第1958話、英雄魔術師の弱点は……?
ブァイナ金属製貯蔵庫をこじ開けて、中身を手に入れるために、ジン・アミウールと接触するしかないかもしれない――
その案を聞いた時のグーワィは壮絶な感情が渦巻いた。
どうあっても無理。グーワィたちの組織のこれまでとこれからのことを考えれば、かの英雄魔術師は『敵』である。
すでに人工シェイプシフター制御装置入りの貯蔵庫を奪取している現状、シーパング同盟軍のみならず、ジン・アミウールもまた組織を追っているだろう。
それにも関わらず、こちらから接触するとか、自ら魔獣の口に手を差し出すようなものだ。
黙り込んでしまったグーワィに、意見を出したバローグは言った。
「もちろん、本人に言ったところで情報を提供してもらえるはずがありませんから、ここは人質をとって、言うことを聞かせる策をとるのがよいかと」
綺麗な話ではない。だがグーワィにとっては、この手の手段を選ばない方法については、特別思うところはなかった。
だが相手は、そこらの貴族や商人ではない。自力で戦うことができる魔術師である。魔法というジャンルにおいては、年齢を重ねるごとに凄みを増すことも珍しくない。そのため、現役を離れた戦士を狙うなどとはまた違う難度である。
「具体的には?」
ようやくそう言ったグーワィ。バローグは続けた。
「迂闊に動けなくする、そう考えるならどこか、都市の一つや二つに爆発物を仕掛け、そこにいる住人ごと人質にすれば、強制力は強くなると思われます」
ただ……――バローグは眉をひそめた。
「ジン・アミウールに通報させるなと警告したとしても、彼は極めて優れた魔術師ですから、こちらに知られずに同盟軍に通報もやってのけるかもしれません。その場合、都市レベルの脅しは、逆に同盟軍の介入の可能性があります」
住民すべてを人質にとられる事態となれば、同盟議会も軍を動かす可能性が高く、一度同盟軍が動き出せば、ジン・アミウールが何もしなくても都市の人質解放が進められてしまう。
こちらとしては、彼にブァイナ金属製貯蔵庫の開け方を教えてもらわねばならず、多少こちらの通告を無視したからといって爆破させても、目的は果たせない。かと言って同盟軍に人質を無効化されては、ジン・アミウールが逆襲してくる。
その展開は、とてもよくなかった。
「巻き込まれる人数が増えるほど、同盟軍が出動しやすくなりますから、ここは家族や親類を誘拐するのがもっとも効果的であると考えます」
「個人の、家庭の問題となれば、同盟軍は動きにくいからな」
「ええ、普通であれば……」
バローグはそこで顔をしかめた。
「正直、相手が王族であり大貴族であるジン・アミウールですから。個人の事情でも彼の家族に何かあれば、やはり同盟軍が動く可能性はあります」
これにはグーワィも渋い表情を浮かべる。取るに足らない個人であれば国は動かない。だが王族であれば話は変わってくる。権力者の家族が優先される世の中だ。軍どころか、アミール教会やエルフ、その他あの英雄に借りのある者たちがどこからでも駆けつけてくる可能性はあった。
「とても良案には思えないのだが?」
グーワィが嘆息すると、バローグは頷いた。
「ええ、あまりいい案とも言えないのですが、他のどの案よりも一番確率が高いのがこれなんですよ」
正直出たとこ勝負なのですが――とバローグは言った。
「たとえば、ジン・アミウールが己の能力に絶対的な自信を持ち、同盟軍に頼らず解決しようとしたなら……人質策の成功率も上がります」
「不確定要素だな。それに賭けるのはリスクが高い。ただでさえ、あれを相手にするという時点でハイリスクなのに」
この手の仕事をする人間として、常に成功率を気にして動く。大きな仕事となれば九十九パーセントの勝率がなければ実行すべきではない――もちろん、世の中そんな都合よくいかないものだ。だが、それくらい入念に計画を詰めて成功をたぐり寄せなければならない。
「そこで、王族の血筋ではない者を狙うという手です」
バローグは手元のデータパッドを操作し、グーワィに見せた。
「まだ仮案で、正直具体案ではないのですが、たとえばジン・アミウールの妻は六人います」
一夫多妻は王族ではよくあることだ。稀に一妻多夫の貴族や王族もいるので、この手のものが男だけのものではないが。
「そのうち、三人が同盟に属する国の王族です」
アーリィー、アヴリル、エレクシアがそうだ。最後のエレクシアは王族どころか女王である。間違っても、この三人は、その出身国が問答無用で介入してくる可能性が高い。
「一方で下の三人は、王族ではありません」
リムネ、サキリス、エリザベート。
「後ろの二人は、貴族家系ですが、片方は貴族身分が消滅。もう片方も国がなくなったためにこちらもただの人となっています」
「エリザベートの方は、ウーラムゴリサの出身だろう?」
グーワィは、資料を見て言った。
「一度滅びたが、あの国はジン・アミウールによって再建された。その彼の妻で出身国の元貴族であれば、ウーラムゴリサ国が動くかもしれなくないか?」
「まあ、可能性は低いですが、あるかもしれないという点では否定できません」
バローグは認めた。グーワィは画面の顔写真――リムネを見やる。
「このリムネという女は、王族でも貴族でもないな。狙うならこいつか?」
「それが、経歴を見るとちょっと、というかかなり不味いかもしれません」
経歴――データパッドを操作して、確認する。
「同盟軍の元軍人か」
「不味いのは交友関係のほうです。軍のほうでかなり崇拝されている上に、情報部調べですが、このリムネ。シーパング同盟の情報局の局長と親しい間柄です」
「情報局……。それはまずいな」
諜報の鬼であるシーパング同盟の情報局が、個人といえど捨て置けず動き出す可能性が高い。特にこちらが、人工シェイプシフター制御装置を握ろうとしている点を鑑みても、情報局は手掛かりがやってきたとばかりに動き出すに違いない。
「では、誰を狙うのが一番いいのだ?」
「サキリスがエリザベート、このどちらかでしょう。ただ……妻ではなく、子供の方を狙うほうがよいかもしれません」
バローグは、子供たちのリストを出した。シーパング本国ではアミウール家の話題はすぐに報道されるから、この手の情報をまとめるのも難しくはなかった。
「親が王族でない子ですと――」
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