第175話、もうひとつの目論見
第十三階層、ミスリル鉱山近くで、俺たちはフロストドラゴンの肉を焼いて、遅い昼食を摂っていた。
秘蔵のドワーフ製の肉タレがついた霜竜の肉は、ピリリと辛く、味をよく引き立てていた。ついでに体の内側からポッと熱くなってくる感じだ。寒々とした空気の十三階層にはありがたい。
ベルさんとマルカスは男らしく思い切り肉に齧りつき、アーリィーやサキリスは小さく齧るときちんと咀嚼して、上品に振る舞った。
ちなみに少し離れた鉱山のまわりでは、ドワーフの一団が、俺たちがおすそ分けした霜竜の肉を喰らって豪快に笑ったり話し合ったりしている。俺たちが食べている肉のタレは、あちらさんからの提供だ。
このドワーフ連中は、大空洞内のミスリル鉱山の話を聞いてやってきた戦闘採掘団なのだそうだ。とうとう、ここにも普通にミスリルを掘りに人が到達したということになる。まあ、もとより俺たちが所有権を主張するものでもないけどね。
鉱山周りには、ドワーフたちが作ったと思しき簡易な防護柵や落とし穴があり、ところどころに氷狼や白トカゲ、霜竜の死骸があった。何故放置しているかと聞けば、どうせ持って帰れないから魔石や最低限の肉だけとって、そのままにしているらしい。
ストレージやポータルがないと運べる量には限度がある。彼ら採掘団が運ぶのは当然ながらミスリルなので、それ以外のものは眼中にないということだろう。まあ、しっかり魔石は回収したようだが。
それはともかく、この鉱山に到着するまでに、俺たちはフロストドラゴンを五頭ほど仕留めていた。二頭はベルさんが、一頭はサキリスとアーリィーの協同戦果。そして残る二頭だが、うち一頭は、アーリィーの牽制、サキリスの拘束系補助魔法で動きを制限したうえでマルカスがトドメを刺した。
メイスで何度も叩きつけたものの、霜竜の装甲の厚さに苦戦。途中、火属性を付加した剣を使って尻尾を切り落とす一幕があったが、何とか倒した。
チームワークは悪くなかった。単にメイスの威力不足だっただけだ。剣に切り替えた後、ファイア・エンチャントで斬ったり、サキリスの補助魔法と成長が見られた戦いだったと言える。
最後の五頭目も、三人で上手く対処して打ち倒した。フロストドラゴン相手に慣れてきたのだろう。動きをよく見ていた。
さて、フロストドラゴンを倒すという当初の目的は果たしているので、食事の後は帰るだけなのではあるが、俺個人としては、もう少し用がある。
わざわざこの十三階層に来た理由は、霜竜を倒すだけではなかったりする。ルーキーたちにはもう少し休憩時間を与えて、俺はベルさんとスクワイアのブラオを連れて、ミスリル鉱山を離れた。
「それで、ジンよ。お前さんの目的とやらを教えてくれないかね?」
ベルさんが問うてきた。ごつごつした岩肌の小さな丘を登りながら、俺は答えた。
「コボルトだよ」
小柄な亜人種族である。ファンタジー界隈では犬顔とされるが、この世界のコボルトは、ゴブリンに似て、元の世界の妖精族的な力を引き継いでいる。鉱物をコバルトに変化させる力を持っている。
それは大抵の鉱物に適用され、ミスリル銀をコバルトに変えられると大損だが、逆に鉄や銅などをコバルトに変えられれば元の鉱物より良い代物になる。
ただ加工が難しいために、上級の魔法鍛冶師を除けば宝の持ち腐れになってしまうというおまけが付くが。
「あいつらは魔法で、鉱物をコバルトに変換する」
「ふむ」
「で、ひとつ思ったことがある。コボルトは、すでに加工済みの金属もコバルト金属に変換できるのではないか……」
「本当か!?」
ベルさんが目を見開いた。もしそれが事実だとすると、なかなか衝撃的な話と言える。
例えば鉄や銅などの金属製の武器。これをコバルト製に変換することができるとなると、一気に武器の質が向上する。鎧などもコバルト製の金属に変えられるなら、その防御力も跳ね上がる。
軍隊の装備に応用できれば、その軍勢は一挙に強化される。同時代の軍の中でも数段リードできることを意味する。
「まだ推測だがね。コボルトが持っている武器や防具があるだろう?」
この鉱山付近で倒したコボルトたちから回収した戦利品。その金属製武具は、すべてコバルト金属であり、冒険者ならぜひ倒して手に入れたいところではある。……ただ金属はよくても、武具としては不揃いで、中にはそのまま使うのは不便な代物もあった。
「あれさ、コボルトたちが自作していると思っていたんだけど、どうも違うようなんだ。以前回収して、使い物になるようにバラして作り直したんだけど、大半が拾い物みたいでな。つまり冒険者たちがダンジョンに入って、捨てたり、あるいは死んで置き去りになった武器をコボルトが拾って使っている……」
その推測を後押しするのは、コバルト金属以外で構成される武具の素材だ。木製のパーツだったり、骨の飾りだったり、小さな魔石だったり……これらがあまりに統一性がなかった。どこからどう見ても、兵士御用達の剣が原型だろうというのも混じっていた。
「なるほどねぇ」
ベルさんが頷いた。
「で、コボルトをどうするつもりだ? まさか捕まえて、飼いならそうって魂胆か?」
「話が通じるなら、それもありだが、世話をするのは面倒だと思うんだ。それにコボルトを飼うなんて、絶対話題になるだろうね」
「じゃあ、どうするんだ?」
「もっと簡単にコボルトを使役する」
俺は、ついてきている小型ゴーレムの頭を撫でた。ブラオは表情こそないが不思議そうに小首をかしげる仕草をとった。
「ダンジョンコアの使役ガーディアンに、コボルトを加える」
サフィロが召喚できる魔獣こと、ダンジョンガーディアンは、コアの制御下にある。その行動も大まかながらサフィロが命じることができるので、コボルトを召喚、使役できるようになれば、普通に生きたコボルトを捕まえたり調教したりしなくて済む。支払うのは俺かサフィロの魔力だけである。
「まあ、まだ確実に金属をコバルトに変えられると決まったわけじゃないから、無駄足に終わるかもしれないけどね」
ただ、この試みが成功すれば、王都防衛戦のオーク軍から回収した鉄などを、上位金属であるコバルトに置き換えることが可能になるわけで……夢が膨らむね。
「というわけで、これからコボルトを狩る。そのコボルトの死体を、ブラオのコピー・コアが魔力に変換吸収させる」
DCロッドに使われているダンジョンコアでは、そうやって登録魔獣を増やしたのだが、コピーコアでもそれでオーケー?
『それで問題ありません、マスター。ただボクはコピーで、本体に比べて能力が低いので本格的なガーディアンとして記録するには、最低10体は吸収させてください』
少年じみた機械音声でブラオは言った。ふむ、ちょっと面倒ではあるが、幸いここはミスリル鉱山が近い。
と、その鉱山のほうから、ハンマーを打ち付ける音が響きだした。どうやらドワーフたちが休憩を終えて、採掘を再開させたようだ。
となれば、採掘者の嫌われ者であるコボルトたちが、この音に釣られてやってくる。そこを待ち伏せすればいい。ドワーフたちの採掘の邪魔をするコボルトの駆除にもなって、一石二鳥である。




