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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 吹き込む熱風

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鑿002 捩じ伏せる頭脳

「いやー凄かったな。闘いが始まるまでは」

「ホントだにぁ。あたしもドキドキしたじぇ。始まるまでは」

「やめて」


 ヒューゴとボウマが好き勝手に何か言ってるが、私は机に頬をくっつけたまま動けない。

 起き上がろうとすると顔が真っ赤になって、火傷してしまいそうなのだ。

 机ってひんやりしてて気持ち良いな……。


「一番最初に防御を張るのは重要だ。しかし相手が放つ威力をよく考えろ」


 ああ、また隣から聞こえてきたよ……。


「そもそも手の内が読めているのだから、相手が魔術投擲を警戒せずに先手を打ってくるのは当然だろう。なぜオレが重量級の投擲を使ってくると思わなかった」


 もうやめてくれ……私が悪かったから……私が弱かったから……だからもう忘れさせてくれ……。


 畜生……なんで試合開始から五秒で決着するんだよ……。

 あれだけ大観衆の前で前置きに色々言ったり……アンドルギンで床叩き壊したりして……うわぁ、もう嫌だ。また恥ずかしくなってきた……。


「対処法さえわかっていれば、オレ以外の誰にでも同じことは出来ただろう。ディレリル、アンク、タンブラル……似たような投擲魔術を挙げればキリがない」

「……じゃあ、私ってこれから同じように負けてくのか……?」


 今日の闘技演習で、私の弱点は完全に露呈されたはずだ。


 最初に大きな魔術を放っておけばどうとでもなる。

 そう。これは今日あっというまの敗北を味わうまで気づかなかったことである。

 私は今まで設置系の魔法によってある程度のサイズまでならば開幕からでも防御できたのだが、ある一定以上の重さになると、どうしても石柱では対処できなくなってしまうのだ。


 せいぜい防御できても、ナタリーが撃ち出してくるような鉄針が限界だろう。

 それ以上のものは私の石柱が折れてしまうか、確実に倒れる。

 石柱が地面の中から基礎込みで生えてきてくれれば多少の強度はあっただろうが、地面と接するように伸びる石柱は非常にアンバランスだ。

 もしルウナが使っていたような、あの……名前はなんだったか。巨大な水の弾などを最初に投げられたらと思うと、対処のしようがなくて血の気が引いてくる。


 ……あっ、ちょっと考えてみたら顔の赤みも治まってきた気がする。


「けど、まさかクラインとロッカが闘技演習をやるなんて思わなかったよ。特異科同士の闘いなのにあれだけの観衆が集まったっていうのもすごいけど、よくクラインに挑むつもりになったね?」


 ヒューゴは私に対して言っている。

 どうやらこちらが何も言わなくとも、私からクラインに闘いを挑んだことがわかっているらしい。


「まぁ……自分の力を確かめてみたくて……」

「で、あれかぁ? にしぇしぇ……」

「……ボウマ。頭が柔らかくなるマッサージをしてやるよ」

「わぎゃぁあああ! 割れる割れる! ごめぇえええん!」


 いい加減大爆笑しながら私の心を抉ってくるボウマに制裁である。

 私の右手ならギリギリ丁度良くボウマのちっこい頭を掴んで握り込めるので、片手によるお仕置きが可能なのだ。


「だが実際はその通りだろう。ボウマ程度ならば笑えもするのだろうが、あれは一般的に失笑物の闘いであることには変わりない」

「……いや、闘いにもなってなかったっていうのはわかるけどさ……」

「ウィルコークス君。君はもう少し魔道士の戦い方のセオリーを学ぶべきだ」


 戦い方のセオリー。

 ……そりゃ、大会も近いんだし、私だって考えてはいることだ。


 投擲を用いない魔道士への戦闘指南書。

 魔道士の接近戦指南書。

 床環境系鉄魔術の考察本。


 クラインが貸してくれた三冊の指南書だって、一応ちゃんと読んでいるところだ。

 扱う言葉が古臭いというか難しくて、まだ全部途中までしか読めてないけど、それでも素人ながらに着実に知識は身につけている実感はある。

 今日だってそれを考えた上で、とりあえず床の環境と相手による攻撃の防御を見据えたアブロームを先手に使ったのだ。


 何が悪かったのかと言われると、別に今思い返してみてもそこまで悪い動きじゃなかったとは思うし、どうしたら良かったのかと訊かれれば、それは結果論でしかないので、なんとも言い難い。


「……クライン。クラインが私だったら、あの闘いでまず……」

「まず間違いなく闘わ」

「そういうのはいいから、闘うとして」


 私が強引にクラインに予想を促すと、彼は明らかに渋々といった顔で目線を宙に泳がせた。

 その後しばらく瞑目し、黙り込む。傍から見てもわかるような、考えに没頭している最中のクラインだ。


 たっぷり数十秒の後、クラインの両目がパチリと開く。


「オレは君ではないからわからない」


 待たせといてそれかい。

 あんたの頭の中で既に三分くらい激闘が繰り広げられてるもんだと思ってたのに。


「君がどう動き、どう術を使うか。その細部は君が考えるべきだろう」

「そ、そんなこと言われても……」

「オレは本を渡した。手助け出来ることといえば、そこまでが限界だ」


 クラインは突き放すようにそう言って、身体の向きを教壇側へと整える。

 そして分厚い本を目の前に広げ、いつも通りの読書体勢へと戻ってしまった。


「……私が考えるべき、かぁ……セオリー……うーん……」

「はは。まぁロッカ、頑張りなよ」

「がんばりぇー」


 迫る大会。待ち構える強敵。山積みの課題。

 私はアンドルギンの滑らかな柄を撫でながら、下手な考えに没頭するのであった。



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