魔導王朝に巣食うモノ
エルドバを乗っ取り、フォルリンクレーによる全権統治を行おうとしている「七色の魔女」の人間がいる事をテトラとハクア達から告げられたダリア達。
二人は一時、ザバンやミスティアでの功績があるダリア達に手を貸してもらうよう懇願するも、思い留まり自分達の力で解決を試みようと決意する。
ダリア達はそんな二人を後押しし、次なる旅路の当てを探してフォルリンクレーを見て回ることにした。二日後には魔導王朝の女王、クラリアの生誕祭があると聞き、ダリア達は期待に胸を弾ませる。
そんな一方で、「魔女の塔」て不穏な動きを見せていたのは「黒の魔女」ダスクだった。彼女は既に、他の6人の執政官のうち4人を自分の陣営に取り込み、自分自身の「本懐」に向けて動き出す手筈を整えていた……。
「さて、俺達のやることはめっきり無くなっちまったな」
テトラさんとハクアさんとカフェで別れた俺達は、行くあてもなくフォルリンクレーの街をぶらついていた。
「折角女王様の生誕祭があるっていうんだから、見ていきたいよね」
「女王様ってやっぱり、豪華なドレスとか着たりするんでしょうか……!」
俺達の紅一点、フィスタは女王様の身なりに興味津々のようだ。
「そりゃ晴れの日には衣装も豪華になるだろうけどよ、普段から着飾ってんのも暑苦しいだろ」
「……?生誕祭の日は晴れるんですか?」
「分かんないなら素直に聞けよ、アホ」
「アホってなんですかぁ!普通に教えてくださいよ、難しい言葉ばっかり使ってぇ!」
シンはいつも通りフィスタと何かを言い争っているようだった。頼りになるシンだが、フィスタといるとどうも子供っぽくなる癖があるらしい。まあ、完全に険悪なムードが流れているわけでもないし、良しとしよう。
「……ダリアさん」
街中を歩いていると、後ろからフィスタが俺の肩を叩いて尋ねてきた。
「なんだ?」
「エルドバでも思ったんですけど、なんで友好国同士で、その上便利な移動手段もあるのに、お互いの国の人達は見あたらないんですかね?私、フォルリンクレーに来てからずっと、エルドバの人達探してるんですけど……」
そう言われてみれば確かにそうだ。キエルさんは転送装置を使い慣れているようだったし、エルドバの国民が技術力との交換で労働力としてフォルリンクレーに滞在しているはずだが……。
「分かんねぇんだったら聞けばいいだろ。こっちの人間だったら何か知ってるかもしれないぜ」
そう言ってシンは、歩いているすぐ側にあった屋台に近寄ると、店主に尋ねた。
「俺達、エルドバの方から来た旅人なんだけどさ。この国とエルドバは友好国らしいじゃねぇか。向こうの国民はこっちには居ないのか?」
「なんだい兄ちゃん、随分と興味があるみたいだね。その話なら、この焼串を買ったら教えてあげるよ」
屋台の店主はシンを試すかのような口振りで、手に持った美味しそうな肉の刺さった串をチラつかせた。
「そうか……。だったら、向かいの屋台の店主にでも聞いてみるよ。あいにく俺はあんまり肉が好きじゃなくてね」
そう言ってシンはクルリと180度向きを変えると、向かい側の屋台の方に向かって歩き出そうとした。
「ま、待ってくれ!だったらいくつかおまけにする!それでいて兄ちゃんの知りたがってる情報も教えようじゃないか!」
「……そうか?だったら買わせてもらうよ」
シンはニヤリと笑ってポケットから小銭を取り出すと、店主から焼串を受け取り、俺達に1本ずつ渡した。
「聞きたいことがあるなら聞けよ。俺は飯が食えればそれで良いからな」
そう言ってシンは焼串を食べるために近くにある生垣の段に腰を下ろした。フィスタはオロオロしながらも、店主に先程の質問をした。
「エルドバの国民を見かけないって?まあ、俺もここら辺では見たことないな……。エルドバってのは獣人の国なんだろ?だったら見た目ですぐに判別できるはずだよな」
屋台の店主は俺達と同じように、フォルリンクレーに居るはずのエルドバの国民についての情報を知らないようだった。
技術力と労働力の交換。その実態は一体何なのだろうか。
「……もしかしたらだけどな」
すると、屋台の店主は静かにそう言った。
「俺は一度興味本位で、『奴隷市場』を見に行ったことがあるんだ。その時は酔ってたし、手持ちの金も少なくて市場の奴らに追い払われちまったが、うっすら覚えてる限りでは、あそこにいた人間の中に、獣人らしき奴もいた。ただ確証がない事だし、君達には危ないから近づくのはやめときな」
奴隷市場、という言葉に全身が恐怖を覚えた。人間の売買を行うという闇の取引。まさか、この国で行われているというのだろうか?
