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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
欄外章 舞い戻る鉱山

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灰006 分別する小間使い

 私の名前はタタミ=クロエ。

 将来はデムハムドの採鉱事業を管理する立場になるらしい、クロエ家の一人娘だ。一応、シロエの方に妹っぽいのはいるけど、一人娘らしい。責任重大だ。

 けど私はまだ家を継ぐような歳でもないし、お父さんからも勉強しない日は自由に遊んでて良いと言われている。

 だから、今日の私はデムハムドの鉱夫として、坑道に入ってお仕事しようと思う。


 つい昨日、水の国へ留学してたロッカがデムハムドに戻ってきた。

 聞いた時はびっくりしたけど、どうやら向こうで大きな事件があったらしく、ロッカのいた学園が巻き込まれてしまったんだとか。大変だ。けど無事だったみたいでよかった。


 ロッカは、デムハムドではほとんどいない女のクランブルだ。

 家族揃ってすごく仕事熱心なことで有名な、ウィルコークス家の一員でもある。

 ロッカは私が物心ついた時から坑道で働いていて、よく現場へ忍び込んでいた私に、簡単な仕事のやり方を教えてくれた。

 なにかとすぐ怒ることが多いし、叱られるのは怖くて嫌だけど、ロッカは良いやつだ。


 だから今日は、ロッカの手伝いをする。そのために鉱夫の装備も整えてきた。


「ほい、メットつけろ」

「うい」


 でもヘルメットだけは忘れた。

 けどなんとかなったのでノーカンだ。

 さあ、仕事するぞ。




「あ、あつい!」

「坑道なんだから、蒸し暑いのは当たり前だろ。冬場は丁度いいんだけどな」


 暗く狭く、傾斜の強い坑道内を歩いてゆく。

 久々に入る坑道はムシムシと暑くて、ここで体を動かすのかと思うとちょっとだけ気が滅入る。

 でも、水筒は大きいやつを持ってきた。のどが渇いても平気なはずだ。


「頭ぶつけるなよ」

「ぶつけないよ……あだっ!?」

「スカタン」


 ロッカに注意された途端、頭を天井にぶつけてしまった。

 ヘルメットを被っていたから平気だったけど、私よりもずっと背の高いロッカが何にぶつかることもなく歩いているので、ちょっと悔しい。

 ……いつも思うけど、なんでそんな猫みたいな体勢でひょいひょい進めるんだろう。


「ロッカ、久しぶりなのに慣れてるな」

「当たり前じゃん。何年やってきたと思ってんの」


 それもそーか。




 坑道は道がいくつも分かれていて、まるで迷路のようだった。

 古代には鉄の国にも数多くのダンジョンが存在していたらしいけど、今ではほとんど残っていないし、そう簡単に立ち入ることもできない。

 大昔の坑道がダンジョンへと変貌したという話はよく聞くけど、それもあながち間違っていないんじゃないかと、こうして歩いていて思う。

 お父さんが言うには、昔のアークトロッコ急行なんてまさにそうだったらしいし。


「よしタタミ、それじゃあこれ持て」

「うわっ、えっ、ツルハシ? これ使っていいの?」

「いや使わせない。お前が運ぶだけ」

「えー」


 なんだその仕事。つまらん。


「じゃあ切羽までタタミがこいつを押していくか? 結構重いし辛いと思うけど」


 私が不満に頬をふくらませていると、ロッカは坑道の分岐点に置いてあった大きなブリキの函(スラ)を小突いてそう言った。

 中には切羽で使うための重そうな工具がいくつも入っており、動かすのには結構な力がいりそうだ。


「……私はツルハシで良いよ」

「おう、そうしとけ」


 ……仕事、できるかな。

