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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1244/2029

第1236話、送り狼


 真・大帝国第三艦隊司令部が、超高速砲弾について頭を悩ませたが、結局のところ事実は単純である。


 10や20の戦艦もなく、使い捨て超高速砲弾を積んだクルーザーで数埋めをした、などということもなく、たった2隻の超戦艦が、超兵器であるレールガンを撃ち込んだだけである。


 真・帝国軍人は、砲弾が『ポータル転移』で飛ばされてきたことに、考えが及ばなかったのだ。


 観測機を兼ねた、レイヴンステルス偵察機による直接照準は、大帝国第三艦隊を一方的に叩き潰した。


 さらに数をすり減らしたところに、ジン・アミウールは次の手を打った。


 大帝国第三艦隊に向けて、エルフ艦隊を送り込んだのである。


 エルフは、戦艦6、巡洋艦8、空母4、駆逐艦16を保有するが、うち戦艦5、巡洋艦6、駆逐艦12を、真・大帝国艦隊へのトドメに差し向けたのだった。


 エルフ軍打撃艦隊の旗艦である戦艦『モノマキア』は、旧アポリト魔法文明のインスィー級戦艦をウィリディス軍が改装し、エルフに提供したものだ。


「全艦全速ー! 砲戦距離まで前進せよ!」


 モノマキア艦橋で、指示を出すはエルダーエルフのモル提督である。


 彼はアポリト文明時代の生き残りであり、ジンの従者であるエルダーエルフのニムと同じく、長き眠りについていた。

 ただし、ニムが世界樹内だったのに対し、モルは地下の魔法文明施設であり、その存在はエルフたちでさえ、最近まで知らなかったが。

 ともあれ、彼は9900年の時を経て、甦ったのである。


「再びジン・アミウール様の下で戦える日が来ようとは……! エルフの本懐ここにあり!」


 モルは、新生アポリト帝国との最終決戦時にもエルフの士官として戦った歴戦の人物である。故に空中艦艇に関して、今いるエルフたちの中ではキャリアも経験も段違いのベテランだった。


 そんな彼だから、人間に作られ、奴隷として扱われていた白エルフの解放者であるジンの下で戦えるのは、喜び以外の何ものでもなかった。


「敵艦隊、戦艦3、クルーザー7、フリゲート18」

「空母は?」

「確認できず。おそらく『バルムンク』が全て撃沈したかと……」

「さすがはジン様だ」


 モルは相好を崩した。エルフ軍には軽空母が4隻あるが、その艦載機は搭乗員の技量を込みでまだまだ心許ない。


 こちらが接近する際に、航空機による攻撃を仕掛けられると面倒ではあった。だが、その心配は無用である。


 すでに大帝国艦隊は、スティグメ帝国艦隊との決戦で消耗し、シーパング艦隊のアウトレンジ攻撃で壊滅状態である。ジン・アミウールは、エルフの里へやってきた敵を完膚なきまでに叩こうと考えているのだ。


 ――いや、我がエルフ軍にも戦闘経験を積ませようとしているのだろうな。


 モルは心の中で呟いた。


 ウィリディス・シーパングの協力により急激な近代化が進んだエルフ軍であるが、機械の扱いに関しては、お粗末なもので、外面を整えても中身が伴っていない。


 経験者であるモルから見ても、古代文明時代、奴隷だった頃のエルフは今よりもっと魔法機械に接し、使いこなしていた。


 独立のために戦った当時のエルフたちが子孫の状況を知れば泣くぞ、とエルダーエルフのモルは思う。


「提督、間もなく、主砲射程範囲に入ります」


 エルフ艦長の報告にモルは頷いた。


「面舵40。同航戦、用意」

「了解。面舵40!」

「おもかーじ!」


 戦艦『モノマキア』は艦首を右に向け、大帝国艦隊と距離を置いて並走する。後続の4隻の戦艦も、『モノマキア』に続き、一列に並んでいる。


 エルフ艦隊の戦艦は2タイプ存在する。モノマキア級とフォエドゥス級であり、前者は30.5センチ三連装プラズマカノン8基24門、後者は30.5センチ連装プラズマカノン6基12門となっている。


 ウィリディス軍(シーパング軍)、ディグラートル大帝国、スティグメ帝国……これら列強の主力戦艦に比べると主砲は小ぶりではあるものの、それ以外の、たとえば連合国と比較すれば、特に前者のモノマキア級は圧倒的火力を有していた。


 エルフ戦艦5隻の30.5センチプラズマカノンが左へ指向、真・大帝国艦隊をその照準に捉える。


「よく狙え。大帝国の連中の鼻っ面にかましてやれ!」


 正直、30.5センチ砲の最大射程ではあるが、大帝国艦隊の、特に戦艦には効果はあまりないと思われる。展開している防御シールドや装甲が強固であるし、結界水晶を展開されていたら、そもそも砲の威力は関係なくなる。


「艦長。我々の任務は嫌がらせだ。攻撃よりも防御中心で行くぞ」

「はっ、心得ております」


 モルとエルフ艦長がやりとりをしている間に、砲術長より「砲撃準備よし」の報告がきた。


「砲撃始め!」


 エルフ戦艦群から、プラズマカノンの光が放たれた。シップコアの射撃管制アシストのおかげか、放たれた青い光弾は大帝国艦に吸い込まれた。


 パッと火花が弾けた。うっすらと煙を引いていた敵三番艦で爆発が起きたが、それ以外の艦には命中したが特に何も起こらなかった。


「スティグメ帝国との戦いで損傷していた艦に効果があったようですね」


 双眼鏡を覗き込むエルフ艦長。


「それ以外は、防御シールドで弾かれました」

「まあ、そうなるだろうな。本艦と『アグレッシオー』『レベリオー』は戦艦への砲撃を続行。『フォエドゥス』と『ウルティオー』は敵クルーザーへ目標を変更」


 モル提督は指示を出す。


「こちらはちょっかいを出しているのだ。撃ち返してこい!」


 エルフ艦隊は砲撃を続ける。大帝国艦隊は、損傷艦がいるせいか速度は遅く、離脱に徹するかに見えた。


 だが、大帝国第三艦隊もやられてばかりではない。



  ・  ・  ・



「反撃せよ。エルフ如きの艦など蹴散らしてしまえ!」


 真・大帝国第三艦隊司令長官イアルホール中将は、苦り切った顔である。


「ジン・アミウールの軍勢ならまだしも、エルフの艦隊だと……」

「彼らもシーパングから軍事援助を受けたのでしょうな」


 参謀長の表情もまた厳めしい。


「そうとしか考えられん。下等な亜人に機械兵器など」


 ディグラートル大皇帝の亜人差別主義は、彼をトップと仰ぐ真・大帝国臣民にも深く浸透(しんとう)している。特に大皇帝を絶対と定める親衛隊の人間には。


「こちらの戦力がほぼ壊滅しているのを見て、チャンスと見たのでしょうか……」

「残飯漁りとでも言うのか。下等種族らしい小賢しさよ」


 だが、敵戦艦級の火力はアポリト文明艦より向上していても、コルドアⅡ級の敵ではない。


「その浅慮(せんりょ)を、命を代償に教えてやる!」

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