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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 1

「…ちょっと、お客さん…いい加減にして下さい…」


 ラーメン屋の若い男の店員が、怒鳴る…


 「…どうしてだ?…」


 「…お客さん、どうしてと、言われても…」


 「…私は、毎日、通っているのさ…だけど、どうして、食べれないんだ?…」


 「…お客さん…先着十名と、決まっているんです…店に張り紙も、張ってあります…お客さんが、十名に入れないだけじゃ、ないですか?…」


 「…そんなことは、わかっているのさ…」


 「…だったら、なんで?…」


 「…私は、この一週間、毎日こうして、朝の七時から、並んでいるのさ…でも、食べれないのさ…」


 「…そんなこと、言われても…」


 「…いや、お前を責めているわけじゃないさ…ただ、誰かに、はめられているような気がしてな…」


 「…はめられてる…陰謀論ですか?…」


 「…そうさ…こうして、毎日、並んでいるにも、かかわらず、まだ、一杯も、口にしていない…これは、どう考えても、変さ…きっと、誰かが、私を陥れようとしているに、違いないさ…」


 私が、言うと、近くで、


 「…プッ!…」


 と、吹き出す声が、聞こえた…


 「…陰謀論って、お客さん…そんなに偉いんですか?…」


 「…偉いさ…」


 「…ウソ?…」


 「…ホントさ…私は日本の総合電機メーカー、クールの社長夫人さ…」


 「…お客さん…そんな見え透いたウソを…クールって、あのクールでしょ?…失礼ながら、お客さんは、そんなふうには…」


 若い男の店員が、笑いながら、言う…


 たしかに、今朝の私は、いつもの派手なTシャツと、履き古したジーンズと、これも履き古したスニーカー…


 誰が、どう見ても、クールの社長夫人には、見えない…


 いや、


 そもそも、お金持ちとも、見えない…


 誰が、見ても、お金と縁のない人生を歩んでいる女…


 それが、私だった…


 私、矢田トモコだった…


 しかし、


 しかし、だ…


 私は、現実に、クールの社長夫人だった…


 ウソでも、なんでもなく、クールの社長夫人だった…


 が、


 その店員の発言に、呼応するように、


 「…あんな格好をしたオバサンが、クールの社長夫人なわけないじゃない…」


 とか、


 「…なに、あの勘違いオバサン…」


 とか、言う声が、あちらこちらから、聞こえてきた…


 だから、私は、頭にきて、言ってやった…


 「…オバサンじゃないさ…お姉さんさ…」


 「…お姉さん?…」


 と、店員…


 「…そうさ…35歳のお姉さんさ…」


 私は、断言した…


 すると、どうだ…


 周囲から、これまで以上の失笑が、聞こえてきた…


 「…ウソ? …35歳で、お姉さんのわけないじゃない…」


 「…やっぱり、勘違いオバサン?…」


 散々な言われようだった…


 私は、頭に来た…


 思わず、グッと、拳を握りしめた…


 「…こいつら…どうして、くれよう?…」


 私の頭の中が、ヒートアップした…


 よりによって、この矢田トモコ様を笑うとは?


