35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 59
イスラエルとハマスが、戦闘状態に陥った…
もしや、これか?
これが、あの葉問が、言ったことか?
私は、驚いたと同時に、気付いた…
気付いたのだ…
私が、朝、驚いて、テレビを見ていると、
「…始まりましたか…」
と、誰かが、呟いた…
いや、
誰かでは、ない…
この家にいるのは、私と葉尊だけ…
だから、葉尊だった…
私の夫の葉尊だったのだ…
「…殿下が、危惧されていたことが、起こってしまいましたか…」
「…殿下が、危惧されていたことだと?…」
「…ハイ…」
「…どういうことだ?…」
「…ハマスが、イスラエルを電撃攻撃する…その情報は、殿下も掴んでました…」
「…なんだと、掴んでいただと?…」
「…ハイ…掴んでいました…ですから、殿下は、戦争にならないように、危惧して、さまざまな国々と水面下で、接触していました…」
「…あのアムンゼンが、か…」
「…そうです…」
「…」
「…だから、そうならないように、人一倍、殿下は、尽力していたのに…」
葉尊が、悔しそうに言う…
私は、驚いた…
正直、声も、出んほど、驚いた…
今、テレビで、見ている、戦争に、あのアムンゼンが、かかわっているなど、夢にも、思わんかった…
思わんかったのだ…
私は、
「…どうして、だ?…」
と、つい、呟いた…
「…どうして、アムンゼンが、この戦争にかかわっているんだ?…」
「…殿下が、アラブの至宝だからです…」
「…なんだと?…」
「…アラブ世界の平和を維持するのが、殿下の使命だからです…」
「…」
「…それゆえ、ハマスが戦争に、備えているのが、わかると、殿下は、真っ先に、動いた…戦争を回避するためです…アラブ諸国のトップに連絡して、対応を急いだ…」
「…」
「…だが、結果は、コレです…殿下の落胆は、いかばかりか…」
葉尊が、言う…
私の夫が、言う…
私は、それを、聞いて、
「…どうして、オマエに、そんなことが、わかる?…」
と、つい、聞いてしまった…
当たり前だった…
いかに、葉尊が、日本の総合電機メーカー、クールの社長といえども、そんな情報は、入って来ないだろうからだ…
いかに、大企業の社長といえども、一般人…
そんな、情報は、入っては、来ないだろうからだ…
だから、私は、聞いた…
聞いたのだ…
「…リンダですよ…お姉さん…」
「…リンダだと?…」
「…殿下が、リンダのファンだと言うことは、お姉さんも、ご存じでしょ?…」
「…それは、知っているさ…」
「…ですが、殿下の狙いは、リンダそのものだけでは、ありません…」
「…どういう意味だ?…」
「…リンダは、ハリウッドのセックス・シンボル…まぎれもない美人ですが、殿下の狙いは、リンダの持つネットワークです…リンダ・ヘイワースの持つ、人脈です…」
「…人脈?…」
「…リンダの後援会の会長が、イギリスのウィリアム皇太子だということは、お姉さんも、ご存じでしょ?…」
「…それは、知っているさ…」
「…殿下は、それを、知っていて、リンダに近付いたのです…」
「…」
「…もちろん、リンダは、あの美貌です…ですから、殿下が、リンダに憧れる気持ちに、ウソは、ないでしょう…ですが、殿下が、言葉が、悪いですが、リンダに目をつけたのは、リンダの持つ人脈も、大きい…」
「…」
「…殿下は、リンダに頼み、それとなく、今回のハマスの戦闘準備を告げた…リンダから、イギリスのウィリアム皇太子を筆頭とする、セレブに伝えるためです…彼らは、皆、世界各国のVIPと繋がっています…だから、対策を取れる…そう、思って、行動をしたんだと、思います…」
「…」
「…ですが、殿下の行動が、実を結ぶことは、なかった…」
葉尊が、説明する…
私は、それを、聞いて、ただただ、驚いた…
いや、
驚いたという言葉では、言い表せないほど、驚いた…
ビックリした…
まさか、あのアムンゼンが、そんなことを?…
あの3歳のガキにしか、見えん生意気なチビが、そんな大それたことを、やっているとは、思えんかったからだ…
だから、驚いた…
目の玉が、飛び出るほど、驚いた…
私の細い目が、思わず、大きくなるほどだった…
が、
しかし、だ…
あのアムンゼンの豪邸を見れば、驚くことでも、ないかも、しれん…
なにしろ、あの美術館とも、博物館とも、思える大豪邸だ…
あんな大豪邸に住む人間など、見たことも、なかった…
テレビでも、見たことは、なかった…
もちろん、日本に限ってだ…
世界各地では、あのアムンゼンの大豪邸を上回る豪邸が、存在することは、わかる…
そして、そんな大豪邸に住む、人間だ…
もしかしたら、世界を支配することが、できるかも、しれん…
私は、思った…
思ったのだ…
