第1030話、方針説明会
留守番する組から、正式な代官へ。
南方領を維持している各拠点・都市の責任者らに、俺の方針を伝えた。
その第一として、地方の貴族が作った意味のない税や、民にとってプラスにならない法は廃止していく。
地方を治めている貴族やら偉い人は、その土地では小さな王様だからね。結構、好き勝手が許されている部分もあって、わけのわからない税や法がまかり通っていたりする。
他、治安維持の問題、領の今後を話して、会合は終了。その説明会の後、俺は休憩がてら、ベルさんやアーリィー、諜報部のスフェラとお話タイムを過ごす。
「初夜税」
「本当にあるのか、そんなの」
ベルさんが眉をひそめた。
権力者が、新婚夫婦の初夜に、旦那より先に奥さんに手をつけるとかいうヤベー税、ないし権利。中世に本当にあったとかなかったとか。
「貴族ってのは往々にして、横暴な輩もいるものさ。特に貴族の家に生まれたからと、やたら差別丸出しな奴もいるだろ?」
「あー、いたな。王都の学校にも」
アクティス魔法騎士学校にいたこともある俺である。ベルさんもそこで、クソみたいな言い分の貴族のガキを見ていた。
「まあ、ないならないでいい。あったら潰すよ、ってだけ」
理不尽な税や権利は、なしの方向で行く。幸か不幸か、貴族の頭数が減ったからね。先日の反乱騒動で。
地方には当面、ウィリディス軍駐屯部隊が展開し、治安維持と外敵への対処を担う。
「地方に独自の守備隊を編成する」
ASを派遣するまでもないが、大型魔獣対策にパワードスーツ、その他、車両も配備する予定だ。それは従来のものより近代寄りのものとするので、運用までに少々時間がかかるのだ。
「地元の守備隊かぁ」
アーリィーが言えば、俺は頷いた。
「まあ、警察みたいなものだな。魔獣は基本、地元の冒険者がやってくれるだろうから、盗賊とか、町に害を為す連中への対策かな」
で、かつての反逆貴族らの南方領は、全部、俺に丸投げされひとつになった。が、急に言われても地元民も困るだろうから、『県』という形でそれぞれ残した。
地域によって特徴も環境も違うから、一律では対応しきれない部分もでてくるだろう。細かな部分は県ごとに適切な形で対応できるようにする。
「ひとまず県は、グラナデ・コピーとシェイプシフター代官に担ってもらう。ウィリディスは、いつだって人がいないからな」
あとはそれぞれ地方の代官たちが、それぞれの担当地域を運営していくわけだが、ここで使えない奴は、ドンドン弾いていく予定だ。
よからぬことを企むヤツ、民をないがしろにして私腹を肥やすヤツも、クビ切り対象だ。この辺りは、シェイプシフター諜報部から、新たに統治監視部門を作る。
「スフェラ」
『はい。諜報部仕込みの潜入シェイプシフターが、それぞれ監視の目を光らせます』
「他の侯爵たちも、反逆者が選んだ者を引き続き登用することに難色を示されていたからね」
むしろ監視をつけないと怒られてしまうだろう。ということで堂々とスパイを送り込む。
『都市や拠点もそうですが、村や集落にも、監視を送る必要があると思われます』
「そういや、村とかの長は呼ばなかったよな?」
ベルさんが問うてきた。先の説明会も、町長以上が対象だった。そりゃね、村や小集落の長まで読んだら、数が凄いことになるのよ。
「村や集落といった規模だと、領主が変わったといっても劇的な変化はないと思う」
もちろん、よい領主が治めていた土地なら、多少混乱はあるだろうけど。
ただ、偵察機による報告と、地元領主の把握している町や村、集落の数が一致していない。隠れ里ではないが、領主も把握していない小集落も、ちらほらあったりする。
「通達はするし、法の変更点も知らせる。そこは順次やっていく」
反乱軍として招集された農民兵は、地元に帰されているので、そちらからも領主が変わったという話が伝わるだろう。
ただ、この把握されていない小集落は問題だろうな。知られていないから、税とかそういうのもなかった。そこに領主の土地だから、と言ったら、「はい、そうですか」と頷くやつもいないだろう。
忌々しい。
まあ、それはそれとして――
「監視といっても、中よりも外を見張ることになるかもしれないな」
南方領の反乱のゴタゴタで治安が悪化すると考えて、悪党や盗賊が流れ込んでくる可能性は高い。
ウィリディス軍による早期反乱の鎮圧により、混乱は最小限に留まっている。だがそれを知らない、反乱と聞いただけでやってくる愚か者はいるものだ。
「領の外から流れてくる者たちに注意を払う必要がある。武装している連中は、すべて取り締まるくらいのつもりでやっていく」
観測機やウィリディスの戦闘部隊を配置し、領民に被害が出ないように対応する。
「早期発見、早期対処だ」
「早期で思い出したけど――」
アーリィーが南方領の地図を見下ろした。ウィリディス製の最新版だ。この世界のどこにもこれほど精巧な地図はない。
「説明会では、街道整備を進めるって言っていたよね」
「移動と流通のしやすさの強化だな。特に魔法自動車による移動速度の向上を見込んでる」
商業や流通の発展。ノイ・アーベントでやったことを南方領でもやっていく。うちの建設部門は、道作りも早い。
「反対意見とか出ると思ったけど、そういうのなかったね」
「集まった連中は、新しい領主さまに意見して首をはねられたくないんだろうよ」
ベルさんが皮肉っぽく言った。
平時には道路の整備は重要だが、戦時では敵の速やかな移動を許す恐れがあって、二の足を踏む王族や領主は少なくない。
「うちは、空からも移動できるからな。敵が道路を進んできたところで、好きに叩ける」
俺は相好を崩した。
「むしろ、敵が街道を使ってくれれば、探す手間も少なくて済む」
動物もそうだが、人も移動しやすいルートを進みたがるものだ。迎撃地点が割り出しやすいから、一概に街道が不利ということもない。
他にも色々と問題はあるだろうが、後はその都度、対応していく。
「方針は示した。あとは皆がそのように働いてくれるのを期待するのみだよ」
俺は俺で、大帝国戦争などで忙しい。まあ、最近では優秀なコピーコアやシェイプシフターたちが、俺がいなくても万事やってくれている。任せられるところは任せる、それもまた指導者の理想である。
「さあて、スフェラ。かの我らが友人、大帝国の動きはどうなっている?」
戦力の立て直しで、本国の守りを固めているディグラートル大帝国だが、いつまでも大人しくはしていないだろう。
『はい、マスター。大帝国に新たな作戦の兆候です。かつての魔法文明時代の遺産の回収に戦力を集めています』
「今度の狙いはどこかな?」
『はい。その標的は、エルフの里のようです』
ついに、来るべきものが来た。
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