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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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29/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 29

私は、ビビった…


 正直、どうしていいか、わからんかった…


 35歳の矢田だ…


 3歳のマリアに、腕力では、負けるわけは、なかったが、マリアをうまく説得する自信がなかった…


 しかも、


 しかも、だ…


 今、この矢田が、


 「…マリア…暴力は、いかんさ…」


 と、言った、その舌の根も、乾かぬうちから、マリアを腕力=暴力で、無理やり、言い聞かせることなど、できんかった…


 できんかったのだ…


 だから、私が、どうして、いいか、わからんかったので、困っていると、


 「…矢田さん…もういいです…」


 と、アムンゼンが、声をかけた…


 次いで、


 「…矢田さん…ありがとうございます…」


 と、アムンゼンが、この矢田に礼を言った…


 「…バニラさんも、ありがとうございます…」


 と、アムンゼンが、バニラにも礼を言う…


 「…お恥ずかしい姿をお見せしました…」


 アムンゼンが、言いながら、椅子から、立ち上がって、私たちに頭を下げた…


 それから、マリアに、


 「…マリア…ぶってくれて、ありがとう…おかげで、目が覚めたよ…」


 と、アムンゼンが、言った…


 が、


 これには、マリアが、驚いた…


 なぜなら、いつも、マリアと同じセレブの保育園に通うアムンゼンとは、違うアムンゼンが、目の前にいたからだ…


 大人のアムンゼンが、いたからだ…


 だから、マリアが、


 「…アンタ…ホントにアムンゼン?…」


 と、呟いた…


 呟いたのだ…


 当たり前だった…


 目の前にいたのは、いつもセレブの保育園で接するアムンゼンではなく、大人のアムンゼンだったからだ…


 マリアの問いかけに、


 「…そうだよ…」


 と、アムンゼンが、優しく答えた…


 それは、正真正銘30歳の大人のアムンゼンが、3歳の子供のマリアに、言う言葉だった…


 私は、驚いた…


 驚いたのだ…


 それは、初めて見る大人のアムンゼンだったからだ…


 いつもの、子供を演じているアムンゼンでは、なかったからだ…


 …一体、なぜ?…


 一体、どうして、アムンゼンは、素の姿に戻ったのか?


 不思議だった…


 不思議だったのだ…


 そして、とっさに、


 …リンか?…


 と、気付いた…


 きぅと、アムンゼンは、リンに恋する余り、素の姿に戻ってしまったのだ…


 素の姿=30歳の大人の姿に戻ってしまったのだ…


 私は、気付いた…


 気付いたのだ…


 そして、それに、気付いたのは、私だけではない…


 オスマンも同じだった…


 「…オジサン…」


 と、呟きながらも、アムンゼンの外見の変化に真っ先に、気付いた様子だった…


 素の姿に戻ったアムンゼンの姿に気付いた様子だった…


 きっと、リンに恋する余り、普段の子供を演じることが、難しくなったのだろう…


 リンに恋する余り、30歳の素の姿に戻ったのだろう…


 私は、そう見た…


 私は、そう睨んだ…


 この矢田トモコ、35歳の目に狂いはない…


 断じて、狂いは、ないのだ!…


 私が、そう思っていると、またも、マリアが、


 「…リンって誰?…」


 と、アムンゼンに聞いた…


 さっきと同じ質問を繰り返したのだ…


 私は、ビックリしたが、それ以上に、マリアの母親のバニラが、ビックリした様子だった…


 戸惑った様子だった…


 「…マリア…」


 と、戸惑いながら、マリアのカラダを掴んだ…


 もしや、マリアが、アムンゼンに無礼なことを、しないかと、心配だったのだろう…


 マリアを身動きできないように、羽交い絞めにした…


 が、


 それを見て、アムンゼンが、


 「…おおげさ過ぎますよ…バニラさん…」


 と、穏やかに、言った…


 優しく言った…


 「…マリアを離して、やりなさい…バニラさん…」


 引き続き、アムンゼンが、バニラに優しく、言う…


 が、


 しかし、それは、命令だった…


 アムンゼンの命令に他ならなかった…


 慌てたバニラが、


 「…ハイ…殿下…わかりました…」


 と、言って、急いで、マリアを離した…


 自分の娘を離した…


 すると、今度は、マリアが、不思議がった…


 「…ママ…どうして、アムンゼンの言う通りにするの?…」


 と、不思議がった…


 バニラは、どう答えて、いいか、わからんかった…


 どう、うまく返答していいか、わからんかった…


 とっさに言葉が出なかった…


 まさか、アムンゼンに言われたから、その通りにしたとは、言えんかったからだ…


 だから、言葉が、出んかったのだ…


 すると、それを、見た、アムンゼンが、


 「…バニラさん…マリアの言う通りです…ボクが、バニラさんに、なにを言おうが、全然、無視しても、構わないのですよ…なぜなら、バニラさんは、ボクの部下でも、なんでもないのですから…」

