第1258話、追う者、守る者
真ディグラートル大帝国の主力魔人機、エアナル。
アラムール・カリッグや、リダラ、ドゥエルといった魔人機に代わる新型機である。
頭部形状は角のないカリッグのようなヘルメット型に、スリットタイプのアイセンサー。胴体はスマートにできており、従来機種より精悍なフォルムをしている。
鋭角的な刃を組み込んだ魔法銃――マギア・ソードライフルをメイン武装とし、左腕にブレードを収納したシールドを装備。背中に魔法砲を仕込んだ長い板状のマギアスラスターユニット2基を積んでおり、飛行能力と高速機動性を持っている。
「連合国の魔人機もどきなど、鎧袖一触である!」
真・大帝国地上軍第15装甲師団に所属する魔人機大隊は、セイスシルワ王都を目指し進撃を続けていた。
向かってくる敵は、魔人機未満の人型兵器だった。飛び道具を持っていたが、魔人機の障壁を破る威力はなく、エアナルがソードライフルを撃てば、いとも容易く撃破できた。
「ふん、もどきを手に入れても所詮は雑魚か!」
真・大帝国エアナル・パイロット、フラッペ大尉は口元を歪めた。
「これでは射的のマトだ」
『大尉殿、連中は馬鹿なのでありましょうか?』
部下たちも、セイスシルワ防衛隊のあまりの貧弱さに気が抜けていた。
『これでは逃げる敵国人に追いついてしまいます!』
「構わん。大皇帝陛下に逆らったゴミ屑など、踏み潰してしまえ!」
快進撃だった。連合国侵攻に何度も煮え湯を飲まされ続けていた大帝国である。最初はいいのだ。だが進めば進むほど、いつの間にかひっくり返されている。
ジン・アミウール然り、ファントム・アンガー然り、そしてシーパング同盟……。
だが今回は違う。
大皇帝陛下が、発掘されたナチャーロ魔法文明の転移装置により、連合国の脆い部分への強襲が可能となった。
これまで安穏としていたセイスシルワも、いきなり戦場に叩き込まれて、恐慌をきたしている。大帝国を前に逃げ回るばかり。ようやく出てきた防衛隊も、小突いたらさっさと逃げ出す弱兵である。
『大尉殿! 見えました! 避難するセイスシルワ人であります!』
若い部下がやる気を漲らせて報告する。少々調子に乗っているが、フラッペ大尉は、気を引き締めろという気分になれなかった。敵があれだけ弱いと、注意しろという言葉に説得力もクソもないのだから。
長々とした人間の列ができている。武装した軍ではない。民間人だ。
「投降せぬ愚か者は、大皇帝陛下の敵と同義である! 粛清ーっ!」
魔人機部隊は、地面を踏みしめ突撃した。兵士はいないのか、ただ逃げる人々。
その時だった。
『被弾!? 何で……ウワッー!』
魔力通信機がガリガリと音を立てる。フラッペがモニターを見れば、エアナルの1機が胴体から火を噴いて倒れた。
「敵か!」
フラッペは魔力センサーを働かせる。しかし、敵と思われる反応はない。
「どこからだ? 誰か、敵を――」
『うわああっ』
またも部下の断末魔が聞こえた。魔人機を破壊する攻撃である。歩兵とは思えない。同じ人型兵器か、機械兵器。あるいは魔法かもしれない。
「いや、それはないか」
フラッペは思い直す。魔人機には魔法障壁があり、飛び道具に対してかなりの防御性能を誇る。
そもそも、これまで出てきたセイスシルワ軍の兵器は、エアナルにまるで歯がたたなかった。
『くそっ、敵だ! 敵がいる!』
『見えない。誰か、敵を見たか!?』
部下たちが混乱している。正体不明の攻撃にさらされ、先ほどまでの威勢は消えてしまった。
くそ――フラッペはセンサーとモニターを交互に見比べる。味方がやられている。だが何に? 攻撃は見えていない。
誰も、見ていない。だが確実に魔人機は破壊されている。死神の鎌だと言うのか?
