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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1245/1998

第1237話、さらば、かつてのエルフの里


『大帝国艦隊、エルフ艦隊に砲撃を開始!』


 ウィリディス軍超戦艦『バルムンク』の艦橋で、俺はその時を待っていた。


「ようし。こちらも動くぞ。敵艦隊後方に転移する!」

「全艦へ。『バルムンク』は転移を行う。各員、転移姿勢」


 ラスィアが艦内に転移警報とアナウンスを流す。俺は手元のコンソールパネルで、転移地点を確認する。


 敵艦隊は24隻となっていた。遠距離砲戦を仕掛けるエルフ艦隊に対して、大帝国艦隊は反撃を開始している。


 エルフ艦隊のモル提督には、牽制(けんせい)と誘導を指示している。彼はほぼ初陣であるエルフ艦隊を率いて、うまく敵の注意を引いていた。


「バルムンク、転移する。5……4……3……2……1……転移!」


 俺は転移ボタンを押し込んだ。『バルムンク』の貯蔵魔力を使うことで、俺の転移魔法が発動。戦艦『バルムンク』は一挙に、大帝国艦隊の後方に瞬間移動した。


 正面の艦橋の窓から、オレンジ色の光が瞬いているのが見えた。大帝国艦隊がエルフ艦隊へプラズマカノンにて応戦しているのだ。


 ……砲撃している。つまり、結界水晶防御はない!


「艦首魔導放射砲、発射。一気に薙ぎ払う!」

『収束魔導放射砲、1番から3番、発射用意』


 シェイプシフター砲術長が指示を飛ばす。


 超戦艦『バルムンク』には固定式の魔導放射砲が5門装備されている。これを基本装備とし、さらに主砲塔換装システムにより、6基の主砲を魔導放射砲へチェンジさせることができる。


 まあ、敵艦隊の規模を見れば、艦首の3門だけでも充分過ぎるが。


『魔導放射砲1番から3番、発射準備完了!』

「撃てっ!」


 超戦艦の艦首に装備された、艦隊決戦砲とも言うべき超兵器が太陽と見まがう光を放射した。



  ・  ・  ・



『後方より、光――!』


 真・ディグラートル大帝国第三艦隊『トルナード』の司令塔で、悲鳴にも似た報告が響いた時、イアルホール中将と参謀たちは、振り返ることしかできなかった。


 土石流に押し流されるが如く、大帝国艦隊は光の流れに飲み込まれた。


 為す術なし。


 スティグメ帝国艦隊を葬ったイアルホール中将以下、第三艦隊残存艦は戦場の露と消えたのだった。



  ・  ・  ・



 敵艦隊消滅。


 スティグメ帝国艦隊に続き、世界樹を狙ってやってきた大帝国艦隊も撃滅した。


 俺は、偵察機と観測ポッドによる警戒を命じつつ、『バルムンク』をエルフ艦隊ならびにウィリディス艦隊に合流させた。


「……」

「どうされました、ジン様?」


 エルダーエルフのニムが、俺に声を掛けた。戦術モニターを凝視(ぎょうし)していたせいかな。


「いや、つい昨日まで、ここに世界樹があったと思うとね」

「確かに。不思議な気分になります」


 ニムも、世界樹があった古代樹の森、その跡地へと視線を向けた。


 そこは森などなく、巨大過ぎるクレーターじみたへこみがあった。しかも広い範囲、数十キロ範囲という広大なエリアが、地面ごと抉られたような地形を形作っていた。


 かつてのアポリト浮遊島、そのひとつがあった場所だ。昨晩のうちに浮上させ、そして罠を仕掛けるために、そのまま転移させた。


 エルフの里と世界樹は、今頃、シーパング島に合流しているだろう。


 昨晩はスティグメ帝国が、魔人機部隊を大挙送り出してきたが、転移と罠の存在を知られないために、全力迎撃させて浮遊島の範囲には近づけさせなかった。


 それが上手くいったからこそ、今日の戦いで、スティグメ帝国軍が世界樹にほいほい引き寄せられ、罠の発動と、大帝国艦隊との潰し合いが成功したと言える。


 ……あれがなかったら、果たして戦いはどうなっていたことか。


「完全勝利でした」


 ニムが唐突(とうとつ)に言った。


「何だって?」

「世界樹を敵に渡さず、エルフの里にも民にも犠牲者はなし。大帝国、スティグメ帝国の双方の戦力を全滅させ、同胞のエルフ軍にも戦闘経験を積ませました」

「犠牲者は出ているよ」


 昨日の、敵魔人機部隊の進撃を阻止したエルフ地上部隊の魔人機やパワードスーツ乗りに一桁の戦死者が。


 わずか一桁。これほどの規模の艦隊戦が行われて、味方の犠牲者はわずかである。されど一桁だ。里と家族を守るために戦死したエルフに哀悼の意を表する。


「昨晩の戦いは、里の転移までの時間稼ぎ。その後の作戦の成功を見ても、決して無駄死にではありません」


 ニムは言った。


「同胞のために戦った勇士も、報われます」

「そうだな……」


 残された家族には辛いだろうが。その数が少なかったのはよかったが、やはり皆無ではなかったからね。悲しむ人もいる。その人たちのことも忘れてはいけない。


 オペレーター席のラスィアが振り返った。


「閣下、全艦集結完了。展開していた艦載機も全て帰還を確認しました」

「了解した。では、シーパング島への艦隊転移を行う」


 このまま移動して帰ってもいいのだが、大帝国の偵察機などに追尾されて、シーパング島まで案内してしまう愚は冒せない。


 俺は最後に、もう一度だけ、かつて世界樹があった古代樹の森の跡地をモニターごしに見た。


 何も知らない者から見たら、エルフの里が根こそぎ吹き飛ばされたように見えるんだろうな……。


 世界樹がなくなったことで、この地に戦略的価値はほぼ失われた。まあ周辺国の制圧のための拠点を置けば話も変わるが、少なくとも俺たちウィリディス軍にとってはあまり関係のないことだ。


 艦隊は、かつてのエルフの里があった場所を離れ、その里が向かった先であるシーパング島へ転移した。

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