第2046話、ノースパークの処遇
ノースパーク中央管制室。侵入者に対応していた室内では、オペレーターたちの指示や報告が飛び交っていた。
そしてそれが急に静かになる。終わったのか、と管制室長は思ったが、もたらされた報告は、彼を苛立たせるに充分だった。
「異空間制御装置を盗まれた!?」
「はい……」
若いチーフ・オペレーターは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「信じられないことですが、侵入者は消えました。制御室はガードの死体だけです」
「……」
「侵入者は異空間制御装置のコアシステムを持ち出した上に忽然と消えました」
管制室長が何も言わず睨みつけてくるので、チーフ・オペレーターは繰り返した。視線は魔力スクリーンに向く。
制御装置のあった場所を映し出すアイボール型魔法生物からの映像転送。奇しくもジン・アミウールが使っているものと類似しているが、そもそもアイボール自体、アポリト文明時代に作り出された魔法生物である。
制御パネルとモニターがついている部分がごっそり抜けている。球体の魔法生物が動いて、室内の様子を送ってくる。
警備部隊のネメジス兵が、死体を運び出し、壁や床の被弾痕を数えたり、敵の手掛かりになりそうな物がないか探している。
「……侵入者の正体は掴めたのか?」
「いいえ。わかりません」
チーフ・オペレーターは答えた。手元のデータパッドを操作し、スクリーンの画像を切り替える。
監視カメラに映し出されたのは黒ずくめの侵入者。部隊証や国を表す、つまり所属を明らかにするものは身につけていない。
武器も、シーパング系列ではあるが、軍モデルとは違う一般流通モデルの改造品のようだった。この手の者は冒険者や傭兵、武装勢力などが利用しているので、系列はわかってもシーパング国やその同盟国と断定はできなかった。
「侵入者は、どこぞの国の特殊部隊だろうな」
冒険者や傭兵など、集団であるなら部隊シンボルなり揃えておくものだ。それがないのは、所属を明らかにしたくない組織ということだ。
考えられるのは、先日ノースパークを襲撃してきた謎の大帝国製艦隊の手の者。もしくはネメジスと敵対しているシーパング同盟軍。
状況からすると、前者の可能性が高い。同盟軍にノースパークの情報が伝わっているかは定かではないが、異空間制御装置を狙ってきたということは、ここが異空間にあり、こちらが制御している可能性に気づいたということだ。
「ちょっと待った」
管制室長は、スクリーンのリプレイを止めさせた。そこにぼんやりと移った人型のシルエット。
「なんだこれは? 画像がぼけているのか?」
「魔術師のようです。魔力を使った撹乱で……見ての通り、顔などわかりません」
魔術師が使うマスキングだという。それで姿を変え、違うものに見せたりするのだという。一人だけあからさまに魔術師という格好をしているが、これでは誰なのかさっぱりわからない。
「極めて強力な魔術師のようです。魔力数値が、魔術師の平均を軽く凌駕しております。さぞ名うての術者なのでしょう」
「気に入らんな」
「申し訳ありません」
手放して賞賛したように受け取られたと思い、チーフ・オペレーターは詫びた。管制室長はそのことが気に入らないのではなかった。
「わかった。引き続き、調査と捜索を続けろ。……まだノースパーク内にいるかもしれん」
「はっ」
「外もだ。侵入者を乗せてきた乗り物が必ずあるはずだ。ノースパークの外はもちろん、対空監視もだ」
管制室長は席を立ち、移動する。オペレーターたちはそれぞれの席で仕事にかかる。
通信室へとやってきた管制室長は、専用チャンネルを開き、相手の応答をじっと待った。まったく嫌な役割だと内心の苛立ちが込み上げ、それが顔に出ないように努力する。
アポリト文明の映像端末が、青いホログラフィック状に表示されて相手が現れた。
ネメジス総帥、グーウェンである。銀髪をオールバックにした長身の男だが、全てが青である。
「閣下」
『何事かね、大佐』
鷹揚に、しかし低い声でネメジス総帥は問うた。管制室長は背筋を伸ばしたまま頷いた。
「ノースパークに所属不明の侵入者がありました。おそらく特殊部隊でありますが……」
『特殊部隊……』
「はい、閣下。連中は、異空間制御装置のコアシステムを奪取し、姿を消しました。現在、内部をくまなく捜索しておりますが……」
ホログラフィックごしに、睨まれているようで管制室長は息を呑む。
『つまり、その敵にその異空間を操られる術を持っていかれたわけだな』
「……はい、閣下」
グーウェンは押し黙る。この事態にどう対応するか、彼は考えを巡らせているのだ。当然ながら、管制室長にそれを邪魔する権限はない。
『わかった。全軍をノースパークならびに異空間より撤退させよ』
「撤退、でありますか……?」
恐る恐る確認する管制室長。グーウェンは言った。
『貴様は、その異空間に封じ込められたいのかね? 敵にその術が渡った以上、そこに残っていれば、世界から切り離されるのがオチだろう。……貴様はそれが望みか?』
「い、いえ、ただちにノースパークより撤収します」
管制室長はコクコクと頷いた。
『データは残すな。残っている物資も全て運び出せ』
「承知しました、閣下。……置き土産については、如何いたしますか?」
敵が無人となったノースパークに入った時のために、ブービートラップなどを仕掛けるか確認する。グーウェンの答えは簡潔だった。
『異空間を閉じられれば、仕掛けもすべて意味をなさない。何も残すな』
次話は明明後日、火曜日更新予定。
更新ペースは3日に1話となります。
累計45万部突破! 英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック、1~14巻(12巻以降は電子書籍版のみ)発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも掲載中!
「英雄魔術師はのんびり暮らしたい」オーディオブック2巻、配信決定! リリース開始は11月25日になります! よろしくお願いします!
オーディオブック1巻配信中。




