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第六話

第6話

旅の始まり


朝の森は静かだった。

鳥の鳴き声だけが響いている。

リュカは小さな小屋の前に立っていた。

木と枝で作った、簡素な家。

六年間、ここで暮らしてきた。

雨の日も。

雪の日も。

一人で。

アルベルトは少し離れた場所で待っていた。

腕を組んで、静かに見守っている。

急かすつもりはない。

これはリュカ自身の決断だからだ。

リュカは小屋の扉に手を置いた。

中にはほとんど物がない。

少しの食料。

毛布。

そして短剣。

「……ありがとう」

誰もいない小屋に向かって、リュカは小さく言った。

ここがあったから、生きてこられた。

それから、リュカは荷物を背負った。

振り返る。

森の奥まで見渡す。

六年間。

この森が、リュカの世界だった。

でも。

もう違う。

アルベルトが声をかける。

「決まったか?」

リュカは少しだけ迷ってから――

頷いた。

「うん」

アルベルトが笑う。

「じゃあ行こう」

二人は森の中を歩き始めた。

リュカは何度も後ろを振り返った。

見慣れた木々。

小さな川。

狩りをした場所。

全部が遠ざかっていく。

やがて森の出口が見えてきた。

光が差し込んでいる。

森の外。

リュカは立ち止まった。

「……怖い?」

アルベルトが聞く。

リュカは少し考えて答えた。

「うん」

正直だった。

外の世界は知らないことばかりだ。

人も。

町も。

全部。

でも。

「でも」

リュカは前を見た。

「行ってみたい」

アルベルトは満足そうに頷いた。

「それでいい」

二人は森を抜けた。

その瞬間。

視界が一気に開けた。

広い草原。

遠くに続く街道。

青い空。

リュカは思わず立ち尽くした。

「……広い」

アルベルトが笑う。

「世界はもっと広いぞ」

リュカは目を輝かせていた。

こんな景色、初めてだった。

しばらく歩くと、街道に出た。

アルベルトが言う。

「まずは近くの町だな」

「町?」

「ああ」

アルベルトは説明する。

「人が集まってる場所だ」

「店もあるし、宿もある」

リュカは少し不安そうに言う。

「私……お金ない」

アルベルトが笑った。

「昨日の巨大狼の魔石」

袋から取り出す。

大きな魔石が朝日に光った。

「これがある」

リュカが驚く。

「これで大丈夫?」

「ああ」

アルベルトは頷いた。

「町なら結構な値段になる」

それから続けた。

「あと」

リュカを見る。

「冒険者ギルドってのがある」

リュカは首をかしげた。

「ギルド?」

「魔物を倒したり、依頼を受けたりする人たちの組織だ」

アルベルトが言う。

「リュカなら冒険者になれる」

リュカは目を丸くした。

「私が?」

アルベルトは真剣な顔で頷いた。

「十分強い」

リュカの胸が少し熱くなる。

六年間。

誰にも認められなかった。

でも今。

アルベルトはそう言ってくれた。

リュカは小さく笑った。

「じゃあ……」

アルベルトを見る。

「頑張る」

アルベルトは嬉しそうに笑った。

「よし」

空を見上げる。

青空が広がっていた。

「旅の始まりだな」

リュカも空を見る。

六年前。

この世界から追い出された。

でも今は違う。

世界へ

歩き出している。

少女の旅が

始まった。

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