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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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砥041 声掛けする儀礼


 十六人を四人組の四班に編成し直す必要がある。

 今回の密集地帯探索はガルハート曰く非常に危険だという話なので、振り分けは慎重にならざるを得ない。

 そして四人組を作るということは、私達特異科の五人班も分解されるということでもあった。


「身体強化得意な人でまず分けるかー」


 私の提案は普通に受け入れられた。

 気術、つまり身体強化はいざという時に便利な力である。人を見つけて運ぶにしたってこれが出来ないと個人の疲労度が全然変わってくるので、一人はいないと厳しいところだ。


「私、クライン、ライカン、ガルハート……の四人かな」

「あたしも使えるじぇ?」

「うん。けどまぁ、使える順ってことで。見た感じボウマよりクラインの方が重い物持てるでしょ」

「ぐぎぎ……」

「まぁ自前の筋力がクラインのが上で、強化自体はボウマのがちょっと上かもしれないけどね。けど今回はそういう感じだよ」

「ごぎがががぎご……」


 そう考えるとボウマをクラインのところに入れておくと身体強化のバランスが良くなりそう……なんだけど、あの二人を一緒にすると水と油で大変な事になりそうだ。ボウマはライカンのところに割り振るのが一番無難かな。


 あと考える上では、やっぱり魔術の使い勝手も大切になる。遠距離攻撃は当然のこと、環境系もしっかり考えておかないといけない。

 前回の振り分けを参考に、似たような考え方で編成し直すとすると……うーん、そうだな。


「まず一班。私、ヒューゴ、モヘニア、ダルナドフ」


 特に言うことはないかな。モヘニアは本戦に残るくらいの魔道士だし、火も水も扱える。十二分だろう。

 身体強化は私が担おう。ヒューゴも近距離なら風魔術の威力はなかなかのものだし、もう一人のダルナドフって男も……まぁやる気はあるみたいだし大丈夫そうだ。


「二班。クライン、ネイリーネ、ニット、クリスティーナ」


 クラインは癖のない魔道士タイプの人を組ませることにした。得意属性も色々。

 本人もそっちのほうが行動計画を立てやすいということだし、ボウマのようなタイプを一緒にするよりは良いんだろう。


「三班。ガルハート、シュェ、メイボルド、フレミィ」


 こっちも一班と似たような編成かな。得意なものが個人個人で別れてるからわかりやすい。

 市街戦の経験があるガルハートがいればなんとかなりそうだ。


「四班。ライカン、ボウマ、リュミネ、モルト」


 正直ライカン一人いればどうにでもなるだろと私は考えている。ライカン自身もそんな気構えでいるようだ。

 一人だけ身体強化の強度が桁外れに違うからな……不意打ちを食らったとしても即戦闘不能なんてことはないだろうし、ライカンだったら不意打ちにも対応できそうな気さえする。

 魔術を使う人員としてリュミネとモルトがいるけど、二人が活躍する場面がくるのかどうかも怪しい。ライカンなら遠くの曲がり角に潜んでる魔道士のところにピャッっと行ってピャッっと済ませてしまえそうだ。



「うむ、班分けはこれで問題ないだろう。バランスは極めて良いように見える」

「でしょ?」


 クラインのお墨付きも貰えた。なら大丈夫のはずだ。

 十六人という限られた人員をバランス良く割り振るのって大変だけど、顔見知りが多ければやりやすいもんだ。


「ただし、一班。つまり君の班には留意すべき点がある」

「……なんだよ」

「君を含め、一班の人員の扱う杖が全てロッド級の長物だという点だ」


 ……それはつまり……どういうことだ? いや、あっ、そういうこと。


「私達の使ってる杖がみんな長いってことか」

「そう言ってるだろう。……狭い市街地では、廊下や路地などでの戦闘が起こる可能性もある。壁際では杖を大きく振るうスペースも少ないだろう。そんな場面において、長いロッドは不利に働く場合がある。君は知らないだろうが言っておこう。先石を壁にぶつけて砕いてしまうのは、恥とされている」


