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第251話、進撃する脅威


 フェリート伯爵領を荒し、ケーニギン領に迫る魔獣の大集団に関する報告を受けたジャルジーが言った。


(あり)の亜人というべきなのか。身長は一メートルほどらしいが、硬い外殻とよく切れるナイフのような武器を持って集団で襲い掛かってくるらしい」


 いちおう亜人なのか。あの一センチ程度の蟻の集団が敵だったら、どうしようかと思った。……ああ、グンタイアリとか結構凶暴さで恐れられている奴らもいたよなぁ。そんなのが小柄とはいえ子供程度の大きさで大挙してくるとか……。おお、こわっ。


「なるほどね。アリなら確かに20万もの大群でもまとまって行動できそうだな」

「ちなみに、こいつらが通った後には、人間はもちろん生物は何ひとつ残らないそうだ」


 そうだろうな。しかし、蟻の亜人ともなると、こりゃひとつの軍隊だ。


「いままでこんな種族は聞いたことがない。まったく未知の敵となるだろうな」


 ジャルジーが、ちらと後ろに控えている部下――フレック騎士長を見やる。


「は、学者に確認しましたが、実際に見ないことには断定はできないと」

「ダンジョンスタンピードの可能性は……ないか。未知の敵って言っていたもんな」


 俺はひとり首を横に振る。ただ20万前後の蟻亜人が、いきなり大発生することなんてあるのだろうか。ダンジョンコア――魔力さえあれば、可能といえば可能なんだがな……。

 ジャルジーは騎士長に問うた。


「こちらの戦力は、どの程度集まる見込みだ?」

「領内の各所に通達を出したばかりですから、正確な数字ではございませんが、5000は確実に。二線級の予備も動員をかけますれば1万は集められるかと」

「それでも20分の1程度か!」

「閣下、それもこの数日でクロディスへ集結できるかも怪しいところです」


 フレック騎士長は沈痛な表情だった。領内の各所に召集をかけ、集結させるにしても兵が多ければ準備にも相応に時間がかかる。事前に戦争の兆候などがあれば、それなりに準備もできようが、今回のように急に現れては防衛態勢を整えるだけで手一杯と言える。

 仮に集まったとしても、数の差は圧倒的であり、蹂躙(じゅうりん)される未来がちらつく。


 公爵は歯噛みした。


「蟻亜人のひとり当たりの戦闘力がわからん。農民兵どもでも相手できるほどなのか……まったく歯が立たないのでは話にならんぞ……!」


 アーリィーが口を開いた。


「ねえ、ジン。王都にも報せないといけないんじゃないかな? ポータルとか――」

「今から王都に援軍を求めても間に合わん!」


 ジャルジーが遮るように机を叩いた。……アーリィー、あまりポータルとか、人前で言うものじゃないよ。俺は苦笑する。そのアーリィーは顔を膨らませて、ジャルジーに言い返した。


「でも、このままだと北部防衛の要であるここが陥落してしまうよ? いまは戦力を集めて――」

「はい、ストップ! とりあえず、二人とも黙ってくれ」


 俺は、公爵と王子様のやりとりを止める。先ほどから沈黙を守っている黒騎士ベルさんに視線をやると魔力念話を使う。


『どう思う?』

『どうって、お前さんの中じゃ、もうアレを使う気満々だろう?』


 ベルさんは指摘した。俺は口もとを引きつらせた。


『まあ、アレを使うのが手っ取り早い、というかそれしかないと思うんだが、こうギャラリーが多いとな』

『安請け合いしたのは、お前さんだろう?』

『ぐうの音も出ないな』


 心の中で苦笑い。だがすぐにそれも引っ込む。


『ヘタするとこの国から逃げる羽目になるかもしれない……』


 連合国から危険視された力の発揮。その力を利用しようとしたり、あるいは恐れて排除される恐れもなきにしもあらず。


『まあ、その時はその時さ』


 ベルさんは気にしていなかった。


『世界は広いんだし』

『俺は、結構この国が気に入ってるんだけどなぁ……』

『嬢ちゃんと一緒にいたいだけだろう?』

『おう、図星突くのやめーや』


 ははは、と魔力念話でお互いに笑いあう。俺とベルさんのやりとりを知らないアーリィーとジャルジーらは、怪訝な顔で俺を見つめる。


「あの……ジン?」

「――とりあえず、その蟻亜人の大群を見てみようじゃないか」


 俺は席を立った。


「ここで、ああだこうだ言い合っても仕方ない。実際に見れば、どう対処すればいいかわかることもある」


 まずは情報収集だ。


「ジャルジー公爵殿、いちおう召集は続けて戦う準備はしておいてください」


 急に改まった俺の言葉に、ジャルジーはキョトンとしてしまう。


「それはもちろんだが……お前はどうするんだ?」

「見に行くんですよ、敵をね。そう言ったでしょう?」

「まさか、逃げる気ではあるまいな? オレを王にするという約束を捨てて――」


 そういう解釈が出るか。まあ、記憶をいじったのはアーリィー関連であり、少しまともになったとはいえ、俺を全面的に信用するには彼の中ではまだ不足しているのだろう。

 実際逃げ出すほうが早いかもしれない。いやいや、結局、アーリィーのいるヴェリラルド王国の危機とあらば、遅かれ早かれ戦うことになるだろうから、逃げないけどさ。


「……それなら、あなたも来ますか?」


 え? ――と、若き公爵は目を丸くした。



  ・  ・  ・



 蟻を獣と呼ぶのがイマイチしっくりこないのだが、それはさておき。ケーニギン領に迫る脅威を視察するべく、俺たちはクロディス城を離れることになった。

 ジャルジーは言った。


「しかし、今から向かうと言ってもな……。グリフォンは――」

「はい、閣下。此度(こたび)の非常召集とその伝令のために、ほぼ出払っております」


 フレック騎士長が事務的に告げた。


「ジン、どうやって向かうつもりだ? 何か長距離を飛ぶ魔法でも使うのか?」

「地上を進む乗り物がある」

「乗り物? 馬か? それとも馬車か?」


 少しの落胆をにじませる公爵閣下である。クロディス城をたった二人で陥落させようとしたうちの一人である俺だから、何か凄い魔法を期待したのかもしれない。


 だが、俺が呼び寄せていた魔法装甲車(デゼルト)が、クロディス城に到着すると、当然のことながら、辺りは騒然となった。

 ジャルジーと騎士たちが驚愕する。


 誰もが、初めてみる魔力式車両――それも化け物じみた金属の塊を見て驚き、恐れる。


「これはいったい何だ!?」


 ジャルジーが、公爵の威厳も何もなく思ったまま叫んだ。アーリィーが苦笑する横で俺は肩をすくめる。


「俺の車だ」

「車!? 車と言ったか!? これが乗り物だと言うのか!」

「結構、速いですよ」


 愛想笑いを浮かべ、一同に声をかける。


「じゃ、行きましょうか」 

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