 今、私の目の前には、十人の男女がいた…


 老若男女がいた…


 皆、このラーメン屋の先着十名の特製ラーメンを食べるために、並んでいる…


 私は、十一人目…


 今日も、そうだし、昨日も、そう…


 一昨日は、十三番目だった…


 朝、七時から並んでいるのに、だ…


 開店は、十時…


 にもかかわらず、朝っぱらなら、皆、並んでいる…


 この店の特製ラーメンが、ネットで、話題になっているからだった…


 実は、この矢田トモコ…


 昔から、流行ものに、目がないというか…


 いわゆる、はやりものに、心を奪われる性格だった…


 学生時代から、コレが、流行っていると聞くと、真っ先に手に入れた…


 誰にも、遅れをとることが、なかった…


 実は、コレは、この矢田の自慢の一つだった…


 もちろん、高いものは、手が出ない…


 だから、流行りものと言っても、せいぜい、数千円程度のものだ…


 だから、この矢田トモコにも、手に入った…


 そして、それは、35歳になった今も変わらない…


 他人様に後れを取ることなく、誰よりも、早く、流行ものを、手に入れる…


 それが、この矢田トモコだった…


 今、このラーメン屋の特製ラーメンが、ネットで、話題沸騰中…


 しかも、家から近い…


 この矢田トモコが、このラーメン屋を見逃すことは、なかった…


 なかったのだ!…


 だから、この一週間、毎日、朝早くから、並んでいるのだが、食べることは、できなかった…


 できなかったのだ!…


 私が、悔しい気持ちで、悩んでいると、


 「…もう、いいですか? …お客さん…」


 と、言いながら、店員が去ろうとした…


 すでに、私を、相手にしない気持ちは、明白だった…


 が、


 こんなことで、挫ける矢田トモコではない…


 私に背を向けて、この場から、去ろうとする店員の背中に、


 「…ちょっと、待てば、いいさ…」


 と、声をかけた…


 「…まだ、なにか、あるんですか? …お客さん…」


 去ろうとした店員が、足を止めて、振り返った…


 「…いい考えが、あるさ…」


 「…いい考え?…」


 「…明日から、抽選にすれば、いいさ…先着順じゃなく…」


 私が、提案すると、店員が、唖然として、口を開いた…


 「…お姉さん…そんな自分勝手な…」


 「…自分勝手じゃ、ないさ…この方が、公平さ…」


 私は、怒鳴った…


 「…明日から、私の言った通りに、すれば、いいさ…」


 「…できません!…」


 「…なんだと? …どうして、できない?…」


 「…そんなこと、できません!…」


 店員もまた、私に負けじと、怒鳴った…


 私は、頭に来た…


 が、


 同時に、困ったと、思った…


 なぜなら、いつのまにか、私は、周囲から、注目されていた…


 列に並ぶ、客のみならず、道行くひとたちも、何事かと、私と店員のやりとりを、眺めていた…


 実は、これは、いつものこと…


 いつものことだった…


 なぜか、私は、目立つ…


 目立つのだ…


 身長159㎝…


 童顔、巨乳の体形だが、なぜか、目立つ…


 子供の頃から、なぜか、周囲の中で、目立っていた…


 周囲の中に埋没することは、なかった…


 なかったのだ…


 だから、今も、周囲から、目立っていても、驚くことは、なかったのだが、さすがに、この事態は、想定外…


 完全に、私の想定外だった…


 だから、今、頭の中は、この騒動をどう、治めようか?


 それしか、なかった…


 実は、このまま、すんなりと、私が、矛を収めれば、すむ話かも、しれんが、それでは、この矢田トモコのプライドが、傷つく…


 実は、この矢田トモコは、誰よりも、プライドの高い女だった…


 いかに、この矢田トモコのプライドを傷つけることなく、この場から、うまく撤退するか?


 撤退=逃げ出すか?


