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聖女よ、大志を抱け!  作者: もっこす
第1話『少女は異世界の空に落ちる』
1/4

その1

「ぇぇええええええええええ──!!」


商店街全体に(とどろ)遠慮呵責(えんりょかしゃく)の無い絶叫。


そのあまりの声の大きさに、通りを歩いていた人々は言うに及ばず、八百屋や魚屋、肉屋に花屋、本屋から駄菓子屋のおばあちゃんに至るまで、商店街全体が一瞬ピタリと動きを止めた。そして、いまだに絶叫を続けている人間へと「なんじゃらほい?」とばかりに顔を向ける。


人々の視線の向こう。

そこにはスマートフォンを手に青ざめた顔で「ここは日本最北端、真冬の宗谷(そうや)岬」と言わんばかりの勢いでガタガタと震える少女の姿があった。


神奈川県葦柄(あしがら)町。

神奈川県の中においても東京から見てわりと端っこの方にある、『こまつな』が特産品である以外にこれと言って特徴らしい特徴が無いのが特徴の、どこの県にもありそうな平々凡々とした町である。

その町のほぼ中央に位置しているのが『葦柄町ニコニコ通り』と呼ばれる、この商店街だった。


時刻はすでに夕刻に差しかかろうかと言う頃である。

他県では商店街の過疎化が大きな問題として取り沙汰され問題視されている昨今、ニコニコ通りはそんな話題もどこ吹く風とばかりになかなかの盛況を博していた。


そんなことだから、通りのど真ん中でいきなり絶叫しだす少女なんてすこぶる目立って仕方なかった。


「──ええええええええええっ!!? じ、事務所が潰れたって……ど、どどど、どーーーーいう事ですか?!」


息継ぎもせず、声を乱す事も無く。

およそ2分間ほど絶叫を迸らせてから、ようやく少女の話は先に進んだ。

どうでもいいが、やたらと通る声である。

それが音量最大で2分間ちょっとも垂れ流されてたもんだから、周りにいる人間は迷惑千万、うるさい事この上ない。

しかしそれは同時に、彼女の発声と肺活量が尋常のものでない事の証明でもあった。最初は「なんだコイツ」とばかりに不快そうに眉根をひそめていた人々も、次第に感心したような顔つきになり、少女が絶叫を終えるとパチパチと拍手が起こったくらいである。


「あ……どうもどうも」


自分に向けられる拍手の意味は良く分からないものの、ようやく自分が天下の往来で大絶叫していた事に気づいた少女──春町(はるまち) こがれは、恥ずかしさに真っ赤になった顔で笑いながらそそくさと通りの隅っこへと移動する。そして、先ほどよりもずっとトーンを落とした声で、スマートフォンの向こうにいる相手へと向かってド真面目な顔で言葉を投げた。


「そ……それで社長、事務所が潰れたって本当に本当なんですか? 本気と書いてマジと読むんですか? エイプリルフールにはまだ一週間くらい早いんですけど……!」


「本気と書いてマジです。いやー、本当に冗談だったらよかったんだけどねぇ……」


スマートフォンの向こうから返ってくる冴えない雰囲気を漂わせる中年男性の申し訳なさそうな声を聞きながら、どす暗い現実味だけをどんどこ増していく現状に、こがれは蒼くなった顔でゴクリと息を呑む。


なにを隠そう。


こがれは正真正銘、本物のアイドルだった。

……ただアイドルと言ってもピンからキリまであるのは世の常で、こがれは残念ながらキリの方にカテゴライズされるタイプのアイドルさんだった。テレビにバンバン出るわけでもなく、全国をライブツアーでグルグルするわけでもなく、新曲を出しまくってウハウハするわけでもない。持ち歌一曲きりの駆け出しアイドルだ。

ゲームにしたら『アイドル(自称)』とかランク付けされちゃっても仕方ないレベルである。


そんなアイドルピラミッドの最底辺を(うごめ)いていただけのこがれだが、この事務所の倒産話が彼女にとって全くもって青天の霹靂かと言えばちょっぴりウソになる。まだまだ女子高生のこがれにだって、以前から自身の事務所に対して薄々と嫌な予感はあったのだ。


(そ……そうよ。アイドル事務所なのに所属してる子が私だけって、やっぱりどう考えてもおかしかったんだわ)


……普通の娘さんだったらそれに気づいた時点で即刻、荷物をまとめて別の事務所へと移籍していてもおかしくない。そんな事に今さら深刻そうな表情を浮かべているところに彼女の危機管理意識の薄さ、あるいは能天気っぷりやおドジっぷりがよく表れていた。


