第1042話、先制航空隊
大帝国第二艦隊が、エルフの里近くにまで迫っていた。
世界樹がそびえる里を囲むは、広大なる古代樹の森。俺たち、ウィリディス艦隊はその守護者として上空にあった。
青の艦隊、そしてエルフの艦隊と共に大帝国の侵攻を待ち構えている。俺は旗艦である巡洋戦艦『ディアマンテ』の艦橋にいた。
「閣下、敵偵察機が接近中です」
旗艦コアであるディアマンテが報告した。
「間もなく、世界樹と展開中の本艦隊を目視確認すると思われます」
エルフの里の状況を探ろうと送り込まれた偵察機だろう。そしてこちらの防備を見て、本隊に通報するのがその任務である。
「予定通りだな」
俺は司令官席にいて、頷いた。
「こっちの陣容を見てもらえ。敵が通報したら、撃墜だ」
「はい、空中に戦闘機小隊を待機させてあります」
「結構」
本来なら、情報を持ち帰らせないために、発見したら素早く撃墜するのがセオリーだ。敵に正確な数や陣形などを知られれば、弱点を探られることに繋がる。
ただ、敵の偵察でこちらの全容は掴まれないことはわかっている。……だから間違った認識を持ってもらうために、敢えて見せようというのだ。
「さて、敵の指揮官は、こちらの陣容を見て、どう判断するかな?」
・ ・ ・
ディグラートル大帝国第二艦隊、旗艦『ランポス』の司令塔にて、ヒュース海軍中将は、偵察機がもたらした情報を、幕僚たちと検討していた。
「敵は世界樹の手前にて展開。大型戦艦を含む戦艦19、巡洋艦16、空母3、小型艦20以上……」
「さらにこれとは別に、戦艦3、小型空母3、巡洋艦8、小型艦30以上の別動隊がいるようです」
通信参謀の報告に、ヒュース中将は顎に手を当て、考えるポーズをとった。
「かなりの大艦隊だな」
「はっ。合計すれば戦艦22、巡洋艦24、空母6、小型艦は最低でも50以上……。数では我がほうが若干上回っていますが、ほぼ互角とみてよいでしょう」
参謀長は言った。
第二艦隊は、戦艦25、重巡洋艦25、空母10、フリゲート60からなる。
「つくづく、第四艦隊が失われたのが痛いですな」
第四艦隊が健在ならば、敵の倍の戦力で圧倒てきたものを。参謀長が顔をしかめれば、航空参謀が発言した。
「閣下、敵は空母戦力が我が艦隊より劣っております。ここは、航空隊にて、先制攻撃を仕掛けましょう!」
「やれるかね?」
ヒュースが問えば、航空参謀は力強く頷いた。
「報告によれば、敵は我がほうの空母より小ぶりの空母。それも6隻のみ! こちらは10隻、艦載機の数もこちらが上回っておりましょう! 制空権を確保すれば、艦隊決戦を仕掛けつつ、航空隊による同時攻撃を仕掛けることができます! さすれば、戦いを有利に進めることができるでしょう!」
航空参謀は血気盛んに、早口にまくしたてた。
「敵は揚陸艦隊を攻撃しましたが、その数は少数機でした。そのわけがこの空母の数です。敵の航空兵力が、我がほうより劣っていることが証明されました。数があれば、そもそも一気に攻めることができたはずですから!」
「ふむ……」
大帝国内において、空母と航空機の運用は始まって日が浅い。今回、空母航空隊にとって、本格的な会戦におけるデビューとなる。自然と航空参謀の鼻息も荒かった。
正直に言えば、ヒュース中将は、空中艦隊の運用はともかく、空母戦と航空隊の扱いについて指揮をする自信がなかった。
だが、これも無理もない話だった。急激な兵器の進化と、戦術、運用の変化。わずか数カ月前には存在しなかったものを、いきなり使いこなせと、いうのは難しいのだ。
ダークエルフ兵を量産し、それで兵器の運用は問題なくなったとしても、指揮官の頭が進化するわけではない。
新兵器に対応し、戦術に落とし込めるシェード将軍のほうが、むしろ珍しいタイプと言える。
「参謀長、どうかね?」
「航空参謀の言うとおり、空母戦力は我が艦隊が優勢ではあります」
しかし、参謀長の表情は硬い。
「ただ、ここは敵地です。航空機の運用は何も空母だけでなく、地上からでも基地さえあれば運用できます」
「しかし、相手はエルフですぞ?」
航空参謀が言った。
「原始的な亜人種族に航空機など使えるわけがない!」
大帝国にありがちな、亜人差別が出た。ヒュース中将は『こちらもダークエルフ兵を使っているのだが……』と心の中で呟いた。
知識と訓練があれば、エルフにだって戦闘機を操ることができるのではないか?
「エルフは自然の中でしか生きられない蛮族です。機械兵器とはもっとも相性が悪い。さらに他種族に対して排他的となれば、彼らが航空機に頼り、自らの領域に航空基地など作るなどあり得ません!」
航空参謀の発言に、幕僚たちも同意するように頷く。……言われてみれば、もっともだ、とヒュースも思った。飛行場を作るために、森の木を切るという発想がエルフにあるわけがない。
「よろしい。では空母群に下命。航空攻撃で先手をとる。攻撃隊を出撃させよ!」
提督は決断した。
第二艦隊司令部の命令は、艦隊後方に随伴するコンカス級空母10隻にただちに伝えられた。
コンカス級は全長240メートル。格納庫に60機の航空機を搭載する正規空母である。これに露天甲板に18機を載せており、1隻あたり78機の艦載機を運用できる。
ただちに、第一次攻撃隊が発艦した。船体中央の飛行甲板と、艦橋のある上部飛行甲板の二段式空母であるコンカス級から、戦闘機の機首に円盤型胴体を持つラロス戦闘機、トンボのような見た目のリヴェルリ攻撃機が次々に飛び立つ。
第一次攻撃隊は計380機――戦闘機180、攻撃機200の大編隊である。
エルフの里の敵空母はコンカス級より小型であり、その艦載機数もせいぜい240から多くても300機くらいだと想定された。
それぞれ戦闘機と攻撃機に分かれるため、敵が空母の戦闘機を全部振り向けたとしても、それを上回る数の戦闘機で圧倒できる、と考えられた。
先手を取れたことに、第二艦隊司令部は満足し、その戦果を大いに期待するのだった。
・ ・ ・
ウィリディス艦隊旗艦『ディアマンテ』。
大帝国艦隊から、攻撃隊が発艦したという報告が、俺のもとに届いた。敵さんの行動は、観測ポッドとステルス偵察機により筒抜けである。
「敵、戦爆連合、およそ380、接近中!」
「まあ、こちらの空母が少ないと判断したんだろうね。足の長い航空機で先制は常道だ」
それ故、読みやすいがね。俺はニヤリとした。
「では、こちらも航空機で迎撃しよう。直援空母より迎撃機を発進。それと、アーリィーの第三艦隊に航空隊の発艦を打電」
我が第二艦隊の空母3隻、青の艦隊の空母3隻――そしてアーリィーの第三艦隊の空母『8隻』から、反撃の矢が放たれた。
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ニコニコ静画にて英雄魔術師コミック版連載中。現在七話まで更新。こちらもよろしく!