そして、そう思うと、今さらながら、ひとを評価するときは、そのひとを、評価するのではなく、そのひとの住む家や、クルマを見ることから、始める…
そんな当たり前のことに、気付いた…
ひとは、どうしても、まず、そのひとを、見て、判断する…
評価する…
話をしてみて、頭が、いいか、悪いか…
話をしてみて、人柄が、よいか、悪いか?…
ルックスが、いいか、悪いか…
あるいは、真面目か、不真面目か?…
など、当人を見て、判断する…
が、
それ以上に、その当人の持ち物が、大事…
その当人が、所有している持ち物で、その人間が、金持ちか、否か、わかるからだ…
ただ、アムンゼンのように、外見が、悪いと、どうしても、ひとに侮られる…
これは、人間が、軽くても、同じ…
同じだ…
どうしても、威厳がある、重々しい人物が、優れていると、思ってしまう…
しかしながら、いかに、威厳があり、重々しい人物でも、頭が、良かったり、性格が、良かったりするわけではない…
見た目と、中身とは、別だからだ…
だが、それが、わかっていても、つい、同じだと、思ってしまう…
見た目と中身が、同じだと、思ってしまう…
大半の人間が、私と同じだろう…
私は、思った…
思ったのだ…
そして、そんなことを、考えていると、葉尊が、
「…しかし、イマイチ、リンの役割がわからない…」
と、呟いた…
「…リンの役割だと?…」
私は、驚いた…
まさか、この場面で、リンの名前が出てくるとは、思いもせんかったからだ…
「…リンも、たぶん、この戦争にかかわっていると、思うんだが、それも、思い過ごしか…」
葉尊が、呟く…
私は、唖然として、葉尊を見た…
私の夫を見た…
「…どういうことだ? …あのリンも、アムンゼン同様、この戦争に、なんらかの形で、かかわっているのか?…」
「…それは、わかりません…ただ…」
「…ただ、なんだ?…」
「…タイミングが良すぎます…」
「…タイミング…なんのタイミングだ?…」
「…リンの来日したタイミングです…」
「…でも、リンが、来日したのは、お義父さんの葉敬が、来日するのに、合わせて…」
「…たしかに、それもありますが、それだけで、この偶然を説明できるのか?…」
「…」
「…そもそも、リンが、来日するのは、葉敬が、台湾の三星球団を買収する可能性が、高いからです…」
「…」
「…リンは、三星球団所属のチアガール…にも、かかわらず、今や、三星球団そのものが、リンの存在に頼ってます…」
「…リンの存在に頼っているだと?…」
「…ハイ…今は、プロ野球、三星球団の価値は、選手でも、監督でもなく、チアガールのリンなのです…」
葉尊が、言う…
しかしながら、その話は、前にも、聞いた…
この葉尊だか、葉問だか、忘れたが、どっちかに、聞いた(苦笑)…
「…だから、葉敬が、三星球団を買収する、もっとも、重要なキーマンにリンが、なる…それゆえ、葉敬は、今回、リンを連れて、この日本に来日した…リンの人柄を知るためです…リンが、どんな人間か、知るためです…」
「…」
「…ですが、そのタイミングが、なんとも…」
「…だったら、リンが、このハマスとイスラエルの戦争に関係していると、いうのか?…」
「…それは、わかりません…」
「…わからないだと?…」
「…ハイ…わかりません…ただし、殿下なら、なにか、知っている可能性が、高いです…」
「…あのアムンゼンが知っている可能性が、高いだと?…」
「…そうでなければ、殿下が、リンのファンだと、公言する理由が、わかりません…なにしろ、このタイミングです…当然、なにか、理由がある…あるいは、深読みかも、しれませんが、そう考えるのが、普通です…」
うーむ…
たしかに、葉尊の言うことは、わかる…
わかるのだ…
このタイミングで、あのアムンゼンが、リンのファンだと、公言する…
当然、なにか、隠された理由が、あるに、違いないからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、それを、考えると、いつのまにか、私は、腕を組み、うんうん唸っていた…
それを、見た、葉尊が、仰天した…
「…お姉さん…なにを、うんうん、唸っているんですか?…」
「…いや、いろいろ考えると、どうしても、辻褄が合わなくな…」
「…辻褄が、合わない?…」
「…そうさ…だって、今回、葉敬は…お義父さんは、台湾の旧知の知人から、その三星球団の買収を持ちかけられたんだろ?…それが、きっかけで、リンと来日することになったんだろ?…」
「…ハイ…そうです…」
「…だったら、もしかしたら、お義父さんに、最初に、その三星球団の買収を持ちかけた人間が、今回の騒動になにか、関係があるかも、しれんさ…そうは、思わんか?…」
私が言うと、葉尊が、黙り込んだ…
難しい顔をして、黙り込んだ…




