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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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334/1947

第332話、ヘリコプターと記念撮影


 ヘリ試作一号は完成した。


 浮遊型鉄馬改――まあ、名前は後でつけるとして、実際に操縦士を乗せて飛ばしてみる。栄えある操縦士第一号は、シェイプシフター兵君である。


 始めは、俺がやるつもりだったんだけどね。科学の実験に失敗は付き物。大怪我や死亡もあるよね――なんて、晩飯を振る舞いながら冗談めかしたら、アーリィーやサキリスから洒落にならないほどの猛反対を受けてしまった。笑えない冗談だったと反省している。


 ちなみに、最近、晩御飯を作るのは俺の仕事になっている。調味料を手に入れてしまったがために、俺が作る料理がことごとく美味しかったせいだ。その日は合成肉ハンバーグ――合成肉とか書くとアレな響きだが、味は問題ない。


 いまクロハとサキリスが、俺の料理を必死に勉強して自分たちでも作れるように修練を重ねている。最初に作ったカスタードプリンなんか二人とも自力で作れるようになっていた。……何故なら、食後のおやつとして欲しがる人が多くてね。


 話がそれたな。

 さて、試作機を飛ばす前に、エンジンの駆動による軸の回転、メインローターのテスト自体は終わっている。耐久性も問題なし。間違っても、操縦士などで重量が増したせいで軸がはずれてローターごと彼方へ飛んで行ってしまうようなことはない。


 格納庫東口の平らに整地された仮駐機場に、試作ヘリが置かれている。操縦士であるシェイプシフター兵君には、操縦方法を叩き込み、操縦桿やレバーの動かし方のシミュレーション(人力)をたっぷりこなさせた。


 一人乗り、キャノビーはない剥き出しのコクピットである。浮遊型鉄馬ボディをもとに後部を拡張、エンジンに回転翼、テールブームとメインローターより小ぶりのテールローターが付いている。足回りはソリ型。車輪式でもよかったが、最初はそっちのほうがいいかなと思った。


 なお、仮駐機場に出すまでは、魔法車に専用の台車を牽かせて、それで運んだ。

 メイドのクロハを除く全員が、この試作ヘリの初飛行の場に立ち会った。

 製作過程を見たり見なかったりしていたベルさんが、鉄馬改を見やり眉をひそめた。


「なんで、こいつ尻尾ついてんの?」


 テールブームのことだな。胴体の後ろに真っ直ぐ伸びた尻尾――そこに一つ、小さな回転翼が縦についている。いわゆるテールローター。


「メインローターが回転するとな、その回転の逆方向に機体が回転するからだよ」


 だからテールローター式のヘリの場合、それがないとグルグルと機体が回転してしまって操縦どころではなくなる。そもそも乗り物として不可だ。……この世界に来る前、とある戦争映画を見たが、ロケットランチャーをくらってテールローター吹っ飛ばされたヘリが回転しながら墜落するシーンを見たことがある。

 尾部のテールローターは、逆回転しようとする機体の回転力を相殺している重要なパーツなのである。


「ふーん。……ところで、ジンよ。お前さん、その手に持っているのは何だ?」

「ん? ああ、カメラだよ」


 カメラ? ベルさんが首を捻れば、俺の隣でアーリィーが興味深げな目を向ける。


「また、新しい発明?」

「ああ、映像を残そうと思ってね」


 ぶっちゃけダンジョンコアが作るコピーコアである。

 きっかけとなったのは、監視コアをウィリディスの地に設置したときに遡る。あの時、設置された監視コアが捉えた視界データは、ダンジョンガーディアンであるゴーレムの姿を写し、それを他のコアへと転送した。


 ちなみに後日、本体であるサフィロが、その時の画像記録を再生してくれるのを見て、これはもうビデオカメラと同じじゃないかと思った。DCロッドだって、スキャンした地形記録をホログラフ状に表示できるようにしたり、魔力転写で地図にした俺である。むしろ、もっと早く気づくべきだった!


