔法使いでなくても使えると言う。……ジンよ、オレでも使えるのか?」
「もちろん、そこにいるフレック騎士長でも、アーリィーでも使える」
俺はランチャーを持った。
「こいつの威力はわかってくれたと思う。あとは監視網と、迅速に駆けつけるための拠点を作りたいんだが……許可してもらえるだろうか?」
「ああ、この火力なら……。いいだろう、許可しよう」
よしよし、これでひとつ前進だ。
その後は屋敷に戻り、拠点の場所を含めて会談。時間となったので晩餐となった。
ここ最近毎日通っているフィレイユ姫殿下に加え、今日は姉であるサーレ様も一緒にウィリディス屋敷へとやってきた。
「ジャルジー様、いらっしゃったのですか?」
「ご無沙汰しております、フィレイユ姫。それにサーレ様。本日は一段とお美しい……」
「あら、ジャルジー様。褒めていただいても何もでませんよ」
サーレ姫は穏やかに応じた。当然の如く、我が家の晩餐で王族や公爵をもてなし、しばし歓談。本日のデザートはひんやりバニラアイスクリームにございますよっと。……牛乳にバニラエッセンス、卵、生クリームがあればできる案外お手軽なデザートだ。お菓子作りが趣味だったおふくろに感謝。あと食材生成可能なサフィロにも。
冷たい口溶けアイスに一同に感動していただけた。
なお、ジャルジーには冷蔵庫をプレゼントしてやり、ポータルを通じての食材の流通販売の契約を結んだ。タダではやらないよ。