 いや大丈夫。私もロッカがいない間は、コタツ(妹)と一緒に冒険してたんだ。

 久々に、やればできるってとこをロッカに見せてやるぞ。




 切羽につくと、ロッカは最後の装備を整えて、作業へと移った。

 ピックを握って掘削作業を始める時なんかは本当に嬉しそうで、やっぱりウィルコークスの人達はみんな働き者なんだなと思った。


「よし、やるぞー」


 けど私だってゆくゆくは……三十年後か四十年後くらいには、クロエ家の後を継ぐ女だ。

 ロッカに負けず、働き者なところを見せてやるぞ。


「ロッカ、私は何をすればいいの」

「おう。じゃあ私がそっちにカブダシしといた石を選別してスラに放り込んでおけ。ちゃんと石ごとに袋に分けておくんだぞ」

「……それだけ?」


 つまり、ロッカが掘り当てた魔石や魔金を拾って、スラに入れるだけの仕事というわけだ。

 そんな簡単な仕事じゃつまらないなぁ。


「随分と余裕じゃんか、タタミ」

「えー、だって」

「手伝いに来てるんだから、黙ってやっとけよ」

「……はい」


 まぁ、それでロッカのためになるんだったら良いんだけどさ。


「それに、タタミの思ってるほど楽な仕事じゃないかもしんないぞ?」

「ええ? ただスラに入れるだけなのに?」

「ふふん。おいおい、現役のクランブルを舐めんじゃないよ」


 訝しむ私に、ロッカは不敵に笑ってみせた。




「ろ、ロッカぁ、待って……!」

「ん?」

「は……早いってぇ……」

「そう? 結構加減してるんだけどな」

「む、無理っ……!」


 ロッカをなめてた。

 石を拾って籠にいれるだけ。そんな、単純な作業だと思っていたのに。

 実際にやってみると、全然違った。次々とロッカが放ってくる石を全力で移し替えても間に合わないような、酷い重労働だったのだ。


「ほい、最後のフェルド鉄鉱石だ」

「うわぁっ、乱暴に投げるなっ」

「いや、最初から面採りできるなんて、なかなか今日はツいてるな」

「うう……重い」


 灯りは沢山持ってきた。服も、手袋も、全部良い物を使わせてもらっている。

 それでも、まさかこんな簡単な仕事もできないだなんて思わなかった。


 次々に放られる鉄鉱石は積み重なり、私がスラに入れたものより遥かに多くなっている。

 でも、私の腕はもう疲れきって、これ以上は動かしようがない。

 私はほんの少しだけ強化を使えるけれど、それも既に燃料切れになってしまった。


 ……デムハムドの鉱夫は、みんなすごいな。

 こんなに大変で厳しい仕事を何時間も、毎日のように繰り返すんだから。

 それなのに、私は……。


「おい、タタミ? 大丈夫か?」


 ロッカに声をかけられ、内側に沈み込んでいた意識が戻る。

 私はいつの間にか、鉄鉱石を持ったまま動きを止めていたようだ。


「ごめんごめん。やっぱりタタミには難しい仕事だったよね」

「あ……」

「いいんだよ。こういう后山作業の方が、結構体にはクるもんだしさ」


 そう言って、ロッカは私の持っていた鉄鉱石を取り上げると、地面に置いた分もまとめて何個か掴み、ひょいひょいとスラの中に放り込んでゆく。

 ロッカは下に積まれた鉱石を、まるで重さが無いかのように持っては、一瞬の内に正確に分類して、別々の袋へ投げ込んでいる。

 ああして石の種類を見分ける目もまた、優れた職人技だ。


 ……私もクロエの人間だから、石の種類はある程度わかる。

 それでも、ロッカのようにすぐに見分けることはできない。じっと見つめ、近くで強い光を当てて、石独自の特徴をよーく確認しなければ不可能だ。


「……ロッカはすごいな」

「んー?」


 仕事が早い。力持ち。かっこいい。

 それに、勉強して魔術も使えるようになった。


 ……私はどれも中途半端。いや、半人前以下だ。

 お父さんは“これからだよ”って言ってくれるけど、それでも私は……。