 そうとなれば、サフィロに作らせた小型コピーコアを画像記録装置化するのも、さほど時間がかからなかった。

 製作したカメラは手に収まる程度の小さな箱型に、半埋没状態でコピーコアが埋め込まれている。一見するとカメラのレンズのように。上部には映像録画用と写真撮影用のスイッチが付いている。


 コピーコアに持たせた機能は、画像記録とズーム機能、それと記録映像の投射機能のみに限定した。カメラ用コア製造魔力の抑制と、たっぷり画像記録の容量確保のためであり、それ以外の余計な機能はオミットした。……でも暗視機能はつけてもよかったかな、と思ったり。


 撮影した映像をビデオのように再生することもできるし、写真のように一場面を残すこともできる。魔力を表面に張った紙に画像を映し出すことで、写真にすることも可能だ――これは以前からダンジョンマップ作成に使っていたから、特に難しくはなかった。


 そんなわけで、俺はカメラを手に、そのレンズにもなっているコアを、試作ヘリに向ける。歴史的瞬間の記録映像――まあ、失敗したときの参考資料でもあるけど。 


 シェイプシフター君が魔石エンジンのスイッチを入れたらしく、試作ヘリの回転翼が回転を始めた。

 翼がまわり風を切る音が次第に大きくなる。対してエンジン音は、唸るような音がしているが騒音と言えるレベルではない。魔石エンジンは比較的静かである。


「さあ、うまくやってくれよ……」


 思わず口の中で呟いていた。シェイプシフター君が俺を見た。SS兵装備をまとい、ヘルメット型の兜で素顔はわからない。……まあ、彼らは顔を好きに変えられるのだが。そのシェイプシフター君が兜の耳元をトントンと叩く仕草をした。


 あ、いけね。俺は慌てて魔力通信機を耳につけた。ベルさんなどとは魔力念話が使えるが、SS兵とは魔力念話を使うときは専用の通信機が必要なのだ。


『マスター・ジン。エンジンに異常なし。発進指示願います』

「了解した。まずはゆっくり上昇しろ」

『了解。スロットルを上げます』


 回転翼がさらに勢いを増した。風が地面に吹きつけ、それが遠巻きに見ている俺たちのもとにも届く。サキリスやユナが風でなびく髪を抑え、巻き上がった砂埃に顔をしかめた。仮ではなく本格的な駐機スペースは舗装(ほそう)しておくべきだな。


 ベルさんが砂埃を嫌ってか、ユナに飛び乗ると、その大きな胸に顔をこすりつける。おいおっさん、どさくさに紛れて何やってんだよ!


 試作ヘリはなかなか飛び上がらなかった。まだ揚力が重量に負けているのだろう。シェイプシフター君は、ゆっくりとスロットルレバーを調整している。いきなり最大に上げて、ぶっ飛ぶのも危ないからだ。

 浮遊型鉄馬と同様、浮遊も可能なようになっているが、今回飛び上がるときはそれを使わないと事前に打ち合わせてある。きちんと回転翼で飛んでくれなければ意味がないからだ。


 そして、その時がきた。


 ふわり、とヘリが浮いたのだ。


「飛んだ!」


 アーリィーが声をあげ、まわりから「おおっ」と声があがった。

 一度浮かぶと、ヘリの上昇速度が速く感じた。ある程度飛び上がると、試作ヘリ一号の上昇スピードが緩やかなものに変わる。何だが機体が右方向に回転しているな……。


「パイロット君、空中静止(ホバリング)をやってみようか。スロットルを少し下げてそこから静止できるように調整しろ」


 了解――シェイプシフター君は、俺の指示に従い、ヘリを空中静止させるべく操作を行った。


「何だかふらふらしてるなぁ」


 ベルさんが呟く中、しばらく上下に揺れていたヘリはやがて、ホバリングを試したが、果たして成功と言えるものではなかった。機首が右へ左へとぶれているのはラダーが弱いからだと推測できたが、なんでこんなに上下にもぶれるんだ……?


 ホバリングは諦め、俺はテストプログラムに従って飛ぶようシェイプシフター君に伝える。空中でヘリは前進や旋回、後退を行い、上昇や下降などを一通り試したのち、仮駐機場へ着陸した。地面に接触するまでに、ちょっと時間がかかったがトラブルはなかった。


 テスト飛行は、墜落しなかった点では一応成功である。ホバリングがうまくいかず、飛行中も不安定だったところは限りなく失敗に近いが。


「やったね、ジン!」

「おめでとうございます、お師匠」


 アーリィーとユナが祝福の言葉をくれた。きちんと飛ぶヘリを知らない彼女たちからすると、飛んだだけでも成功に見えたのだろう。うん、まあ、ね……。

 おめでとう、と言われても、飛行する魔獣に騎乗したり、浮遊魔法がある世界だから、世界初の飛行ではないけど。


 そしてもうひとつ失敗したことがある。それは飛行中のヘリの撮影を俺が忘れていたことだ。飛び立つ瞬間と下りたところは撮影できたが、ほかは駐機場しか映っていなかった。


 ……記録係は別に用意したほうがよかったな。次からはそうしよう。

操縦桿=サイクリック・スティック

スロットルレバー=コレクティブ・レバー


ヘリ専門用語を思い出せないジンさん。

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