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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第四章 輝ける姿

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杁010 切られる針路

「学園長が特別に見せてくださった、討伐証明の逆鱗。紛れも無く本物です。工芸加工品の逆鱗は何度か見たことがあるのですが、現物そのままのものは初めてですよ」


 第二棟の廊下を上機嫌に話しながら歩く金髪の彼は、魔族科のルゲという。

 純粋なる竜の、それも稀少な種のサンプルが届いたとだけあって、彼ら魔族科の学徒は近日常に大賑わいであった。

 強力な竜種は滅多に捕獲できず、ほとんどが討伐するしかないものであるために、今回のような幼竜の生きたサンプルというものは価値が高い。

 まして絆の強い灼鉱竜の子供となれば、捕獲は更に困難となる。

 討伐ギルド“カナルオルム”の功績は大きいと言えるだろう。


 今回の幼竜の贈呈という大盤振る舞いは、導師ゾディアトスを意識しての事もあるのでは、と噂されている。

 導師が貴重な幼竜に興味を示せば、ギルドの名は理学界に広まるだろう。

 となれば今後の“カナルオルム”の希少種討伐任務もより活発になり、ギルドが潤沢になる。

 彼らギルドのさらなる規模の拡大に繋がってゆくことは間違いない。それが、市井からかすかに聞こえてくる囁き声であった。


「“カナルオルム”、か」


 ルゲと共に歩くのは、クライン=ユノボイド。

 魔術の名門、ユノボイド家の長男である。

 が、並んで歩く両者は共に不健康そうな白い肌で、生まれは違えど兄弟のようであった。


「“カナルオルム”は凄いですねえ。希少な魔族を討伐することはもちろんですが、特に水棲生物には強い。水国の水産における、縁の下の力持ちといった所でしょうか」

「どうだかな」

「おおっと、ユノボイド君は傭兵ギルドがお嫌いでらっしゃった……?」

「嫌いではない。だがあそこは別だ」

「ほっほほ、複雑な事情がおありのようですな」


 真っ直ぐ前だけを向いて歩くクラインと違って、ルゲは相手の顔を見て話す。

 対極的な二人の会話は、しかし第三者から見れば、ルゲからクラインへの一方的なものに映るかもしれない。

 しかしこれは、日常的な彼らの会話だ。

 二人は今日特別に仲が悪いわけではない。いつも通りのやりとりに過ぎないのである。


「実は最近、ワテクシたち魔族科の中では、サードニクスではなくガーゴイルについて議論がなされておりましてね」

「ゴーレムは理式科や魔具科の畑だろう。そもそもあれに、これ以上議論する余地があるのか」

「スクワイヤー導師の最新の提言をご覧になってください。守護像魔族説が提唱されているのですよ」

「くだらんな。双方の分野をある程度かじっていれば出し得ない提言だ」


 クラインは一蹴するが、ルゲはそれでも食らい付く。


「いえいえ、ワテクシもそう思っていたのですよ! しかし聞けば聞くほどに、なるほど、なかなか信憑性を帯びているように思えてくるのです!」

「にわかには信じがたい事だが」

「邪険にせず、とにかく一度ご覧になられるのがよろしいかと思いますですよ、ハイ。真偽はどうであれ、守護像という未知のオブジェクトの謎に一石を投じるものですから!」


 廊下を歩き、二人はロビーへと出た。

 昼時ということもあり、ロビーは既に大勢の属性科学徒によって、賑わっている。

 軽めの昼食を取る者などは、この広い空間に集まって食事を取る場合が多い。

 なのだが、今日この時に限っては、人並みも少々割増されているように感じられた。


 敏感に感じ取ったのは、属性科でも通る機会の多いクラインである。

 違和感が先に来たために、無意識に聞き耳を立てた事も至極自然な流れであったといえよう。


「ロッカ=ウィルコークスのがそろそろだ」

「おお、間に合うかな」

「急ごっか。今日は座れるよね」


 ふと、クラインが思い出したように立ち止まった。


「どうなされました? ユノボイド君」

「一石を投じる、か」

「ええ、斬新な提言でしたとも」

「用事があった。ルゲ、またな」

「あれ、ユノボイド君?」


 クラインは階段に向かって歩き出す。

 目指す場所はもちろん、第二棟の最上階だ。


 去りゆく猫背の早歩きに向かって、ルゲは大きな声を張り上げた。


「ユノボイド君! スクワイヤー導師の提言ですからねぇー!」


 クラインは軽く左手を掲げて答えた。

 二人の仲は、そこそこ良い。


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