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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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30/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 30

…なんだと?…


 …さいは投げられただと?…


 どういう意味だ?


 一体、どういう意味だ?…


 私は、悩んだ…


 悩んだのだ…


 もちろん、意味はわかる…


 わかるのだ…


 だが、なぜ、今、そういうのか、わからんかったからだ…


 だから、


 「…オマエ…それは、どういう意味だ?…」


 と、聞いてやった…


 アムンゼンに聞いてやった…


 まさか、その意味は、


 …手遅れ?…


 もしや、この矢田を始末するために、サウジアラビア本国から、選りすぐりの殺し屋を送ってくるわけでは、あるまいな?…


 まさかとは、思うが、そんなことは、あるまいな?…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 だから、


 「…殺し屋か?…」


 と、私は、言ってやった…


 「…殺し屋?…」


 アムンゼンが、唖然とした表情で、私を見た…


 この矢田を見た…


 「…そうさ…オマエ…この矢田を殺すために、サウジアラビア本国から、殺し屋を呼んだのか?…」


 私が、私の細い目をさらに細くして、アムンゼンに聞いてやった…


 その途端、アムンゼンが、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 私は、焦った…


 予想外の事態だったからだ…


 「…な、なんだ? …なにが、おかしい?…」


 「…だって、矢田さんを殺すために、わざわざ、サウジアラビア本国から、殺し屋を呼ぶなんて…映画やドラマの見過ぎです…」


 「…なんだと?…」


 「…それに、矢田さんを殺すなんて、誰でも、できることです…わざわざ、サウジアラビア本国から、ひとを呼ぶ手間をかける必要は、まったくありません…」


 アムンゼンが、答える…


 私は、頭に来たが、


 …その通り…


 …その通りだと、思った…


 現実に、このアムンゼンの甥のオスマンが、この矢田を殺そうとしても、この矢田は、抵抗できない…


 ハッキリ言って、勝てない…


 それが、わかっている…


 自分でも、よくわかっているからだ…


 そして、そんなことを、考えていると、アムンゼンが、突然、


 「…食事にしましょう…」


 と、言った…


 まさか、最後の晩餐というやつか?


 私は、思った…


 だから、それを、言ってやった…


 「…まさか、最後の晩餐というやつか?…」


 と、言ってやった…


 すると、アムンゼンが、驚いた様子だった…


 ビックリした表情で、この矢田を見た…


 見たのだ…


 「…相変わらず、面白いひとですね…矢田さんは…」


 「…なんだと、面白いだと?…」


 「…そうです…面白い…実に、面白い…」


 「…なんだと?…」


 「…でも、それでいいのかもしれない…」


 「…なにが、それでいいんだ?…」


 「…きっと、殺し屋も矢田さんを見れば、殺すのを、止めるでしょう…」


 「…なんだと? …どうしてだ?…」


 「…あまりにも、人柄が、良くて、殺すのを躊躇うでしょう…」


 「…」


 「…矢田さんは、別格です…ボクが、これまで、出会ったなかでも、間違いなく別格です…」


 アムンゼンが、断言する…


 「…矢田さんのようなひとは、見たことがありません…」


 「…なんだと?…」


 しかしながら、アムンゼンは、この矢田を無視した…


 この矢田の質問を無視した…


 無視して、


 「…オスマン…」


 と、甥のオスマンに呼びかけた…


 「…ハイ…オジサン…」


 「…オマエは、バニラさんと、マリアさんに、なにか、食事でもしてもらって、それから、二人を自宅まで、送ってくれ…ボクは、これから、矢田さんと、食事に出かける…」


 「…矢田さんと?…」


 と、オスマン。


 「…そうだ…」


 アムンゼンが、答える…


 「…ですが、オジサン…オジサンが、一人で、どこかに、行くのは、危険です…」


 と、オスマン。


 「…危険?…」


 「…そうです…サウジ本国からも、オジサンを一人にしないよう、命令が出ています…」


 「…だったら、この屋敷の誰かに、バニラさんとマリアに、食事をしてもらって、それから、自宅まで、お送りしろ…オスマン…オマエは、ボクの護衛として、これから、同行しろ…」


