第333話、試行錯誤と初操縦
試作ヘリ1号は、一応飛行したが課題もあった。
問題となったホバリングについて、テストパイロット君の証言を検討した結果、やはりラダー操作――いわゆる機首の方向制御が弱すぎるのが原因と判明した。
パイロット君曰く、上昇しようとすると機体が右方向へ曲がろうとする。降りるときは逆に左方向に曲がろうとする。ローターの回転に対する反作用が影響しているのだが、それを調整できるようラダーペダルがついている。が、実際飛ばしたところ、その効きが弱かったために静止できなかった。
何故弱かったのか? 風の影響が考慮されていなかったからだ! 当たり前だが、空にだって風は吹いている。
またヘリの挙動はローターの回転によって変化するが、スロットルとの同調に関して、お粗末過ぎて実際に飛ばしたらお話にならないレベルだった。
再度検討。まったく、シェイプシフター君はよくも事故らずに戻ってこれたもんだな! 自分の未熟さを痛感する次第だ。
失敗は成功の母である。
そんなわけで操縦系統を調整。ゲームやラジコンのようにはいかないということだな。
新たに改造された試作1号改は、その後もテスト飛行を繰り返すことになる。ローターの回転とスロットルの調整もだんだんわかってきて、空中での挙動も安定し、テストパイロット君はホバリングを成功させるに至った。
やったぜ!
テストパイロット君のヘリ操縦スキルは上昇していった。それは他のシェイプシフターたちに伝わり、彼同様の操縦技術を獲得した。メイドシェイプシフターのひとりである、ヴィオレッタを試しに乗せたら、彼女は初操縦とは思えない飛行技術を披露した。……くそ羨ましい。
シェイプシフターの操縦技術を利用して、オートパイロット機能でも持たせるか!
それをスフェラと話していたらダンジョンコアが、コピーコアを載せて学習させてはどうか、と提案した。
もともと、サフィロは魔法車の動力補助として載せていた時期があったが、運転もそこで覚え、今では自動運転能力を持っていた。ヘリなどにもコピーコアを搭載すれば、そこで操縦を習得し、制御できるようになるのではないか……。
採用だ、このヤロウ。
というか、もっと早く実行していればスロットル調整とか楽になったかもしれない。
しかし、便利だな、コピーコアは。スクワイアゴーレムやバトルゴーレムのコアにもなるし、車の自動運転、先日の監視コア、カメラ等々……。
こりゃ、コンピューター代わりとして、もっと色々応用できるかもしれない。せっかくあるのだ、もっと色々なものに利用していこう。そうしよう。
かくて作り出された試作ヘリ二号。最初から改良された操縦系統を持ち、ローターなどを調整した型に、コピーコアを搭載して再度の試験飛行。操縦スキルを持ったシェイプシフターたちの動かし方から、搭載コアは操縦を学習していった。
ある程度の安全性を確認した頃、俺もさすがに自分の手で操りたいという欲求をこらえられなくなってきた。最初は反対していたアーリィーたちもようやく許可してくれたので、シェイプシフター君の実機の操縦経験を聞いて、ようやく俺の初飛行とあいなった。……墜落した時の保護用に防御魔法具を身に付けてだ。安全対策は必要だ。
高い! 風が当たる! 予想の範囲内だからバイザー付きヘルメットを被ってはいたが、さすがに何もつけないとキツイだろうな。コクピットを覆うキャノピーが欲しい。こいつは高所恐怖症の人間なら卒倒ものだな!
外から見るのと、実際に動かすのとはやはり感覚が違う。シェイプシフター君が、初飛行でもたもた操縦していたのもわかる。風や抵抗を受けながら、ホバリングするのは結構大変だし。
つーか、操縦桿とレバー、そしてペダル操作で忙しい。車などと違って、全部をほぼ同時に操らなくてはならない。何がシンプルな操作方法だ。空中制御している間に、機体は思いのほか移動しているし!