 だった…


 それを、今、この矢田の優秀な頭脳をフル回転させて、考えた…


 が、


 答えが、出んかった…


 ちっとも、出んかった…


 と、そこに、


 「…どうしたんですか? …矢田さん…」


 と、いう声がかかった…


 私は、その声のする方を見た…


 と、そこには、一人のガキがいた…


 ガキ=子供が、いた…


 歳の頃は、どう見ても、3歳程度…


 浅黒い肌をした、生意気そうなガキだった…


 ガキ=子供だった…


 私は、その子供を知っていた…


 子供の名前は、アムンゼン…


 サウジアラビアの王族だった…


 前サウジアラビア国王の息子の一人…


 アラブの至宝と呼ばれ、サウジアラビアのみならず、アラブ世界の実力者の一人だった…


 が、


 それを、知る者は、世間には、ほとんどいない…


 なぜなら、このアムンゼンは、小人症…


 要するに、大人になれないカラダの持ち主だからだ…


 だから、世間に出れない…


 世間=人前に出れない…


 しかしながら、頭脳は明晰…


 だから、人前には、決して、姿を見せない…


 それゆえ、世間では、余計にミステリアスな存在となる…


 アラブの至宝と呼ばれているにも、かかわらず、決して、人前に姿を現わさないからだ…


 だから、かえって、話題になる…


 正体不明の人間だから、かえって、世間で、


 …アラブの至宝…


 と、呼ばれる凄い人物がいる…


 だが、決して、その人物は、表に姿を出さない…


 そんな噂が世間で広がり、それゆえ、実力以上に、凄い存在に見える…


 そういうことだ…


 そして、なにとり、このアラブの至宝は、ホントは、30歳の大人だった…


 だから、子供ではない…


 酸いも甘いも、嚙み分けた大人だった…


 そして、そのアムンゼンの隣には、浅黒い肌を持った長身のイケメンが、いた…


 男の名前は、オスマン…


 このアムンゼンの兄弟の子供…


 要するに、アムンゼンの甥だった…


 「…お久しぶりです…お姉さん…」


 オスマンが、私を見て、挨拶をした…


 「…久しぶりさ…」


 私は、返した…


 「…どうしたんですか? 一体?…」


 「…実はこういうわけさ…」


 私は、オスマンとアムンゼンに説明してやった…


 私が、このラーメン屋の特製ラーメンを食べるために、一週間前から、毎日並んでいること…


 しかしながら、先着十名しか、食べられないこと…


 だから、一週間通っても、食べられないことを、だ…


 それを、説明した…


 すると、オスマンが、


 「…だったら、お姉さんが、誰よりも早く、並んで、その十名の中に、入るべきじゃ…」


 と、言った…


 「…そんなことは、わかっているのさ…」


 「…だったら、どうして?…」


 「…特例を認めろと、言っているのさ…」


 「…特例?…」


 「…そうさ…」


 私が、言うと、オスマンとアムンゼンが、顔を見合わせた…


 互いに顔を見合わせて、どうしたものか?


 と、悩んでいるようだった…


 それから、私を見ると、


 「…矢田さん、ルールは、守らなれば、なりません…」


 と、アムンゼンが、言った…


 3歳の幼児の外見しか、持っていないにも、かかわらず、35歳の私に言った…


 「…矢田さんも、35歳の大人でしょ?…」


 アムンゼンが、諭すように、言う…


 私は、頭に来たが、なにも、言えんかった…


 誰が、聞いても、アムンゼンの言っていることは、正しい…


 そして、この矢田トモコの言っていることが、間違っているからだ…


 私は、悔しかったが、仕方がない…


 「…すまんかったさ…」


 と、店員に詫びた…


 「…私が、悪かったさ…」


 と、詫びた…


 すると、店員も、


 「…わかってくれれば、いいんですよ…でも、ルールは、守って下さいね…」


 店員もまた、私に諭すように、言った…


 私は、


 「…すまんかったさ…」


 と、再び、詫びた…


 と、ちょうど、そのときだった…


 「…ちょっと、なにをしているの?…」


 と、いう声がして、私の目の前に、大柄な女が現れた…


 その女は、身長は、175㎝…


 派手なサングラスをして、顔を隠しているが、その派手さは、隠せんかった…


 なにより、色気ムンムンだった…


 カラダの線を、これでもかと、いうように、強調した、服を着ていた…


 しかも、ミニスカ…


 とんでもなく、長く、カッコイイ脚を見せている…


 「…なんだ、リンダ、オマエ…どうして、朝っぱらから、そんな恰好をしているんだ?…」


 私は、聞いてやった…


 「…これから、仕事なの…だから、面倒臭いから、その仕事着で…」


 リンダが、言う…


 実は、このリンダ…


 リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボルと言われ、色気ムンムンの女だった…


 歳の頃は、29歳…


 ひょんなことから、この矢田と知り合い、今では、この矢田の親友になった…


 いい女だ…


 色気ムンムンの実に、いい女だ…


 しかも、性格もいい…


 この矢田も、世話になっている…


 が、


 この矢田は、このリンダを密かに警戒している…


 なぜなら、このリンダは、この矢田の夫の葉尊と、仲がいいからだ…


 クールの社長と仲がいいからだ…


 だから、もしかしたら、この矢田の夫の葉尊が、心変わりをして、リンダと、いい仲になったりしたら?


 男女の関係になったりしたら?