「よし、タタミ。これ見てみろよ」

「え?」

「これだよこれ、ほら」


 ロッカが下を指さしている。

 釣られて私が下を見ると、そこにはロッカの靴の甲に鉄鉱石が乗っかっていた。


「ほい」

「わっ」


 ロッカがつま先をくいっと持ち上げると、石が跳ねて宙に浮いた。

 石は私の目線当たりまで上がり、そのまま重力に任せて再び落ちてゆく。

 しかし。


「よっ」


 なんと、ロッカはその石を再び同じ足の甲でキャッチしてみせた。すごい。


「どだ」

「すげえ」


 声にも出た。すごい。

 手みたいな足だ。ロッカは足も器用だったのか。


「でも、これだけじゃないぞ?」

「まじか」

「これをな、このまま……」

「おお、おお……」

「こうだっ」

「おー!」


 ロッカは石を乗せた足をそのまま蹴るように突き出すと、石はぽーんと宙を舞い、スラの中の袋の口へ、吸い込まれるように入っていった。


「すごいすごい! 今の何!?」

「ふふん、“足だけで石を運ぶ蹴り”だ」


 すげえ! そのままだ! 名前格好わるい!

 でもやってみせた技自体はすごかった!


「まぐれじゃないの!? もっかいもっかい!」

「おーおー、疑ってるなぁ? いいよ、何度だって……ほっ!」


 私がねだると、ロッカは同じ技を何度も見せてくれた。


 石を足の甲に乗せて、籠の中へと放り込む。

 それは手でやっているかのように自然で、放られてゆく石の勢いは、掴んで投げる以上に早いのではないかというほどだ。

 そうやって脚で正確に籠に入れていく事自体も凄いけど、足の甲にサッと石を乗せてしまう事も凄い。


「ねえねえロッカ、これって、みんなできるの?」

「ん? はは、まっさか。できないよ。やってんのは私と……母さんだけ」

「あ……」

「父さんもやれないことはないだろうけど、ずっと前に父さんの前で見せたら“危ないだろ”って怒られてさ……まぁ、だからこそ結構ムキになって練習したんだけど」


 石をぽんと蹴り上げ、膝で受け、手に掴む。

 ロッカは手にとった最後の鉄鉱石を手首だけで投げ飛ばし、それはやっぱり、当然のようにスラの中へと入っていった。


「慣れだよ、慣れ。掘るのも、石をスラに入れるだけってのも、全部慣れだよ」

「慣れ……」

「ん。タタミはまだ慣れてないだけなんだよ。慣れない内には、どんな仕事だって遅くなっちまうもんさ」


 そういってロッカは、私の頭をメット越しに撫でてくれた。

 ずっしりとした重さを感じる、朱金混じりの金属の右手で。


「だから気にすることはないよ」

「……私、気にしてなんかない」


 なんだか、全部ロッカに見透かされているみたい。

 私はそれが嫌だったのか、自分の格好わるい所をロッカの前で認めたくなかったのか、咄嗟に嘘をついてしまった。


「やっぱタタミは素直じゃねーな」


 けどロッカはそんな私の嘘さえも見透かしているように、大らかに苦笑する。

 ロッカは、嘘だってわかってるんだ。

 私のこれは、はじのうわぬり、ってやつだ。私、やっぱり格好悪い。


 でも、私はそんなロッカに撫でてもらうのがなんだか嬉しくて、それ以上は何も言わなかった。


「……んじゃ、タタミ。ちょっと休憩したら、続きやる? それとも今日はやめとく?」

「んーん! やる!」

「はは、そっか。おーし、んじゃあ今日はデムでも見つけるかー?」

「おー!」


 ロッカはまたすぐに水の国へ戻ってしまうんだ。

 ちょっと疲れたからってなんだ。ロッカがデムハムドにいるっていうのに、のんびり休んでる暇なんてない。

 ちょっと腕が疲れたから、休憩は挟むけど……今日はまだまだ、ロッカの手伝いを頑張るぞ!


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