 「…同行って、オジサン…一体、どこへ、行くんですか?…」


 「…それは、これから、行けば、わかる…」


 アムンゼンが、断言した…


 「…さあ、矢田さん、行きましょう…」


 と、この矢田に、言い、残ったバニラとマリアに、


 「…せっかく来たのですから、なにか、おいしいものでも、食べていって、下さい…この屋敷で働くスタッフには、あらかじめ、言い聞かせて、ありますから…」


 と、二人に言って、スタスタと歩き出した…


 私は、慌てて、


 「…アムンゼン…」


 と、アムンゼンの名前を呼びながら、アムンゼンの後を追いかけた…


 そして、それは、オスマンも同じだった…


 「…オジサン…ちょっと…ちょっと、待って下さい…」


 と、言いながら、急いで、私と同じく、アムンゼンの後を追った…


 そして、慌てた様子で、


 「…オジサン…そもそも、これから、どこへ行くんですか?…」


 と、アムンゼンに追いついたオスマンが、聞く…


 「…ラーメン屋だ…」


 「…ラーメン屋?…」


 「…そうだ…」


 オスマンが、唖然とする…


 それから、気を取り直して、


 「…どうして、ラーメン屋なんですか? オジサン?…」


 と、聞いた…


 当たり前だった…


 この矢田も、聞きたい謎だった…


 すると、だ…


 「…この前、矢田さんが、食べたがっていた、あのラーメン屋だ…」


 と、オスマンが、明かした…


 私は、ビックリした…


 まさか、このタイミングで、あのラーメン屋が、出てくるとは、考えもせんかったからだ…


 そして、それは、オスマンも同じだった…


 「…オジサン…どうして、あのラーメン屋なんですか?…」


 「…矢田さんが、食べたがっていたからだ…」


 …エッ?…


 声にこそ、出さんかったが、思わず、絶句した…


 まさか、そんな理由で…


 そして、同時に、


 …やはり、最後の晩餐か?…


 と、思った…


 思ったのだ…


 やはり、このアムンゼンは、この矢田を殺すつもりだと、気付いた…


 遅まきながら、気付いた…


 考えてみれば、これまで、散々、このアムンゼンに無礼を働いた…


 それを、このアムンゼンが、許してくれるはずもなかった…


 なかったのだ…


 だから、


 …甘過ぎた!…


 と、思った…


 これまでの自分の考えが、甘過ぎたと、今さらながら、悔いた…


 この矢田トモコの考えが、甘過ぎたのだ…


 だから、今さら、


 「…すまんかったさ…」


 と、詫びても、どうなるものでも、なかった…


 なかったのだ…


 この矢田が、アラブの至宝を怒らせた…


 その罪だった…


 その報いだった…


 それに、気付くと、私は、途端に元気をなくした…


 当たり前だった…


 これから、殺されるかも、しれんのに、元気が出るわけがなかった…


 だから、最初は、元気よく、アムンゼンの後を追っていたが、いつのまにか、アムンゼンに大きく離された…


 そして、それに、気付いたオスマンが、


 「…どうしました? …矢田さん?…」


 と、聞いてきた…


 だから、私は、


 「…私は、もうおしまいさ…」


 と、答えてやった…


 「…おしまい? …どうして、おしまいなんですか?…」


 「…アムンゼンを怒らせたからさ…」


 「…オジサンを怒らせた?…」


 「…そうさ…だから、きっと、アムンゼンは、私が、食べたかったラーメンを私に、ご馳走して、それを最後の晩餐にして、処刑するつもりさ…ちょうど、死刑囚が、死刑の前に、豪華な食事を食べるのと、いっしょさ…」


 「…まさか、矢田さん…考え過ぎですよ…」


 「…考え過ぎだと? そんなことは、ないさ…」


 「…いえ、考え過ぎです…オジサンは、たしかに、非情な一面はありますが、こと矢田さんに限って、そんなことは…」


 「…あるのさ…私は、アムンゼンを怒らせ過ぎたのさ…やり過ぎたのさ…」


 気が付くと、私は、オスマンと、アムンゼンの豪邸の廊下で、いつのまにか、立ち話をしていた…


 二人とも、アムンゼンを追いかけるのを止めて、立ち話をしていた…


 それに、気付いたアムンゼンが、私たちを振り返って、


 「…なにをしている…二人とも…さっさと、来い!…」


 と、怒鳴った…


 私とオスマンを怒鳴った…


 そこには、いつもの3歳の幼児を演じているアムンゼンは、いなかった…


 30歳の大人のアムンゼンが、いた…


 アラブの至宝が、いた…


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