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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第七章 這い寄る幻影

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箪004 囀る閑古鳥

 比較的のんびりと歩きながら、皆と一緒に中央役場を目指す。

 ミネオマルタの中心部に向かって歩いていくうちに、通りを行く人の姿も中央に相応しいものへと変わっていった。

 中には、マコ導師が闘技演習で着ていたようなケープを羽織った一団の姿も見える。多分あれが、魔道士集団の最高峰、杖士隊の面々なのだろう。


「こっちだよ」

「あ」


 眺めている間に、道を逸れていたようだ。いけないいけない。




「皆さん、おはようございま……ふわぁ」

『む?』


 目的地の建物に到着すると、背の低い流季(るき)系の女の子が、ライカンの背丈に驚いていた。

 扉を開けると、二メートル越えの全機人。確かに見慣れていなければ、言葉を失うのも無理はない。


「え、えっと、おはようございます!」


 早々に戸惑いながらも、彼女は頭を下げ、丁寧に私達を迎えてくれた。

 礼と共に揺れる両おさげ。一瞬、私は入る場所を間違えたのかと己を疑った。


「リゲル=ゾディアトスの護衛か。こんなところで何をしている」


 目の前の少女に対しては、クラインもどこか懐疑的であった。

 皆も一様に、“どうしてここにいるのだろう”といった顔をしている。


「はい、理総校のスズメ=ウィンバートです。本日は、皆さんのお手伝いをさせていただきまひゅ」


 まひゅ。


「……ます」


 勝手に顔赤くしてら。ボウマは遠慮なくケラケラ笑っている。


「えっと、ウィンバートさん。話が読めないんだけど、手伝いってどういうことかな。それってもしかして、僕らのこれからやる仕事の手伝い……?」

「はい、そうです!」


 スズメは小さな握りこぶしを胸の前に作り、元気よく返事した。

 が、“そうです”と簡潔に返されても困ってしまう。

 助っ人が一人やって来るとは聞いていたが、まさか彼女のような、大物関係の人がついてくるとは。全くの予想外である。


「とりあえず、中で本手続きを済ませましょう。ここは人通りもありますから」

「確かに。そうしようか」


 リゲル=ゾディアトスという理学界における最重要人物の護衛の仕事を任されているはずなのに、どうして私達の調査にくっついて来たのだか。

 疑問は色々とあるものの、ひとまずやるべきことを済ませて、話はそれからだ。




 昨日会ったザイキの役人の受付で、以前と同じような処理を済ませる。

 同じ顔ぶれである故か、向こうの都合か、個人の確認だけは上手いこと省略されたので、書類にちょこっと署名した後は、今日の仕事の確認だけである。


「これが地下水道への扉を開けるための鍵だ」


 ザイキは肌色の四本指のひとつに古びた鍵を括りつけ、私達の前でぶらつかせて見せる。

 古びてはいるが、あくまで金属の色合いのみ。どこかが砕けていたり欠けていたりしていることはなく、精巧に作られたそれは、一目で容易に複製できないものであると理解できた。


「この鍵は調査地点に最も近い入り口に対応している。入った後は目標階層まで下り、地図通りに。本来ならば、我々役人が直に現場へ案内すべきなのだろうが、今回それは控えたい」

「え、どうして」

「闇市を刺激したくないんだろう」


 代わりに答えたのはクラインだった。

 ザイキは大きな頭を頷かせ、“そうだ”と認める。


「裏は裏なりの作法がある。下手にかき回しても得は無いのだ」

「ふーん……そういうもんなのか……」

「鍵の管理と入り口への案内、及び地下水道内の引率、調査任務の監督などは、理総校出身の彼女、スズメ=ウィンバートに任せる」


 鍵は指の中で半回転した後にスズメに投げ渡され、彼女はわたわたと慌ててそれを受け取った。


「……あの、役人さん。お聞きしたいことが」

「何かね」

「どうしてウィンバートさんが引率役になったんです? 彼女は今、ゾディアトス導師の護衛としてミネオマルタに来ているのですが……」


 私達が聞きたかったことを、代表してヒューゴが聞いてくれた。

 ザイキは“ふむ”と唸る。


「我々は、スズメ=ウィンバートが志願したからそれを受理したまでのこと。彼女は三年前の功績で、五大国中から信頼できる者として扱われているので、断る理由もない。内々の事情については知らんな」


 スズメがついてきたのは彼女自身の意思だったらしい。

 そしてどうやら、ちょっとした申し出があっさりと国に認められてしまうほど、彼女は高い信用を得ているようである。


 三年前の功績。

 魔導士の連続失踪・暗殺事件を解決に導いた、リゲル=ゾディアトスの護衛。

 いわばお伽話にあるような、世界を救う勇者のお供だ。

 色々な場所で融通が利くのも、そう考えれば納得もいく。


「ロッカさんやクラインさんがミネオマルタの珍しい場所にお出かけすると聞いたので、導師さんにわがままを言って同行を許してもらったんです。リゲルさんからは許可を貰っているので、大丈夫ですよ」

「ああ、ゾディアトス導師が大丈夫と言ったなら、問題ないか。うん、ありがとう。僕はヒューゴ。今日はよろしく」

「はい!」

『おう、俺はライカンという。よろしく頼むぞ』

「はい……わあ、やっぱり手もおっきい」

「おー、尻尾も二本でロッカの二倍楽しめるなー」

「って、いたたた! 痛いです!?」


 ヒューゴと平凡な挨拶を交わし、ライカンの巨体には純粋に驚き、ボウマには髪をいじられ遊ばれて、クラインからは特に関心の対象にもされず、無視される。

 普通だ。普通の子である。

 極々一般的な、普通の女の子だ。


 私はそれに気付いた時に不思議と、心のどこかで安堵した。


「あ、ロッカさん、今日はよろしくお願いします!」

「うん、よろしくね、スズメ。みんな変わってるけど、結構良い人達だから」


 そう言ってスズメと握手を交わした時、何故か突然皆が静かになったのだが、理由は定かでない。


 ともかく、そんな感じで六人の探索隊は結成されて、いよいよ地下水道の探索が始まろうというのである。

 壊れたゴーレム、ドライアのために。ひいてはメルゲコ石鹸のために。この仕事、なんとしても大成功に納めなくてはならない。



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