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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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254/1943

第254話、王都にて美女と


 ヤール村は小さな集落で、人口は一〇〇人に満たない。村の東側には広大な麦畑が広がっている。

 一応、自警団の建物があって、獣避けの石垣が村周辺に張り巡らされていたが、蟻亜人の集団に襲われたら、ひとたまりもない。


 まあ、ここを戦場にするつもりはないんだがね。


 領主であるジャルジー公爵とその一行の休息地としつつ、村に脅威が迫っていることを村長らに説明してもらう。


 俺はその間を利用して、ポータルを使って王都へと移動した。青獅子寮ではなく冒険者ギルドのほうへ。談話室のひとつが、ポータル専用部屋みたいになっているが、まあそれはいい。


 何人かの冒険者たちとすれ違いざまに挨拶をして、フロア内をキョロキョロと。エルフの魔法弓使いのヴィスタがいれば、と思ったがいなかった。

 副ギルド長であるダークエルフのラスィアさんに声をかける。


「お久しぶりですね、ジンさん」

「ラスィアさん、今夜、お時間あります?」

「……何です?」


 ふだん落ち着いているラスィアさんが、珍しく驚いたような表情になった。カウンター近くで聞いていたギルドスタッフが、そ知らぬ態度をとるように視線を逸らした。


「あなたは以前、腕の立つ魔術師だったとか。Aランクの冒険者で、ユナと同格の」

「以前、というか今もそうですけれど」


 少し眉をひそめられてしまった。俺は単刀直入に言った。


「もしお時間があるなら、付き合っていただけませんか?」

「え……っと、私が、ですか……?」


 戸惑うラスィアさん。


「これは……デートとかいうもの、ですか?」

「デート? ええ、まあ、似たようなものです」


 ケーニギン領までお出かけしましょ、というわけだから、あながち間違ってはいない。冒険者流の皮肉な言い回しというやつだ。


「都合はつきますか? あなたでないと困る」

「わ、私でないと、ですか?」


 それは――と、ほとほと困ってしまった様子のラスィアさんである。


「わかりました」

「よかった。では一時間後、ポータルの前で。武器と防具、装備を整えてくださいね。それじゃ」


 俺はそう告げて、カウンターを離れ、足早にギルドを出て行く。次の準備のために。



  ・  ・  ・



 どうしましょう!? デートに誘われてしまった――!


 ラスィアは久しく忘れていた胸のときめきを味わっていた。かの英雄、ジン・アミウールから、『あなたでないと困る』と言われてしまった。――でも待って。彼は人間で、私はダークエルフなんですけれど!?


 それにしても、いきなり何故デートに誘われてしまったのだろうか。それに彼は何と言っていたか……。武器と防具、装備を整えてと言っていたような?


「ダンジョンにでも行くんですかね」


 ギルド職員のトゥルペが小首をかしげた。どうやらジンとのやりとりを聞いていたらしい。


「冒険者って、ずいぶん凄いところでデートするんですね」

「……」


 ダンジョンでデートとか、ちょっとロマンチックではない。だが――とラスィアは思い直す。


 現ギルド長のヴォードやユナとパーティーを組んで冒険者として活躍した頃、ダンジョンや秘境の深部で、普通にはめぐり合うことの出来ないような絶景を見たことがある。……行き帰りは大変なのだが、デートとしてそう悪い選択ではないことも、場所によってはありうる。


 ――でも、なんで私なのかしら……?


 誘いを受けたものの、釈然としないラスィアだった。



  ・  ・  ・



 王都にある薬屋ディチーナ。周辺から『魔女』の異名を持つエリサ・ファンネージュのもとを俺は訪れた。最高級マジックポーションを五本、購入したいと告げた。


「あるんだろう? とびきりのマジックポーション」

「取っておきのやつがあるわよ」


 ふふん、と色香を振りまきつつ、彼女は俺の腕をとった。


「ちょっと洒落にならないくらいの虫が発生してね。そいつを退治するのに使う」

「また虫なの? あなた昆虫学者にでもなるのかしら」


 くすくす、と魔女は笑った。


「普通の人間なら、持て余すくらい魔力が回復するやつだから、程度の低い魔法使いなら無駄遣いもいいところだけれど……あなたなら別よね。でも高いわよ?」

「そういえば、あまり金に余裕はなかったな」


 公爵から軍資金もらっておくべきだったと、少し後悔。が背に腹は代えられない。




  ・  ・  ・



 一時間半後、夕焼け空の下、冒険者ギルドに戻った俺だったが、もちろんラスィアさんとの約束に遅刻した。

 ポータルのある談話室。ダークエルフの美女は机に資料を置いてカップのお茶を飲みつつ、お仕事モード。……キャリアウーマン風の横顔が素敵、とか思ってる場合じゃないね。


「遅れて申し訳ない、ラスィアさん」

「いいえ、いま来たところですから」


 資料から目を離さず答えるラスィアさん。はい、怒ってますこれ。いま来た人が書類に目を通しつつ、お茶飲んでるわけないじゃないですかー、やだー。


「すみません!」


 拝んでおく。ラスィアさんは、ふっと息を吐くと、書類を置いた。


「このまますっぽかされるかと思いました。仕事終わりにお酒を飲みに行くのが、最近の日課だったのですが」

「先約がありました?」

「あれば、そう言ってます。……私、これでも独身なので、あまりそういうこと言わないでください」


 ……結構、年齢気にしているご様子。ラスィアさん美人だけど、ダークエルフの年齢って外見じゃわからないし。


「それで、どこに連れて行ってくれるんですか?」


 ラスィアさんは微笑を浮かべる。服装はいつものギルド制服の上に胸を守るミスリルプレート。腰には薬などを入れるカバン。漆黒のマントを羽織り、手には赤いクリスタル状の魔石のついた杖を持っていた。

 戦える格好はしてきてもらえた。それに満足しつつ俺は答えた。


「ちょっと、ケーニギン公爵領まで」

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