 ……そうか。ロッドで投擲する場合、横や縦に大振りすることが多い。

 狭い廊下じゃ横も縦も難しそうだ。


「でもアンドルギンなら壁でもなんでも壊せるし大丈夫でしょ?」


 私がそう言うと、クラインは頭痛を堪えるように眉間を揉んだ。


「……君とヒューゴの場合、そう投擲を使うこともないだろう。あまり気にする必要もなかったかもしれんな」

「おう」


 見渡せば、皆も顔を見合わせて同じ班員を確認している。

 それと、自分にできることの申告や事前の意思疎通。物資をどう使っていくかなど。

 ……私も話し合っていかなきゃな。




 一班は私、ヒューゴ、モヘニア、ダルナドフの四人だ。

 ヒューゴは当然知った顔だし、モヘニアも何度か話したしお酒も酌み交わした仲だ。

 それに加え、実はダルナドフという彩佳系の男と話すのも初めてではない。


「班長は私だけど、いいな?」

「ハイ」


 この細身で髪の長い男は“勇敢なるダルナドフ”という水国出身の魔道士だ。

 私と予選で当たり、試合前に何か私を怒らせるようなことを言ったもののあえなく敗退した男である。


 パブでは私からちょろちょろ身を隠していたようだがその時はもう顔も忘れていたもんで気付かなかったけど、ここに来て二つ名を確認してから思い出した。

 お前ダルナドフだろ。


 とまぁそんな威圧をかける必要もなく、ダルナドフは以前のような高飛車というか見下したような態度は鳴りを潜めている。

 今は志を同じくする魔道士として頑張ってくれるだろう。魔術は火と鉄を扱っていたので、属性としてのバランスは悪くないはずだ。


「クラインが言うには私達は皆杖が長くて狭いところが大変らしいから、えっと……だから振り方、気をつけていこうね」

「あ、ああ。わかっているとも……握りは浅くしておこう」

「無難だね。まぁ僕は投擲しないから、気楽に構えておくよ」

「……」


 声掛けに対して、ダルナドフとヒューゴは答えてくれた。しかしモヘニアは小さく頷くのみ。

 ……いや、本当にどうしたんだモヘニア。こうしてまじまじと見ると、顔色もそんな良くないけど。


「モヘニアは」

「っ、な、なに」

「えっと、投擲とか……あー杖を振ったり? って結構するんだっけ」


 一対一で訊ねると、モヘニアは少し考えるように唇に手を添えた。


「……私の魔術はその場で射出するものが多いから、平気よ。投擲は極力やらないように気をつけるわね」

「うん。それが良いと思う。あ、けど突き打ちなら大丈夫なんだっけ」

「突き打ち……相手が近ければ有効ではあると思うけど、どうかしら。慣れない動きになるから、私は控えるわね」

「そうなんだ? わかった」


 本には突き打ちが狭いところで有効ってあったけどなぁ。

 けど振り方に慣れてないと付け焼き刃になるのは、なんとなくわかる。慣れないことはするもんじゃない。


「僕の風魔術は有効距離が短いし実戦であまり役に立てないかもしれないから、周囲の警戒と地図係をやらせてもらうよ。物資の持ち運びもある程度兼任させてくれ」

「む……ならば僕も、ある程度荷物を背負わせてくれ。水の男は決して軟弱ではないということを示して見せよう」


 別に軟弱だとは言ってねーぞ。思ってはいるけど。


「え、あ。じゃあ……私は……」


 ヒューゴとダルナドフが荷物を持つというので、モヘニアは少し困っている。

 自分もどうしたものかと考えているのだろう。


「モヘニアは身体強化できるの?」

「え……あの。いえ……」

「じゃあそんなに無理しなくても良いんじゃないかな。むしろモヘニアの術がないと魔道士との闘い大変そうだから、体力はこっちに任せて、温存してて欲しいし」


 そう言うと、モヘニアは困ったような曖昧な笑顔を浮かべた。

 何を答えるわけでもない、やり過ごすような笑み。


「モヘニア。わかっているなら返事はちょうだいよ」

「え」


 けどそういう曖昧な感じは駄目だ。顔見知りだし付き合いのある仲だけど、それはいけない。


「私達はこれから命をかけた仕事をやっていくんだ。確認事をする時は、ちゃんと返事をして。大丈夫?」


 これは仕事だ。四人でやる、お互いの意思疎通が大事な現場仕事になる。

 咄嗟の場面で言葉もなしに頷かれるだけでは、仮にその人がどれだけ優秀だとしても絶対に何かのミスが起きる。

 ミスは起きるものだけど、起こしちゃいけないものだ。減らせる努力はした方が良い。


「……うん。わかった」


 頷く彼女は、先程までの元気の無さそうな顔色がほんの少しだけ引き締まったように見えた。



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