 

 と、穏やかに言った…


 それを、聞いたバニラは、ますます、なんと答えて、いいか、わからん様子だった…


 ただ、


 「…殿下…そんなこと…」


 と、だけ、言った…


 それ以上、なんて、言っていいか、わからんかったのだ…


 だから、私が、言ってやった…


 バニラの代わりに、言ってやった…


 「…アムンゼン…オマエ、案外いいヤツだな…」


 と、言ってやった…


 アムンゼンを褒めてやったのだ…


 と、この矢田の言葉は、アムンゼンにとって、意外だったようだ…


 「…矢田さん?…」


 と、初めて、私の存在に気付いた様子だった…


 「…どうして、ここへ?…」


 「…どうしても、なにも、私が、オマエに謝りに来たのさ…」


 「…矢田さんが、ボクに謝りに?…」


 「…そうさ…」


 「…だったら、それが、ボクに謝りに来る人間の態度ですか?…」


 と、アムンゼンが、指摘した…


 言われてみれば、その通り…


 まさに、その通りなので、二の句が告げなかった…


 だから、


 「…」


 と、黙った…


 言葉が、見つからなかったからだ…


 すると、


 「…でも、それが、矢田さんです…矢田トモコさんです…」


 と、アムンゼンが、続けた…


 「…謝りに来るときも、いつもと同じ格好…しかも、菓子折りひとつ持たず、やって来る…でも、それが、矢田さんです…」


 アムンゼンが、言う…


 「…でも、それが、いいんです…矢田さんらしくて、いいんです…相手が、誰であろうと、まったく関係がない…いつも、同じペース…にも、かかわらず、誰からも嫌われない…誰からも愛される…これは、矢田さんだから、できること…矢田トモコさんだから、できることです…」


 アムンゼンが、力説する…


 それまで、落ち込んでいた様子のアムンゼンが、別人のように熱く語る…


 私は、なんと言っていいか、わからんかった…


 そもそも、アムンゼンが、私を褒めているのか、けなしているのかも、わからんかった…


 わからんかったのだ…


 だから、


 「…アムンゼン…オマエ…私を褒めているのか? それとも、けなしているのか?…」


 と、聞いてやった…


 聞いてやったのだ…


 すると、即座に、


 「…褒めているに決まっているでしょ?…」


 と、アムンゼンが返した…


 「…サウジアラビア本国で、ボクにそんな態度を取ったら、死刑ですよ…矢田さんには、前にも言ったはずです…」


 「…し、死刑?…」


 「…矢田さんには、前にも言ったはずですよ…」


 たしかに、言われてみて、今、思い出した…


 たしかに、以前、このアムンゼンが、言った…


 今と、同じことを、言ったのだ…


 それを、思い出した私は、面食らった…


 正直、面食らった…


 同時に、恐ろしいことを、したと、思った…


 思ったのだ…


 これが、もし…


 もし、アムンゼンの機嫌の悪いときなら、この矢田の身が、どうなっているか、わからんからだ…


 最悪、このアムンゼンの言う通り、死刑になっても、おかしくはない…


 そして、そのことに、誰も文句は、言えないに違いない…


 例えば、この矢田の身を拉致して、サウジアラビア本国に連れて行き、この矢田が、死刑になったとする…


 それを知ったとしても、日本政府は、


 「…これは、大変、遺憾なことです…」


 と、いう、いつもの決まり文句を言うに、違いない…


 いわゆる、遺憾砲というやつだ(笑)…


 サウジアラビアのみならず、どこの国とも、揉めたくない…


 だから、正式に外交ルートを通じて、文句の一つも言えないから、


 「…これは、大変、遺憾なことです…」


 と、なる。


 どこの国に対しても、弱腰な日本政府…


 どんな状況になっても、どこの国とも、揉めたくない…


 だから、そういう対応になる…


 私は、その事実に、気付くと、自分の身のヤバさに気付いた…


 今さらながら、気付いた…


 だから、慌てて、


 「…すまんかったさ…」


 と、アムンゼンンに詫びた…


 アラブの至宝に詫びた…


 「…これまでの非礼を許してやってくれ…大目に見てやってくれ…」


 と、詫びた…


 詫びたのだ…


 すると、だ…


 「…なんの真似です…矢田さん…そんなことをして…」


 アムンゼンが、この矢田に聞く…


 「…なんの真似だと? …どういう意味だ? この矢田が、謝っているんだゾ…」


 私は、言ってやった…


 「…今さら、遅いです…さいは投げられたんです…」


 アムンゼンが、言った…


 非情にも、この矢田トモコに宣言した…


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