第1235話、わからないことは難しく考えてしまう
真・大帝国第三艦隊は、正体不明の攻撃にさらされていた。
旗艦『トルナード』の司令塔で、イアルホール中将は顔をしかめた。
「敵の姿が見えない」
遠方から超高速の物体が飛来したと認識した時には、味方の艦が貫かれて爆沈する。
「砲弾、なのか……?」
結界水晶防御で守られた真・大帝国新戦艦が、たった一撃で大破、轟沈していく。戦艦の装甲をも貫通するその威力。狙われたら最後だ。
「ランダム回避! 僚艦に注意しつつ、回避運動!」
第三艦隊各艦は、どこに敵がいるかわからず、しかしそれぞれが回避行動を行う。ただ真っ直ぐ飛行していては、的になるだけなのだ。
しかし、どこからともなく飛んでくる超高速砲弾は、そんな回避を嘲うように1隻、また1隻と真・大帝国艦艇を葬っていく。
「敵の姿を観測できないのか……?」
イアルホール中将の呟きに、艦長が振り返った。
「対空監視、その他索敵にも敵とおぼしき反応はありません!」
「超長距離砲撃……」
索敵範囲外からのアウトレンジ。そもそも敵の姿もわからないのでは、反撃もできない。
「攻撃地点も不明。しかし弾道を見るに、我が艦隊は包囲されていることになりますな」
参謀長は唸った。
「しかし、こんなことは……あり得ない」
砲弾というのは遠距離になればなるほど、命中させるのは難しい。風速、風向きなどの大気状況、彼我の位置、速度や向き、その他さまざまな要素を加えての弾道計算。とかく必要なデータや計算が必須であり、それをやらせる機械の性能も重要。
敵の超高速砲弾の直進性の高さは、ある程度の条件を無視できる可能性はあっても、まったく計算しないわけでもないはずだ。
いや、そこはまだいい。敵が高度な射撃装置を有している、で納得はできるからだ。
問題なのは、砲弾の威力が凄まじく、重装甲の戦艦級ですら轟沈させる威力を持つことだ。そのクラスの砲を運用できる艦艇ともなれば、おそらく敵は戦艦級となるだろう。
そんな一撃撃沈させる砲を持った戦艦級が、敵にゴロゴロしているのだ。これは恐ろしいことだ。
真・大帝国の艦隊が手も足も出ないうちに一方的に壊滅させるだけの敵から攻撃を受けているのだから。
「事実は事実として、目の前で起きている」
イアルホール中将は唇の端を吊り上げた。
「こんなことができる敵となると、やはりシーパング。ジン・アミウールか」
「神出鬼没の魔術師」
参謀長が苦い顔になる。
「まさに、その異名にふさわしい攻撃ですな。こちらは、あやつの艦隊の姿を見ることすらかなわない」
「これはどうなんだろうな」
イアルホール中将は考え込む。
「あの武器はいったいなんだ?」
「実弾系の砲弾なのは間違いないでしょう。しかし瞬きの間にやられているというのは……」
「砲弾が火に包まれて見えるのは?」
「おそらく大気との摩擦の影響でしょうな。それほどまでに速いのでしょう」
「何隻あると思う、参謀長?」
敵の超高速砲弾を撃ちだす戦艦は?――イアルホール中将の言葉に、参謀長はまたも唸る。
「見たところ、あまりに弾道がバラバラですからな……。少なくとも10隻以上はいるものかと」
「敵がどこから撃っているのかわからないのが痛い」
「どこからか観測しているとは思うのですが……。航空参謀! 偵察機は?」
「依然、敵影を確認できません。……それと参謀陣で話していたのですが」
航空参謀が難しい顔で言った。
「もしかしたら、敵は一発使い捨ての砲弾を使っているのではないか、と」
「というと?」
イアルホール中将が聞けば、航空参謀は説明を始めた。
「観測した砲弾の出所が、どうにも不自然なのが気になりまして……。艦艇の砲撃というより、陸軍が研究していた砲兵狙撃戦術、つまり一回攻撃したら移動して陣地を変更するそれのようだと思いまして」
「陸上からの砲撃?」
「いえ、回避運動をする艦艇に直撃させられるところからして、射角が限定される地上設置型の砲台はないでしょう」
航空参謀は、同僚である砲術参謀を見た。
「出所がバラバラなのは、この超高速砲弾を撃ったのが戦艦だけでなく、クルーザー級も撃っているからではないか、と推察しました」
「クルーザーにこんな大威力の武器を運用できるのか?」
参謀長が睨めば、砲術参謀が頷いた。
「専用の砲艦の可能性もあります。その超高速砲弾を使う大砲を1門だけ装備して他はオミットしている艦かも」
他に余計な装備を載せず、その兵器ひとつだけに特化した艦艇があるならば、確かに戦艦級武装をクルーザーにも積めるだろう。それ以外の用途で使えない艦となるだろうから、費用対効果が見込めるかは怪しいが。
「ですが、今回の場合は、1回だけ撃てればよしという使い捨ての砲を使っているのでは、と思います。それならば攻撃の出所が毎回違うのも説明がつきます」
戦艦なり、専用の艦が連続して運用しているなら、ある程度移動はしても、最初の攻撃から比較的近い場所から撃ってくるはずだ。だがそれだと、飛んでくるのが観測された場所がバラバラなのが説明がつかない。
たとえば20隻がそれぞれ1回ずつ砲撃したなら、なるほど攻撃の観測された弾道が異なるのも理解できる。
「少なくとも、こんな超兵器を使用できる戦艦が10も20も使っているというよりは現実的かと思われます」
どのような兵器であろうとも、性能が高いものはコストも高く運用も難しい。仮に大帝国に同様の技術があったとて、どれだけの艦を建造できるというのか?
「わからぬぞ。相手はあのシーパングだ」
イアルホール中将は意味深な笑みを浮かべた。
「連中は少なくとも、我が方の先を行っていると思われる。まだ見ぬ超大国だ。そんな非現実的な兵器の10や20。いや50を運用できる国力を持っているかもしれぬ」
自分たちの尺度で図ってはいけない。それがジン・アミウールであり、シーパングだ――イアルホール中将は思う。
そして状況は動く。
「報告! 本艦隊に接近しつつある敵艦隊を発見!」
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