「ありがとうございます。わざわざ教えてもらって」
「良いってことよ。ただ、本当に危ない場所だから近づくんじゃないぞ?」
「もちろんです」
もちろん、そんな事態が事実ならば、俺はこの状況を見過ごすことなど出来ない。
「……行くんだろ?」
シンは俺の考えていることを悟ってか、既に焼串を食べ終わり、手の骨をポキポキと鳴らして、既に準備万端といった様子だった。
「ああ、ただ俺達の存在がバレたらまずいことになる。テトラさん達のためにも、騒ぎを起こさずに片付ける」
「ダリアさん、作戦はあるんですか?」
「二人は奴隷市場の近くで待機していてくれ。俺一人なら、バレずに中に忍び込める」
闇纏 ー黒衣ー
俺は意識を集中させ、自身の体に黒いモヤを纏わせていく。それらは次第に景色と同化し、やがて俺の姿は周囲から全く見えなくなった事だろう。
「あー、ザバンでやってたやつか。姿消せるってのは便利だな」
「ダ、ダリアさん!?どこ行ったんですか?」
フィスタは焦って周囲をキョロキョロ見回している。しかし、俺の姿はこの距離でも見えていないようだ。目の前に居るのに。
「俺はこのまま市場に潜入するよ。二人は合図したら入ってきてくれ」
「おう、気ぃつけてな」
「私、頑張ります!」
そして俺達は、フォルリンクレーの実態を探るべく、この国の闇が集まると思われる「奴隷市場」へと向けて出発した。
テトラさんとハクアさんが民衆に話をしていた広場から、遠くの方に見える塔へと向かう途中。フォルリンクレーで1番の大通りの右側、3つ目の路地を入った所を先に進むと、それは見えてくる。
(ここが、奴隷市場……)
裏路地には似つかわしくない端正な服を着た大人たち、そして不気味な雰囲気を漂わせた商人が彼らを満面の笑みで迎え入れる。
奴隷として売られていると思われる人達は、外から見える限りでも50人はくだらないように見えた。男や女、大人や子供によらず、彼らは皆絶望の表情を浮かべていた。
(……気に入らない場所だな)
俺はそう感じつつも、騒ぎになることを避けて、奴隷市場の奥の方へと進んでいく。暫く探してみたものの、少なくとも外で檻の中に繋がれている奴隷の中には、エルドバ国民の姿が見えることはなかった。
(ここには居ないのか?いや、でもこれだけの人が居るんだ。外に出されていないだけだろう)
俺が市場の片隅で息を潜めていると、新しく入ってきた男と商人の会話が聞こえてきた。
「これはこれはヘンドリー様。いつもご贔屓にありがとうございます……!」
「うむ。この前の奴隷はよく働いた。やはり腕力と体力だけは人間より優れていてな。代わりを貰えるかね」
「はい、只今。どうぞこちらへ」
そう言って二人は奴隷市場の中にあるさらに細い裏路地へと消えていく。
「やっぱり、ここだったか……!」
俺は自分自身が、万力のような力で拳を握りしめていることに気がついた。
そして俺は二人の男を追って、奴隷市場の裏路地へと足を踏み入れていった。
作者のぜいろです!
今回のお話を良いと思っていただけたならば、ぜひぜひブクマ、評価、いいね、感想等お待ちしております!