「ん……?」
一瞬、センサーが微弱な何かを捉えた気がした。じっくり凝視するフラッペは、それで外部の景色を映すモニターにかすめたシルエットを見逃した。
衝撃がコクピットを襲った。慌てて顔を上げたフラッペだが、次の瞬間、モニターを突き抜けて飛び込んできた塊に潰された。
「うあ――」
そこまでだった。フラッペ大尉のエアナルは撃破され、残された部下たちは限界を迎えた。武器をやたらめったに乱射する者、逃げ出す者など、混沌が加速したのだ。
だがその間にも、真・大帝国機は次々に破壊され、結局フラッペ隊は全滅した。
・ ・ ・
真・大帝国軍の地上部隊の侵攻に対して、シーパング同盟軍――ウィリディス陸戦部隊は迎撃を展開した。
フラッペ隊を全滅させたのは、アーマード・ソルジャー――AS部隊だった。
AS-01Sソードマン。全高6.2メートル、ウィリディス軍人型兵器ASの初期の量産型だが、防御障壁を持たず、対魔人機戦では後れを取っていた機体だ。
対障壁貫通兵器を装備することで、対抗可能になってはいたが、連合国救援に派遣された機体は、さらにバージョンアップされた型だった。
元々、ソルジャーという基本ボディに、装甲や各種装備を外装パーツとして装着して運用するのがASである。
つまり、鎧をまとうが如く、装備バリエーションで性能や機能が変わるのが特徴なのだ。
標準型のソードマン。高速戦闘型のグラディエーター。反乱軍擬装装甲のアヴァルク……。これらすべて、ガワが違えど、中身は一緒なのである。
そして今回、戦場に投入されたのはAS-01Skスケルトンである。魔力レーダーやセンサーの索敵を吸収する材質に加え、光学迷彩が使用できるステルスアーマーを装備した最新バージョンASだ。
新型マギアスラスターの採用で、高速戦闘型のグラディエーター同様の機動力を持ち、元のソードマンとは別物といえるだけの高性能機となっている。
多少、フレームであるソルジャーボディの改造が必要だったものの、標準機ソードマンをスケルトンへ換装させることで、ウィリディス軍AS部隊の戦闘力を大きく向上させることに成功した。
そして今回、ステルスで姿を消し忍び寄り、一方的に大帝国魔人機部隊を壊滅させたのだった。
「まったく、人使いの荒いことだ」
ヴェリラルド王国軍に所属する聖騎士ルインは、AS-01スケルトンのコクピットで独りごちた。
王国王都軍から、ウィリディス軍に出向したルインは、東の連合国くんだりまで行かされる羽目になった。その見返りは、ウィリディス最新鋭ASの運用と実戦経験。
「ステルスどうこうは置いておくにしても、スケルトンの性能は大したものだ」
魔法甲冑からパワードスーツ、そしてASと、ヴェリラルド王国の兵器も進化した。聖騎士ルインもまた、王国防衛のため機械兵器を学び、今では手足の如く扱えるようになっている。
賢者ジンに、ウィリディスの演習地を借りて訓練した日が懐かしく思うルインである。
「これが王都軍に配備されれば……」
王国に大帝国が攻めてきたとしても、互角以上に渡り合うことができるだろう。
「相変わらず、あの人には驚かされる」
『ルイン様、ポイニクスより入電。大帝国の後続部隊を確認。こちらの戦区に接近中とのこと』
「了解した。難民の避難には、いましばらく掛かるだろう。各機、やれるな?」
部下の騎士たちも士気旺盛だった。
民を守る、か。騎士の本懐だな、とルインは思った。
ウィリディス軍陸戦部隊は、セイスシルワ国内で大帝国部隊と交戦、撤収の時間を稼ぐのだった。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック、コロナEXにて最新21話、更新されています。どうぞよろしくです。