搭載したコピーコアが操縦を学習していたおかげで、大きなヘマはしなかったが、俺個人としては不満の残る初飛行となった。もう降りるときは地面近くで浮遊魔法の機能を使って、そのまま着陸したし。ちゃんとモノにするには練習が必要だ。
・ ・ ・
そんなこんなしてたら、アクティス魔法騎士学校の夏休みも、残すところ五日となっていた。
ウィリディスの本格開拓から、はや三週間が経ったわけだ。時の流れは速い。
だがヘリコプターの作成ばかりに時間を使っていたわけではない。屋敷から地下通路を通じて繋がっている地下格納庫区画の拡張、さらに仮駐機場の本格整備。
シェイプシフター兵たちのための武装の開発。正確には魔石拳銃以上の武器、魔石小銃や対装甲貫通武器などの配備である。……ゴーレム戦で攻撃力不足を痛感したからね。
なお部品作りには、シェイプシフターたちを手伝わせている。魔法文字などは刻めないが、素材を削ったり部品を組み上げたりはできる。
魔法車の生産。とりあえずは、俺の世界でいうところのクラシックな軍用ジープのような外見の四輪魔法車を作った。
魔石エンジンを前部ボンネットに搭載。運転席と助手席を標準装備。後部スペースに座席を用意してさらに2人定員を増やすこともできるが、ふだんは貨物スペースだ。牽引装置をつけてカートに貨物を載せて運ぶことも可能なようにした。
搭載したコピーコアが自動で運転することもできるし、シェイプシフター兵たちが運転することもある。
名前は、羊――シープとした。ジープに似てるからシープなんて駄洒落かと。
いまのところ、マルカスが運転を覚えつつあるが、すでに運転できるユナやアーリィー、サキリスが使うことも考えて、五台が稼動状態にある。
これらは例のいにしえの魔術師のダンジョンから大量の魔石を獲得したおかげだ。ヘリもそうだが、魔法車用のエンジンに使う魔石や、その他パーツの生成に消費する魔力にも魔石を使っている。それがなければ、こうも短時間でここまでのものを揃えることはできなかった。
ちなみにだが、いまウィリディス屋敷では米食が流行っている。サフィロの魔力生成で食材を作れるようになったから、おコメが生産できる。卵に醤油の卵かけごはんは、ベルさんのお気に入りだ。
「何より、丼モノはかきこめるのがいい!」
ベルさんが人型になって、勢いよくメシを食べる姿を見ているとわかる気がする。こっちの料理は洋食同様、パンなどは手づかみ、それ以外はナイフとフォークが基本だから、かきこむ、というのがない。
卵に醤油の組み合わせ、それをご飯と一緒に食べる――シンプルなのに美味い。忘れかけていた故郷の味よ!
なお生卵は危ないと、マルカスやサキリスに止められたのだが、コピーコアの素材生成で出来た卵だから心配するだけ無駄だと説き伏せた。たしかにこの世界の一般的な生卵は食中毒の危険性をはらんでいて、結構危なかったりする。
俺が現代日本流の料理を作り、それをクロハたちが学習しているが……。アーリィーやサキリスからは『働きすぎじゃないか』と心配された。
ヘリに車、家に格納庫、武器道具その他もろもろ、晩御飯を毎回作っている――でもまあ、作るのは趣味だし、言っては何だがこれは仕事ではないから俺自身は働いているというより、遊んでいる感覚なんだがな。だから疲れも苦じゃない。……アーリィーとは一緒にお風呂入って肌のふれあいをしてるし、ベッドでも休んでいる。
好き勝手やってるんだから、これもひとつののんびり生活じゃないか?
まあ、あと数日したら学校が始まって、ギルドとかに顔出して、仕事ってやつをすることになるんだろうが、な!
そういえば、そのアーリィーは、写真に凝りだしていた。
自分専用のコピーコア内蔵カメラを持つと、ウィリディスにある色々なものを撮り出したのだ。自然、風景はもちろん、俺たちの家、そこで生活する仲間たちの日常など……。
寝る前に、ベッドでアーリィーが自分の撮影した写真を見せてくれるんだが、俺の知らない仲間たちの一面がよく撮れていた。
例えば、暇な時間にベルさんがマルカスに剣術を教えていたり、クロハとサキリスがSSメイドらと試作料理を作って、時々失敗していたり。……あいつら、普段こんなことしてたのね。
趣味を持つことはいいことだ。俺はアーリィーの新たな趣味を歓迎した。
……だけど、俺の寝顔コレクションだけはやめてくれないか。




