第1931話、順調な探索?
子供たちが、ディーシーのダンジョンの探索をしているのを、ジンの妻たちはディーシーの表示する映像を通して見守っていた。
アヴリルは首をかしげる。
「意外に上手くやってる?」
「上手くやっていると思う」
アーリィーは頷いた。視線をサキリスに向ければ。
「普通に駆け出し冒険者以上だと思います」
ラッタたち14歳組は、普段から仲良しグループなだけあって、連携がそつなく、指摘や注意も遠慮がない。
一方のリンたち年長組は、それなりに付き合いはあるが四人で組んだことはおそらく今回が初めて。リン、ボルク、アグナは同級生だが、リュミエールは一つ年下で、学校での付き合いが他と違う。
14歳組のような阿吽の呼吸はないものの、学校での共同演習授業である程度の合わせをやっているからか、こちらも協調ができていた。
「最初の階層は問題なさそうね」
リムネが微笑すれば、エリザベートも同意していた。
「わたしが学校で実習した時より、優秀かも」
「教育環境がよかったんだね」
アーリィーは苦笑した。
「だってあの子たち、学校でやるようなことを小さい頃から家でやっていたもの」
特に魔法関係は。父親が英雄魔術師のジン・アミウールで魔法を使うことに関して、これ以上の教師もいない。
実際にシーパングの幼年学校に通っている時も、魔法に関しては他の子たちより頭一つ抜けていた。特にあの中では、リン、リュミエール、ラッタ、ユーリがさらに一段強い。
「とはいえ、だ――」
ディーシーが口を開いた。
「第一階層は、まだ序の口だ。ここからだよ。真に試されるのは」
・ ・ ・
「うおりゃあ!」
ボルクのシールドバッシュが、ホブゴブリンに炸裂する。大人の体格であるホブに対して、ボルクも負けていない。
盾を当てて、体勢が崩れたホブゴブリンにオリハルコンの剣で切りつける。剣身にヒート状態を付与したその剣は、高熱でゴブリンの体を焼き切った。
「次ッ!」
「終わったわよ」
左手に拳銃型魔法銃を持ったリンが、残るホブゴブリンの頭を撃ち抜いていた。右手に剣、左手に片手銃という組み合わせのリンは、前衛のボルクの周りを動き回り、側面援護に徹していた。
「はい、お疲れさん」
「……左手でよく銃を撃てるな。利き腕は右だろう?」
ボルクが首を振れば、リンはホルスターに銃を収める。
「魔法銃だもの。反動はほどんどないわよ」
「そうじゃなくて、狙いをつけるのが難しいんじゃないかって話」
「まあそれは……練習?」
「まー、リンのことだから」
エアバレットを持つアグナが、傍らを通過する。
「映画とかで、二丁拳銃に憧れていた頃でもあるんじゃない?」
「練習ってそういう……」
「うっさい! あたしの勝手でしょう!」
「マジだった?」
適当なことを言ったアグナだったが、リンが図星だったことを知り、びっくりした。ボルクがリュミエールを見れば、彼女は苦笑しながら首肯した。
「影響されやすいんだな……。今に始まったことではないが」
「うっさい、王子様。……ほら、先に行くわよ」
リンがアグナに追いつくと、眼鏡のクラスメイトは先へと指先を向けた。
「あれ、下への階段じゃない?」
「ホントだ。ボルク! あんた先頭でしょ。行きなさいよ!」
「わかってる」
四人は罠や待ち伏せを警戒しつつ、次の階層への階段を降りた。
「結局、ラッタたちを見なかったけど、先に行っているのかしら?」
リンが長女らしく14歳組を心配すれば、次女であるリュミエールもわずかに眉を寄せた。
「ラッタはしっかりしているし、大丈夫だと思うけれど……。どうかなぁ」
階段の先に到着する。門があるが、その先は外のように明るかった。くぐった四人はポカンとしてしまう。
「これは……ダンジョンの外か?」
ボルクは門の先に広がっている平原を見渡す。空が青い。雲が流れ、やや暖かい風が流れていく。
「どういうこと?」
リンも目を丸くすれば、アグナが眼鏡の橋を押しあげた。
「ここもダンジョンじゃないかしら。本で読んだことがあるけれど、ダンジョンの中には、空のような景色を映し出したり、あるいは異空間で別の場所に繋がっていることもあるんですって」
「これが、ダンジョンだって言うの……?」
驚きつつ、リンは再び辺りへと視線を向けた。この広大な自然が広がっている未知の世界。これは純粋な驚きだ。
見たこともない世界。これがダンジョン!
「ディーシーさん、あんたこんなのも作っちゃうんだ……」
ゾクリと胸の奥に未知の快感が込み上げてくる。世界は広い。まだまだ知らないことがいっぱいある。
これを見ると、自分の悩みなどほんの些細なもののように思えた。どうでもいい。この広い世界の一端の前では!
「冒険者……悪くないかもしれない」
ポツリとリンは呟いた。
・ ・ ・
「さて、どうしたものか……」
ラッタは、目の前に広がる砂漠のような砂地を眺める。
リンたちと道中出会うことなく、次の階層に進むことになった14歳組ではあるが、目の前にある果ての見えない砂地に、軽く目まいをおぼえた。
「広すぎだろう……」
「おい、ユーリ見ろよ。これガラスじゃね?」
ジュワンが砂に見えるそれを手ですくい、兄弟に見せた。
「ガラスの砂?」
「素足で踏んだら痛そうなのも混じってるな。面白くなってきた」
冒険をしているという充実感が顔に出るジュワン。しばし景色に呆然とするユーリだが、レオナが傍らに立った。
「ユーリ、大丈夫? まさかヘバった?」
「いや、……まさか」
まだまだ疲れていない。ユーリが首を横に振れば、レオナは怪訝な顔のまま言う。
「あんた、時々ぼうっとしているからさ。気をつけなよ? ここ、ダンジョンなんだからさ」
「わかってるよ。――ラッタ! 出発しよう」
どこに進むか考えている長男に声をかけるユーリ。
「少し高い場所に登って、周りを観察しよう! 何かわかるかも」
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