 そしたら、この矢田が、捨てられる…


 だから、警戒しているのだ…


 だから、本音では、どこかに、行って欲しいと思っている…


 ハリウッドに行って、もう二度と、この日本に帰って来ないで、欲しいと、思っている…


 と、そんなことを、私が、考えていると、


 「…もしかして、リンダ? …あのリンダ・ヘイワース?…」


 と、店員が、驚いて、言う…


 「…そうよ…」


 と、リンダが、サングラスを少しずらして、顔を見せた…


 すると、店員が、驚いた…


 歓喜の表情になった…


 「…リンダ・ヘイワースなら、うちの特製ラーメンも、無料にします…ぜひ、食べていって下さい…」


 と、店員が、抜かした…


 私は、頭に来た…


 「…オマエ…特製ラーメンは、毎日、先着十名じゃないのか?…」


 「…この店のオーナーは、オレのオヤジだから、一人や二人、増えても、どうにか、なりますよ…」


 「…オマエ…ルールはどうした? さっき、ルールを守れと、言ったのは、オマエじゃないのか?…」


 「…そんなルールなんて、どうでも、いいんですよ…」


 「…なんだと? …どうでもいいだと?…」


 「…リンダさんは、特例です…別格です…さあ、中にお入り下さい…」


 店員が、恭しく、リンダを接客する…


 「…ふざけるんじゃないさ!…」


 私の怒りが、爆発した…


 「…ルールは守るものさ…特例は、認めちゃダメさ!…」


 私は、怒鳴った…


 大声で、怒鳴った…


 「…そんなお客さん…さっき、特例を認めろと、言ったのは、お客さんでしょ?…」


 「…さっきは、さっきさ…」


 「…そんなお客さん…」


 私は、言ってやった…


 自信を持って、言ってやった…


 「…オマエ…言うことを、撤回するんじゃないさ…」


 私は、怒鳴った…


 大声で、怒鳴った…


 と、


 そのときだった…


 警官が二人やって来た…


 「…なんだ? …一体、なにをしているんだ?…」


 警官の質問に、


 「…このオバサンが、一人で、騒ぎ出して…」


 と、列に並んだ、誰かが、言った…


 「…オバサンじゃないさ!…お姉さんさ!…」


 私は、怒鳴った…


 「…35歳のお姉さんさ!…」


 私が、大声で、怒鳴ると、今度は、目の前の警官が、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 私は、頭にきた…


 我慢の限界だった…


 「…なにが、おかしいのさ!…」


 私は、怒鳴った…


 ついでに、勢いで、警官の足を、私の短い足で、蹴った…


 「…オバサン、公務執行妨害です…」


 「…オバサンじゃ、ないさ!…お姉さんさ!…」


 いつのまにか、その警官と私が、つかみ合いになった…


 「…ふざけるんじゃないさ!…」


 私が、怒鳴ると、


 「…オバサン、落ち着いて下さい…」


 と、警官が、怒鳴って、私を落ち着かせようとして、私のカラダを掴もうとした…


その手が、私の胸に触れた…


 「…オバサンじゃないさ!…胸を触るんじゃ、ないさ!…」


 私は、大声で、怒鳴って、私の胸を触った警官の頬を、平手で、ぶん殴った…


 ぶたれた警官が、目の玉が、飛び出た表情になった…


 次いで、


 「…このババア!…」


 と、言って、私に掴みかかってきた…


 私は、頭にきた…


 「…オマエは、許さんさ!…」


 私は、言って、もう一度、私に掴みかかって来た警官の頬を平手で、ぶった…


 当然のことながら、相手の警官も、余計にヒートアップした…


 「…許さねえゾ…このババア!…」


 「…許さないのは、私さ!…」


 私と、その警官は、まるで、柔道をするように、掴みあった…


 そして、その後は、それまでにも、まして、大騒動になり、パトカーも、何台もやって来た…


 その騒動を見た、誰かが、その騒動の動画を、ネットに上げて、騒動が、飛躍的に拡散した…


 しかも、タイトルは、


 「…クール社長夫人を名乗る中年オバサン…警官と取っ組み合う…」


 だった…


 まさに、愚行…


 この矢田トモコのあっては、ならない愚行…


 生涯最大の愚行だった(涙)…


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