第1029話、ウィリディス軍の電撃掌握
ヴェリラルド王国南方領。十二あるそれのうち十の領が、今回、王国に反旗を翻した。
反乱は即時、鎮圧され、ラーゲン侯爵以下、反逆貴族の極刑は免れない。
残す問題は、彼らの領地である。
もともとヴェリラルド王国の、つまりは国王陛下の土地であり、それらはすべて王に返還された。
が、その返還された土地を運営していく者が必要だ。そこで俺に白羽の矢が立てられたわけだ。
南方領を、王は俺に与えた。
クレニエール東方侯爵、ムカイド北方侯爵、リッケン西方侯爵に並ぶ、トキトモ南方侯爵の誕生というわけだ。
……別に望んでそうなったわけではないが。
エマン王や侯爵たちを前にした会議で、今後の方針案に意見を出したのがいけなかったかもしれない。あの時、お任せします、と言っておけば、南方領を任せられずに済んだかも。
なお地方侯爵と言ったところで、その領域内すべてを治めているわけではない。その領域にいる伯爵、男爵などはそれぞれの領を管理運営しており、地方侯爵は、相談役や、他国の侵略などに対して現地領主軍の総大将を務めたりする程度である。
だが――
「見事に、全部、ジンの領地だよ」
アーリィーは苦笑していた。
「十の領地の貴族は、全員交代。というより領の境が消えたから、全部、ジン・トキトモ侯爵領だよ」
「なお、領地の広さで、ヴェリラルド王国一番の模様」
あー、これは頭を抱えたい。領地が広いってことは、ここでの税収回収にケチがつくと、王国のほうにも大きな被害を与えてしまうということだ。責任重大じゃねーか。
いやまあ、貴族の立場なんて、いつだって責任ってのが付きまとうんだがね。
当面は、南方貴族らの遺産をそのまま流用する。極刑免れない彼らの財産は没収の上、今後の南方領経営のために用いられる。エマン王からもそのように了承を得ている。
俺としては、放逐された貴族の頭をすげ替え、それ以外では現状を維持しつつ、改善点を徐々に変えていく方向でいく。
いきなり全部ぶち壊すと、対応できない人間による否定や反対が出る。改善する必要がある部分はもちろん即時変えていくが、人には順応できる速度というものがあるのだ。
……まあ、最終的には、ノイ・アーベントのような近代的都市に変わっていくだろうけどね。
物事には順序というものがある。新参者は、何もかも新しくして自分流を演出しがちだが、古参の保守派からは嫌われるのよね。
今回のように、あまりに広い範囲だと特にね……。
「でもジャルジーも、クレニエール候も手伝ってくれるって」
アーリィーは俺の肩を揉んでくれた。
「ジャルジーは、まあ好意で言ってくれたんだろうけど、クレニエール候はどこかでおこぼれがないか狙ってるふしがあるな」
あの狸親父は抜け目ない。もっとも、俺に対して敵意はないから、あの人なら南方領の一部を渡してもいいと思っている。……もっとも、王から賜った土地だから、そういうのは問題かもしれないが。
なに、エマン王に直談判できる立場だから、いざという時はそれで通るんだよ。
「まあ、南方領の掌握は急がないとな。……君にも働いてもらうぞ、アーリィー」
「もちろん! で、ボクは具体的に何をすればいいのかな?」
「南方領の町、村、集落に領主の交代と統治体制の変更の通知。前領主に忠義を尽くして反抗する勢力の排除、かな」
町や村などには、シェイプシフター駐屯兵を派遣し、治安維持と以後の運営を進めていく。
「まあ反抗勢力なんて、極小数だと思うけどね。戦える主な連中は、南方軍に招集されて、もう無力化させたから」
ただ、残っているお留守番連中で、数人、十数人単位で抵抗してくる可能性はあった。
「前領主が全員クビだから、雇用関係も解消された。新しく俺に雇ってもらえないと、たちまち路頭に迷うことになるんだけどね」
極刑になるだろうラーゲン侯爵ら南方貴族に義理立てしたって、もうビタ一文もらえないわけで。
人が増えると給料の支払いもその分増えるわけで、きっちり領地を経営していかないと、色々まずい。
「現地の役人やら代官、お留守番連中の責任者を全員集めて、俺の口から説明しないといけないな」
あー、嫌だ嫌だ。皆の前でスピーチかよ。
・ ・ ・
南方領の掌握活動は、迅速に行われた。
地上をちんたら歩く必要はなく、空中艦艇や兵員輸送部隊で、各都市と防衛拠点へ直接乗り込んだ。
そのため、地元勢力は防衛態勢を整える時間も与えられず、ほぼ無血開城状態だった。まあ、こちらは王国軍の旗を掲げているのだ。南方貴族の反乱が失敗したことはそれでお察しだったのだ。
乗り込んだウィリディス軍のシェイプシフター駐屯兵は、現地の責任者とその配下たちに、領主の交代を通告。前任者は反逆罪で処罰され、以後、南方各領は俺の統治下に置かれる旨を告げて回った。
なお前任者を支持し、反逆の意志を示した者はその場で拘束するように俺は命じた。せっかく手薄な時に乗り込んでいるのだ。ひと合戦して、忠義に死ぬとか、余計なトラブルを起こされてもたまらない。
そうこうしているうちに、王都にてラーゲン侯爵ら元南方貴族と、その企てに深く関わった人物らが公開処刑となった。
これで民の間にも、今回の騒動と反逆者の処罰が広く知れ渡ることになるだろう。一方で、南方貴族の家族や親族らは国外追放となった。
さて、その間にも俺は、ウィリディス軍の活動を遂行しながら、南方領の掌握を進めていた。
都市管理コアであるグラナデ・コピー、そしてノイ・アーベントのパルツィ氏の元で運営を学んだシェイプシフターを量産し、南方領各所に配備する準備をやる。
現地のシェイプシフター駐屯兵は、ポータルリングを使った移動ネットワークを構築させたので、前任者が配置した責任者一同を一カ所に集めた。
城や砦、都市の責任者ら百を超える人間たちを前に、俺は新たな南方領の領主として挨拶をした。
「この度、南方侯爵をエマン王陛下より賜ったジン・トキトモです」
見た目、若造なので、第一声だけ年上の皆様に言って、後は普通にする。
「前任の領主は、王陛下に反逆したことは、ここにいる一同、全員知っていると思う。……何せ留守を預かっている立場だったわけだからね」
集められた者たちの多くが、戦々恐々としていた。反逆者の処罰という体で、いつ首をはねられてもおかしくないと思っているのだろう。
「当面の間は、これまで通り、それぞれの担当範囲を管理運営してもらいたい。ただし、これは猶予期間である。領主である私の意に添わない者は、職から追放するので、そのつもりで」
ざわつく会場。下手をしたら前任の領主らと同じ運命を辿ることを暗に告げる。
「成果を上げた者、優秀と判断した者は登用し、それなりの待遇を約束しよう。頑張ってもらいたい」
アメとムチ。
そこから今後の運営を俺は語った。まず変えるのは、各種税の見直しである。
意味のわからない、つまらない税があるなら、それを廃止だ!
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