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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 貫く鉄錐

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擦017 一人待つ控室

 ここは闘技演習場の控室である。

 闘技演習へと赴く魔道士学徒達が準備を整えるための場所であり、着替えなどもここで行われる。

 北側と南側それぞれに女子控室と男子控室があり、対戦相手同士が同性だったとしても鉢合わせになることはない。

 闘技演習に赴く魔道士は、気兼ねなくここで支度を整えることが可能なのだ。


 魔道士を守る保護等級によっては衣服など装備類が破損する事があるので、中級保護以上のルールで参戦する者は使い捨ての服に着替える事が多いのだが、逆に「必ず勝つ」、「負けるわけにはいかない」という意識で臨む者などは、あえて高価な正装に着飾る事がある。


 今この控室で準備を整えている彼女、ナタリーも当然、その一人だ。

 彼女は常に普段通りの軽装で闘技演習に臨み、そのほとんどで勝利を収める猛者である。

 演習で受ける損傷も軽微で、勝った後にはそのままの姿で観戦へと回っていることも多い。


「あっれ? ナタリーさん、まだ特異科との演習までは時間あるんじゃないすか?」


 これから昼前の闘技演習に臨もうという女が、控室でナッツを貪るナタリーに声をかけた。

 その姿に“前もって早めに準備を整えておこう”という気概は微塵も見られない。


「仕方ないんだよ。観覧席は人で埋まっててうっせーし。かといってフィールドで待ってるとドーシの目があっから、これ食えねーしさ」

「ああー」


 彼女は準備云々などではなく、単にナッツをつまみ食いしたいがためにここにいるらしかった。


「んなことよりお前の演習はどーなんだよ、ロビナ。相手は誰だっけか、同じ三年の……」

「大丈夫っすよ、雷の……なんだっけ。二つ名は忘れましたけど、星藍(せいらん)系の雑魚っすから」

「星藍、雷国か。いけすかねぇな、派手に傷めつけてやれ」

「ええ、もちろんっす」


 ロビナと呼ばれた黒髪の女も、普段と変わらぬ軽装での出陣らしい。

 既に相手方の調べもついているらしく、その内容を忘却してしまったのは余裕から来るものだったので、特に今回の闘いを意識している風ではない。


「ナタリーさんは私の次の次っすよね。これ終わったらすぐに観覧席にいますんで、見てますよ」

「おいおい、観覧席は既に満員御礼だぜ?」

「ジキルの連中に取らせてあるんで、よーく見えるし声も届きます、へへ」

「おしおし」


 今日の昼に行われる目玉、ナタリー=ベラドネス対ロッカ=ウィルコークスの闘いは、昼を待たずして大勢の観覧者を会場へと呼び込んだ。

 本命の試合が始まる前にもいくつかの試合が貼りだされており、それらは前座として、気の早い観客席の野次馬を盛り上げていたのだ。


 というのも、それはナタリーが配下の連中に指示したことであり、ここまで組まれた試合は全て彼女の取り巻き、鉄属性専攻の女性達によるものである。

 ギャラリーの多い所で、ついでに鉄属性専攻の力を誇示したいのだろう。

 そして、逆にそのメンツを潰すいい機会だと、他の属性専攻の者が対戦に乗ってきたのだ。

 かくしてクラスが演習場利用の独占もしていないこの一般日に、不自然なほど多くの連戦予定が組まれてしまったのである。


 三年の鉄属性専攻対、その他色々。

 ナタリー界隈との確執を知っている者にとっては、今日組まれている闘技演習はどれも見どころのあるものばかり。

 それ故の観覧席の大賑わいであるというわけだ。


「さてさて、特異科のロッカちゃんを半殺しにでもすりゃあ……クラインは動くかねぇ?」


 ナッツを前歯で砕きながら、ナタリーは笑った。


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