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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 弾ける爆風

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箕015 後を追う刺客

「どれだけ地面が悪路だろうとー」


 長髪の魔道士がワンドを回していた。

 昼下がりの静かな森の中、黄緑の光を受ける彼女の髪は、それでも艷やかな黒のまま、何色に染まることもない。


 片手の中でくるくると回り続ける、取り回しに優れた軽いポリノキ製の杖。

 指だけでも回すことのできる細いワンドとはいえ、淀みなく一定の速度で回し続ける彼女の技量の高さは、素人が一目見ただけでも理解できるものだった。


「私の円鉄(えんてつ)は、どこまでも走り続けるわよぉ」


 レドリアは妖艶に微笑んだ。

 高速で回るワンドが、その回転を保持したままに、強く振られる。


「“スティ・リオ(鉄の輪よ)フウル(襲いかかれ)”」


 詠唱の完了と共に、振られたワンドは手の中にしっかりと収まった。

 そして彼女の目の前には、美しい銀色に輝く3つの鉄の輪が浮いている。


「さ、ロッカの所へ行ってらっしゃい」


 3本の鉄の輪がゆっくりと落ちて、地面に触れる。

 すると、鉄の輪の足元の土が濛々と砂煙をあげ始めた。


 束の間、鉄の輪は肉食の魔獣が宿ったかのような速度で正面へ走りだす。

 ちょっとした下草や浅い木の根などは飛び越えて、一目散に森の奥へ。

 その速さは人気のない街道をひた走る、急病人を載せた馬車ほどは出ているだろう。


 高速回転させたワンドが鉄の輪を魔術投擲することによって生み出される、自走する鉄の輪。

 刃もついていない鉄の輪とはいえども、正真正銘立派な金属である。

 無防備な人間に当たれば、決して無事では済まされない。


「うふ。馬車も走れば人を轢き殺す、ってね」


 走り始めた鉄の輪は何かに直撃するか、その勢いが完全に消滅するまで、どこまでも突き進む。

 鉄の輪を主力として扱う彼女、“円鉄のレドリア”の二つ名に恥じない、超遠距離攻撃を可能とする投擲魔術であった。


 既にレドリアは何本もの鉄の輪を森に投げ放っている。

 標的の姿は先程まではかすかに見えていたが、相手は走りだしてしまったか、もう目視することは叶わなかった。

 とはいえ、彼女の魔術ならば、距離は特に関係しない。

 円鉄は質量と回転力に任せてどこまでもひた走るし、走っている以上は無視のできない威力も備えている。

 樹木という障害物があるとはいえ、土に残る足跡や獣道は僅かながらも鉄の輪を導く車轍ともなるだろう。


「さーて、もう一丁いきましょっか。“スティ・リオ(鉄の輪よ)フウル(襲いかかれ)”!」


 つまり、相手の姿が見える、見えないなどはどうでもいい。

 とにかくレドリアは、森の中へ自分の術を放ち続けた。


「あーあ、特異科も、なんだろな。かわいそうって言えばいいのか、不幸って言えばいいのか……」


 その様子を眺めるジキルは、額の汗を拭いながら静かに漏らす。

 彼は慣れない身体強化をしながらロッカ達を追いかけていたので、途中で強化を切らせ、バテてしまったのだ。


「てめーは何を向こうの立場で物考えてんだよ。あいつらはナタリーさんの敵だろが」

「いでっ」


 そんな彼の頭をガツンと叩くのは、ロビナの握る呂金製のワンドである。

 軽い素材とはいえ、金属は金属。疲労に加えて痛みを受けたジキルは、自分の白髪が血で赤く染まってしまっていないか、焦って確認するのであった。


 相変わらずの役回りな彼に一瞥もしないレドリアは、最後の円鉄を撃ち出し終えるとワンドを腰に仕舞い、ロビナに向き直った。


「ねえロビナ、とりあえずこのくらい撃っとけばいいんじゃないの?」

「ああー、まぁ、こんなところかね。これで奴らも、大分焦ったんじゃない? ウサギを追いかけてる暇なんて、無いくらいにね」


 ロビナは、通りがかった十人中の十二人が“悪い”と評するであろう笑顔を浮かべて歩き始める。

 頭が無事なことを確認したジキルはその後ろ姿に声をかけた。


「もう行くのか?」

「当然。レドリアの円鉄だけじゃ、あの芋女は怪我しそうにないからねぇ」

「俺も?」

「帰るとは言わせねぇ」

「……あーあ、クラインと闘うのか……気乗りはしないんだけどなぁ」

「なあにジキル。クラインとが嫌なら、私達二人が貴方と闘ってあげても良いのよ?」


 レドリアは長髪を掻きあげて、ジキルに微笑みかける。

 美女の微笑みとお誘いを、心底嫌そうな顔で見つめ返しながら、ジキルは立ち上がった。


「なんかさ、お前らってクラインと闘う時よりも、俺と闘う時の方が本気出しそうだよな」

「本気以上の間違いだな」

「うふふっ」

「勘弁してくれよ。だったらまだ、特異科に喧嘩売る方がマシってもんだぜ」


 鉄属性専攻の三人の刺客が、ロッカの進んでいった森の小道へと進んでゆく。




「……そうか。ラビノッチは、こっちに追い込まれたんだな」


 彼は三人の姿を遠方に認め、赤い目を鋭く細めた。


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