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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第176話、名前をつけよう


 コボルトを倒し、ブラオのコピー・コアに魔力吸収。記録には充分な量を倒したのを確認し、俺たちは鉱山に残っていたアーリィーたちと合流。ドワーフの戦闘採掘団と別れ、大空洞を後にした。


 戦果も上々。ジャングルエリアに氷結エリアの魔獣などの戦利品も大量。ついでにアーリィーら三人の当初の目的だったフロストドラゴンの討伐も成功に終わった。言うことなし、である。

 そんな帰り道、デゼルトを運転する俺の耳に、後部座席からのサキリスの声が聞こえた。


「わたくしたちのパーティーに、名前をつけませんか?」

「名前……?」


 アーリィーが助手席から振り返りながら小首を傾げれば、サキリスは頷いた。


「はい、アーリィー様。わたくしたちは、いまのところ固有の名前がありません。今後武勲を立てた際に、学生冒険者と言われるのは、何ともしまらないと思いませんか?」


 そうかな、と俺は黒猫(ベルさん)と顔を見合わせたが、マルカスは顎に手をあて考え込む。


「一理ある。いますぐとは思わないが、いずれ必要になると思う」


 学生冒険者、かっこ悪い。……格好で冒険者をやってるわけではないと思うが。


「確かに上級冒険者ってのは、見栄えのいい格好してる奴もいるからなぁ」


 ベルさんがそんなことを言った。ちら、と俺を見たのは、当てつけだろうか? 少し前まで初心者装備だった俺への。


「強さは大事ですが、見た目にもこだわるべきですわ」


 サキリスが、さも重要だと言わんばかりに頷いている。それはどうなんだ、とミラーごしにユナを見れば、彼女は黙って生徒たちのやりとりを眺めている。あまり興味なさそうだ。……まあ、いいけどさ、別に。


「それで、言い出したからには、何か案があるかね、サキリス?」


 俺が振れば、サキリスは背もたれから身を乗り出し胸を張った。


翡翠(ひすい)騎士団、というのはどうかしら?」

「翡翠……」


 すっと、アーリィーが目を俯かせた。何故か頬が赤くなったような……。と、それは置いておいて。


「なんで騎士団なんだ? 俺たち、まだ学生で騎士じゃないだろ」

「いずれ騎士になるのですから、大した問題じゃあありませんわ!」


 お前、卒業したら――ああ、そうか。それでも称号としては残るんだっけか。


「……ちょっと待て、大した問題じゃないかこれ」


 マルカスが異を唱えた。


「正規の騎士になっていないのに騎士を名乗るのは、諸先輩方からお叱りを受けるのではないか……」

「魔法騎士学生だと語呂が悪いですから、間を取って騎士としただけですわ。突っ込まれたらそう説明すればよろしい」

「う、確かに、学生というのは響きがよくないな……」


 マルカスが唸る。

 間を取ると言ってもな……。略すなら、魔騎団とか――マキダン……うーん、どうなんだろう、これ。ちょっと判断に苦しむぞ。


「ちなみに何故、翡翠なんだ?」

「は?」


 サキリスはもちろん、マルカスも俺に驚いた目を向けてくる。あ、たぶんこれ、俺が知らないだけで、結構有名な由来っぽい。


『ベルさん、何でか知ってるか?』


 たまらず魔力念話で黒猫に聞いてみるが、当人はぷいとそっぽを向いた。


『オイラも知らん』


 となると、ここヴェリラルド王国での話か。ひょっとして、アーリィーが恥ずかしそうにしているのと関係あったりする?


「ジンさん、翡翠とは何かご存知ですわよね?」


 サキリスが常識を確かめるような目を向けてくる。……お、おう。


「緑系統の宝石だよな」


 アーリィーの目の色と同じ――あ、ひょっとしてこれますます彼女と関係ありそう。


「翡翠は、アーリィー様の宝石。誕生された際、王子には守護宝石が与えられます」

「守護宝石」


 そうなのか、と俺が呟けば、マルカスが「あんたでも知らないことがあるんだな」と皮肉ってきた。……君は俺を何だと思ってるんだ?

 当のアーリィーは、そわそわしている。自分の守護宝石をパーティー名に、というのが照れくさいのだろうか。

 まあ、世間では彼女が冒険者をやっていることは知られていないはずだから、『アーリィー騎士団』とか『王子親衛隊』みたいな露骨な名称じゃないだけマシかもしれない。


「そういうことなら、いいんじゃないか」


 俺が言えば、ベルさんは小首をかしげた。


「『ジン・トキトモと愉快な見習いども』」

「『チーム・黒猫』」

「ダセェ」

「あんたが言うな」


 俺とベルさんが真顔でふざけていると、サキリスが咳払いした。


「他に意見は?」

「ない」


 マルカスが即答した。ユナも小さく頷く。アーリィーは「黒猫……」と少し惹かれたような顔をした。

 かくて、俺たちのパーティーに『翡翠騎士団』という名前が付いた。まあ、まだ自称だがね。



  ・  ・  ・



 冒険者ギルドで、霜竜や氷狼の戦利品を処分。解体部門のソンブル氏は、久しぶりに大量だね、と例によって淡々とした様子で、査定結果を金額を書いていった。

 様子を見ていたサキリスが言った。


「今日手に入れた素材の半分も処分していないようですけれど……残りはどうするつもりですの?」

「ん? ちょっと素材を使って、武器とか作ってみようかと思ってね」

「武器を作る!?」


 しっ、と俺は口もとに人差し指を一本立てた。他にも冒険者やギルドの職員がいる前で言わないでくれ。


「ちょっとしたアイデアがあってね。まあ、期待しててくれ」


 ふと、ユナとアーリィー、マルカスが掲示板を見ているのに気づく。はて?


「何か面白い依頼でもあったか?」

「お師匠」


 ユナが何か言いたげな視線を寄越した。おや、俺、何かやらかしたか?

 マルカスがぽりぽりと短く刈り込んだ赤毛をかいた。


「おれたち、まだ依頼を受けていないんだ」

「……? そういえば、そうだったな」


 それがどうしたんだ?


「おれたち、フロストドラゴンを倒せる力量がありながら、まだ『Fランク』なんだが?」


 あ。

 言われて見れば確かに。俺は、もともとランクを気にしない性質だから意識していなかったが、名を上げるにあたって冒険者ランクを上げるのも重要な要素だったりするんじゃなかろうか。


「それは、問題だな……」


 まったく考えてなかったよ、正直に言って。

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