だが、時すでに時間切れ。後悔は先にたたないものである。

事ここに至っては、こがれの関心はひとつの事に集中する。


「あ、あの……それで、その……私はいったいどうなるんでしょうか……あはは」


「…………」


「ちょ。え、えーー!? な、ななな、なんでそこで黙っちゃうんですか社長!!」


スマートフォンを握る手に、力と一緒に一縷(いちる)の希望を込めて。こがれはおそるおそる社長に話題を切り出す──が、社長から返って来たのは沈黙。


こがれは三百メートル先からでも「うろたえてるな」って確信できる位に、スマートフォンを手にしたままその場でオロオロと右往左往し始めた。その顔は不安と恐怖でいっぱいいっぱいと言った様子で、もうつつく度に涙がポロポロ溢れだしちゃうんじゃないかってくらいである。


「なんか……なんか、こう、別の事務所に頼み込んで移籍させてもうらうとかできないんでしょうか? 私……まだ、アイドルやめたくありませんっ!」


「それはもちろん私だって同じ気持ちだよ。君は私が手塩にかけて育てたアイドルだもの。今だって、君ほどの歌唱力と表現力を備えた女の子は他にいないと確信しているよ。ただ……」


そこで言葉を一旦区切り、社長は死ぬほど重苦しい溜息をついた。


「こがれちゃんも知っての通り、いまやこの業界は『アイドル戦国時代』と言ってもいい状態だ。明日のトップアイドルを夢見る少女達がひしめき合い、せめぎ合い、しのぎを削っている。だがその一方で、そんなトップアイドル候補生達が増えすぎた結果として『アイドル』というジャンルそのものが飽和状態になっているのも事実なんだよ。大衆はいまや歌の上手や下手よりも、アイドル達が持つ『+α』の要素にばかり気をとられている……」


すこしばかり残念な事にね。──そう呟く社長の声は、いつもよりもさらに弱弱しい。


「アイドルの『+α』です、か……」


「……私も色々と手を尽くしてみたんだけどね、移籍は難しいかなぁ……」


こがれの名誉の為に言うならば、決して彼女の容姿は悪いものじゃない。

むしろテレビなんかの第一線で活躍しているアイドルの少女達と比べてもなんら遜色ないレベルである。


バランスの整ったやわらかな顔立ちに、くりっとした大きめの瞳。

濡れ羽色をしたセミロングの髪は彼女の純真な人柄をぴったりと表している様であった。

スタイルだってそうそう悪いもんじゃあない。


そんな、特に悪いと思われる所の無いと思われる彼女の最大のウィークポイント。

それは『普通』……という一言に尽きる。


そう。とにもかくにも、こがれは『普通』だった。

もう『普通』って言葉が肉体を得てそれに魂が宿り歩き出したのが彼女だ、とか無茶苦茶な事を言っても何となく納得できるレベルの『普通』さなのだ。容姿がどんなに良かろうが、歌がどんだけ上手だろうが、彼女を総表すると何故だか『普通』って言葉に落ち着いてしまうのである。

これは彼女のせいと言うよりも、持って生まれた雰囲気と言うか、空気感というか。

前世を原因とする呪いだとか、星の巡り合わせが悪かったとかそういう本人にはどうしようもない次元での問題であった。

そんな筋金どころか鉄筋入りの『普通の子』に過ぎないこがれが、個性の突然変異体みたいな他のアイドル達と競い合い、そのキラ星の海に埋没せずにいるというのは不可能な話であった。不運な事に、唯一の取り柄である『普通』を活かし『普通の子アイドル』として売り出して行こうにもこのご時勢、そのカテゴリーすらすでに他のアイドル達でぎゅうぎゅうのいっぱいいっぱいだったのである。


『ただ普通なだけの女の子はいりません』


そんな誰かの声が聞こえ、こがれの脳内で延々と反響を繰り返す。社長は何も言わないが、別の事務所からきっと同じ様な事を言われて断られたのに違いない。


「……というわけでね、ここ一週間で今の事務所は引き払っちゃうから。一度こっちに顔を出してよ、こがれちゃん」


「けっこう……すぐ無くなっちゃうんですね」


「まぁ、小さな事務所だったしね」


電話の向こうから社長の寂しく笑った様な声が聞こえ、それにつられてこがれも小さく笑みを零す。確かに小さな事務所だったが、こがれにとっては大事な場所だった。


「……そうそう。さしあたって、事務所にあったこがれちゃんの物をアパートの方に送っといたから。ロッカーの中の物は、来た時にでも整理しておいてね」


 それからしばらく電話でのやりとりが続いたが正直なところ、気の無い返事を返すのが精一杯で、こがれはその会話の内容をほとんど覚えていなかった。


「それじゃ……元気出してね、こがれちゃん」


「はい……」


墓穴から這い出してきたゾンビもかくやという生気を失った返事を返しつつ。

ブツリと通話が終了すると、こがれはそのまま抜け落ちるんじゃないかって勢いで頭と肩をガックリ落とした。

ここでは『聖女』と書いて『アイドル』と読むッ!(・ω・´ドーン


……初投稿となりますがいかがだったでしょうか?

と言っても、話はちっとも進んでないわけですが(


勢いだけで一気に書いてるところがあるので、色々とダメなところも目につくかとは思いますが……よろしければ今後ともお付き合いくださいませー。

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