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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1942/1962

第1932話、親は心配するもの


「子供たちが、ダンジョンに挑戦だって……?」


 俺は、ニーヴ人たちの島での行事――十周年祭についての資料から目を離した。

 我らが秘書を務めるラスィアは、コーヒーをいれてくれた。


「どうぞ、ジン様」

「ありがとう」


 インスタントだけどね。俺にいれた後、ラスィアは自分の分を一口飲むと、続きを話し出した。


「ディーシーから連絡がありました。例のダンジョンを使って試験中だって」

「試験ね……」


 俺はダークエルフさんを見やる。


「君も見に行きたいんじゃないか? 元冒険者ギルドのマスターとして」

「サブですよ。まあ、関心はあります」


 ラスィアは微笑した。

 そういえば、俺とラスィアの初遭遇は、彼女がヴェリラルド王国の王都冒険者ギルドのサブマスターをしている時だったか。……懐かしいな。


「ディーシーの作るダンジョンについては助言もしましたから、貴方の子供たちがどう攻略していくか興味はあります」

「監修に関わっていたんだっけか?」

「ジン様のオーダーが、子供たちの試験に使うダンジョン、でしたからね」


 ラスィアの笑みが苦笑に変わる。


「ディーシーに任せたら、完全に趣味に走るじゃないですか。試験用だって言っても聞きやしませんよ」

「加減を知らないからな」


 俺は事務机の上のデータパッドを操作する。……ここまでの作成文章を保存して。

 さてさて、ちょっくら念話を飛ばそう。相手は言わずもがな。


『ディーシー、聞こえるか?』

『主か。どうした? ……というのは愚問かな』


 ディーシーの念話が返ってきた。いつもと同じ、ではないな。念話の調子からすると、ちょっと楽しそうである。こういう時は、何か作っている時のことが多いのだが、うわの空成分が感じられないところから、そうではないのは間違いない。


『ラスィアから聞いた。子供たちがダンジョンに挑んでいるって』

『ああ、リン、リュミエール、ラッタ、ジュワン、ユーリ、レオナの六人と、ボルク坊やとシェードのところの娘が挑戦している』

『ボルク坊やって……』


 未来のヴェリラルド王かもしれないのに、なんてことを。……まあ、幼い頃、遊んでやった云々というのはあるのだろうけど。

 シェードのところの娘って、アグナだな。確か、リンちゃんとボルク君のクラスメイトだったな。そういう付き合いではあるんだろう。


『しかしリンちゃんが、ダンジョンに挑むなんてなぁ……』

『知らなかったのか? 主よ』

『いや、知っているけどさ。本気にしていなかった』


 あの長女ちゃんは、最近ダンジョンに興味なさそうだったから、最初聞いた時は巻き込まれたんじゃないかなって受け取っていた。


『少々飽きっぽいところがあるからね』

『将来を意識する歳になった、ということだろう』


 まだ十六だぞ。……いや、そろそろ考え出す頃か? 意識高い系なら、もう始めていてもおかしくないかもしれない。

 そうやって、子供たちは大きくなっていくものなんだ。


『何はともあれ、自分自身でやりたいことが定まってくれたのなら、歓迎する』


 こちらの敷いたレールの上というのは、考えなくてもいい反面、合わない子にはとことん窮屈だからね。俺は自主性を尊重したい。

 ……などと考えたら、それでリンちゃんと喧嘩をしたのを思い出した。俺は自主性を重んじるが、日頃の勉学や苦学は最低限、口出ししてもやってもらっていた。


 何故か? 自主性を重視し過ぎると、やりたいこと以外やらない駄目な子になってしまうから。

 俺のいた地球世界でも、昔、ゆとりや自主性を重視したフィンランドの教育がやたら持ち上げられた時期があったけど、結局、やりたいことしかやらない、集中力に欠ける子を量産してしまい、この教育は間違っていたのではないかと現地の教育現場では言われている。


 そういう悪い面の話を知らず、以前のイメージでフィンランド教育を語って恥をかいてる情報遅れがちらほらいたみたいだけど……。


 教育ってのは成果が出るのが二十年後とかって言われていて、目先のことであれこれ変えるものではない。もちろん、明らかに悪いものについては早々に変えるべきではあるけど。

 まあ、何事もほどほどに、というやつだ。バランス感覚、つまるところ極端なのはよくないってことだ。


 それで時に厳しく、あからさまにサボタージュしたら叱る。それで反発されても、それは家族のやりとりだ。子供には親の言うことに反発する時期はあるものだし、正論で語っても反抗したり、喧嘩になったりはするんだ。

 それを恐れてはいけない。必要なら叱る。これもまた教育だ。叱れない親など、教育放棄だ。何事もバランスだ。叱る分、いい時は沢山褒めてあげればいいのだ。


『主?』

『すまん、ちょっとリンちゃんと喧嘩した時のことを思い出していた』

『親をしているな、主も』


 皮肉げにディーシーは言った。


『それで、心配性の親としては、子供たちの活躍を見たいと』

『そういうことだ。映像は記録しているだろう?』


 試験用ダンジョンだ。後で反省会や検証を行うために資料映像は撮っているはずだ。そうするようにこのダンジョンを設定した時に決めた。


『こっちにも送ってくれ』

『構わんよ。……仕事はいいのか? ラスィアに怒られても知らんぞ?』

『叱ってくれる人間がいるのはいいことだよ。まあ、叱られないように節度をもってやるさ。大人だからね』


 まあ、今は休憩中だ。ちら、とモニターから目を離すと、ラスィアは肩をすくめた。念話を盗み聞きしていたらしい。このダークエルフさんは、小癪な技を身につけているのだ。

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