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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1727/1962

第1717話、冷凍処置と、心当たり


 コールドスリープ。冷凍睡眠。

 宇宙に出られる機械文明、テラ・フィデリティア、そしてその宿敵である異星人アンバンサーでも用いられた長期星間航行の際に用いられる、一種の冬眠技術だ。


 俺の元いた世界では、SFの話だったけど、こちらの世界でのコールドスリープ技術では、確か人間以外の、卵から孵る前の状態の生物にも使えるという資料を見た。進んでいるよな。

 ……何で俺がそれを知っているのかと言えば、宇宙開拓船の開発で、不死身の俺やクルフ以外が使うかもしれないから、調べたんだよ。


 まあ、各種宇宙船があって、それで遥か彼方の星に殴り込みをかけた文明だもの。そりゃあ、俺のいた地球の科学力なんか超えているよなぁ。


 閑話休題。

 ディアマンテ・コピーの計算とサポートのもと、ディーシーさんの協力を得て、巨大卵の周りに、冷凍装置を設置することになった。


「……想像はしていたがこれは、大工事だな」


 俺の感想に、コンピューターを調整していたディーシーが振り返った。


「それはそうだぞ、主よ。何せ、これほど巨大なものを冷凍処置しようというのだ。いくらテア・フィデリティアの技術があるとはいえ、限度というものがある」

「全長100メートルの巨大卵だもんな……」


 この案を捻り出した俺としても、このスケールは規格外だろうことはわかっていた。どこの世界に、こんなものを冷凍処置しようとする人間がいるというのか? 少なくとも、機械文明時代にはいないだろうな、と思っていた。


 それで、我らが機械文明時代の旗艦コアであるディアマンテ、そのコピーにお伺いを立てたわけだ。公開資料に見当たらなかったからね。

 その結果――


『全長50メートルほどの巨大生物ならば、冷凍処置された記録があります』


 と、ディアマンテ・コピーは検索した資料を引っ張り出した。アンバンサーの生体兵器――というワードを見て、猛烈に嫌な予感がした。


『過去、異星人がこれを惑星テラに投下しました。そのうちの一体を捕獲し、解析する一環で生きたまま保存することになったようです。……マスター?』

「いや、続けてくれ」


 できれば、アンバンサーという単語は見たくなかったんだけどね。これが出てくる時、大抵ろくなことがない。

 今回の卵だって、ベルさんはレヴィアサンとかいうレヴィアタンのような生き物と鑑定したけど、この巨大生物の誕生やらなんやらにあの異星人が関わっているんじゃないかって疑い出している。


 時代が違うからないとは思いたいが……、アポリト文明も、クルフ・ディグラートルも発掘したアンバンサーの遺物を解析して、利用していたからな。そもそも魔法で封印されていたって時点で、厄介事の予感しかしないね。


「ちなみに、そのアンバンサーの生体兵器はどうなったんだ?」

『研究の末、解体廃棄とあります』

「それはよかった」


 ちゃんと解体したのなら。ただ廃棄だったら、もしかしてどこかで生き続けているのでは、と余計な勘ぐりをするところだった。

 話を戻そう。


 巨大卵の封印が解けたこと、その背後関係の調査が進むまで、冷凍処置して延命というか保留。危険なものの可能性は高いが、本当は世界のために大事なものだったと壊してからわかっても困るんだ。


 何故、もっと調べなかったのか、って後になって議会なり民衆なりが騒ぐのが目に浮かぶ。

 かといってやっぱり危ないものだった場合、どうして発見した時点で破壊しなかったのか、とか騒ぐ奴が出てくるんだからね。何をやっても批判する奴は現れる。嫌だねぇ……。


「どうだ、ディーシー? 冷凍できそうか?」

「そのはずだ。ディアマンテの計算でも、そう出ている」


 卵の周りに無数の冷凍機械が設置されて、処理の準備が進む。冷凍装置を動かし続けるためのジェネレーターやら、観測機器とか、まるで工場を作っているような雰囲気だ。


「……もし卵の中のレヴィアサンに意識があるなら、周りの騒音にうんざりしているんじゃないか」


 俺が冗談を言えば、ディーシーは、面白くないとばかりに肩をすくめた。


「それで起きてきてしまったら、全てが無駄になるな」

「笑えない」

「言い出したのは、主だぞ」


 はいはい、そうですね。願わくば、冷凍処置が終わる前に産まれないでくれよ。

 ずっとドレッドノート級戦艦が、卵にプラズマカノンの砲口を向けているけど、気休めにしかならない。怪獣映画でもそうだけど、実際にプラズマカノンが当たっても効かなさそうに感じるのは俺だけだろうか。



  ・  ・  ・



 シーパング国にある『宇宙開発事業団』――とかいうファンタジーな世界には、あまり馴染まなさそうな名前、その研究所を俺は訪れた。


「これはこれは、珍しいお客さんだ」


 奥から姿を現したのは、クルフ・ラテース――かつての大帝国皇帝、クルフ・ディグラートルその人である。


「新しい宇宙船のアイデアでも持ってきてくれたんですか?」

「そんなんじゃないよ。……で、どうなのよ、最近」

「都市型宇宙船の開発ですか? まあまあぼちぼち、と言ったところですよ」

「どこで覚えたんだ、その言葉」

「あなたですよ、団長」


 いまだに俺を団長呼びするのは、こいつくらいだ。そのクルフは、カフェラウンジへと俺を導いた。

 セルフで飲みたいものを選んで、席につく。クルフがすっかり現代世界のサラリーマンに見える不思議。


「連絡はもらいましたけど、見てもらいたいものとは」

「これ」


 例のものが写った写真を見せる。コーヒーを一口飲み、そしてクルフは言った。


「卵ですね。しかもこの周りのものは……どれだけ巨大なんですか、この卵」


 周囲に比較するものがあると、大きさがわかりやすい。先日のジャルジーとのやりとりもあって、わざわざ撮り直したんだぜ……というのは置いておいて。


「全長約100メートル。……心当たりは?」

「あるように見えます?」

「俺より長生きだろ」

「それ、ベルさんに言ったらどうです?」


 写真をとり、クルフはじっくりと眺める。


「団長の言う大きさとなると、レヴィアサンとか……それくらいしか思い当たらないのですがね。――ベルさんが鑑定眼持ってませんでした?」

「そう、鑑定済み。それによるとレヴィアサンだそうだ」

「わかってるじゃないですか。……なら、何故私のところに来たんです?」

「知りたいのは、こいつが何で封印されていたか、なんだ」

「封印……?」


 クルフの視線が鋭くなった。


「この卵、封印されていたんですか?」

「そう。卵をわざわざ封印する理由が知りたい。マスター・ダスカたち研究チームも調べているんだがね。……心当たりは?」

「いつの時代です?」


 真剣味が増すクルフ。これは何かひっかかってるな。


「おそらくナチャーロ文明」

「ナチャーロ……。なるほど」


 クルフは写真を返すと、椅子に深々ともたれた。


「わかりました」

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― 新着の感想 ―
>解体廃棄とあります ・解体・焼却・分解廃棄までしないと、細胞レベルで再生出来たら厄介。
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