第1933話、お月様はそこにある
子供たちの成長を見守るというのは、いいものだ。
運動会で子供の勇姿を見届ける親の気分である。後方腕組み……モニターごしに、我が子たちがダンジョンに挑む姿を見れば、自然と腕を組んでしまうかもしれない。
俺は、ディーシーが送ってくれた映像で、ダンジョン試験の様子を観戦した。
ラスィアにも感想をもらうべく、一緒に見てもらう。かつての冒険者ギルド・サブマスターの視点での評価というやつだ。……仕事? 分身君がやってくれているよ。
で、どうよ、ラスィアさん?
「ラッタ、ジュワン、ユーリ、レオナの四人組は、熟練の特殊部隊員さながらですね。とても息のあっていると思います」
「あの四人は、小さかった頃からチーム組んでいたからな」
冒険者に憧れて、シェイプシフター相手にごっこ遊びをしていた。好きなものは勝手に学習して上達していく。自主性が上手くはまったパターンだな。
「リン、リュミエールとボルク王子、アグナの組は、ラッタたちほどの阿吽の呼吸ではないですが、ソツがないですよ」
「危なげないな、確かに」
学校での実習で連携を磨いた、というよりは自分が何をすべきかわかって立ち回っている印象だ。この顔ぶれで以前から組んだことがあるかは知らないが、よくできている。
……なお、後で聞いたところによれば、アーリィーたちママさんも、似たような感想だったとか。認識がズレているわけではないようで、俺は一安心。周囲とのズレって自覚できないととことんわからないからね。
特に俺やベルさんといったSランク冒険者ともなると、新人たちの行動に首をかしげるようなことがしばしばあるからさ。
などと観戦していたら、部屋に緊急コールが鳴り響いた。俺とラスィアがそちらに目をやれば、分身君が専用端末をとった。
「はい、こちら公爵のオフィス。――うん。……ああ、それは本当? 悪いけど落ち着いて、もう一度報告してくれ」
分身君が端末のスピーカーのボタンを押した。途端に音声が切り替わる。
『はい、閣下。月面基地より報告です。爆発事故が発生、施設の一部が被害を受けました――』
月面基地……! って、月面基地のどれ? 現状、九つくらい基地があったはずだが?
「どの月面基地だって?」
分身君が尋ねれば、通話相手は答えた。
『失礼しました、月面ダング基地です』
「ダング基地ですって?」
ラスィアが声を上げた。何事? 何か知っているのかね?
「失礼しました、ジン様。確か先月からユナが月に行っていまして、ダング基地にも――」
「ユナが?」
ユナ・ヴェンダート魔術師。宇宙空間における魔法研究だったかな? その一環で、ここ数年前、惑星テラと月を往復していたが……まさかそこに居合わせていたとは。いや待てよ。
「その爆発って、ひょっとして魔法が関係していたりする?」
『爆発はラボの近くようですが……』
「人員は無事なのか?」
ある意味肝心なところだ。確認すれば通話の向こうの人物は答えた。
「軽傷者二名の報告です。死亡、行方不明は確認されておりません」
「無事ならよし」
何せ月面基地だ。おそらく施設は内側だろうが、外壁近くで吹っ飛ぶなんてことがあったら、外に吸い出されておしまい、なんてこともあり得る。怖い怖い……。
その後、二、三やりとりした後、通話は終了した。
「やれやれ……」
一時はどうなることかと思った。大した影響がなくてよかった。
「緊急ではなかったですね」
ラスィアが苦笑している。まあ、そうだけどさ。
「些細なことでも報告するって話になっていたからね。月面でトラブルなんて大事になる可能性が高いし、救助手配が一分一秒を争う」
これも月に進出した初期の話で、そこから特に報告に関して変更していなかったからこその緊急コールだった。……このレベルの事故なら、次からは通常報告レベルに落としてもいいな。
「でも、何があったんだろうね? 報告してきた人も確認中ってことだったけど」
「ユナに直接聞きましょうか?」
ラスィアが提案した。うん、それがいい。
「そうしよう。気になって、子供たちの勇姿に集中できないからね」
・ ・ ・
『未知の金属』
モニターありでの通信で、ユナはいつもの淡々とした調子で言った。じき四十を迎える彼女だが、気怠け美女の色気は相変わらずだったりする。
『まだ表に公表されていないけれど、未知の遺跡が発見されたの』
「遺跡ですって!?」
ラスィアは目を丸くした。俺もびっくりだ。月に文明の跡とか。何てこったい……。
「テラ・フィデリティアの拠点ではないの?」
機械文明時代――実際に月面に基地を作っていたテラ・フィデリティアのものではないか、とラスィア。だがユナは否定する。
『テラ・フィデリティアのデータバンクにも、これに関する記録はなかった。テラ・フィデリティアのものではない』
だろうな。テラ・フィデリティアの隠されていた基地が見つかったというなら、とっくにこっちにも報告が来ているはずだ。
「アンバンサー……?」
惑星テラを襲い、機械文明時代に因縁のあった異星人のものではないか。しかしユナは首を横に振る。
『その可能性はほぼない。アンバンサーとはまったく異なる文明のもの。今、その正体について調査中』
で、その遺跡から持ち帰った品の調査をしたら、例の爆発事故が起きた、というのが事の真相らしい。
ここにきて、テラ・フィデリティアでもアンバンサーでもない第三の文明の遺跡が見つかるとか。世界はまだ、謎に満ちているね。
「ところで、ユナ。そういう大事なこと、私たちに話して大丈夫だったの?」
ラスィアが疑問を口にすれば、ユナは淡々とした態度を崩さなかった。
『どのみち、お師匠にお話する予定でしたから。手間が省けました』
そうですか……。
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