不穏な影
獣王国エルドバを出立し、転送装置によって瞬間的に遠距離を移動。魔導王朝フォルリンクレーの大地を踏みしめたダリア一行だった。
そこで出会ったのは、「七色の魔女」を名乗るフォルリンクレーの執政官、「赤の魔女」テトラと「白の魔女」ハクアだった。
彼女達の口からは、ダリアを「待っていた」との言葉が。その真意とは……?
「君を、待っていたんだ」
テトラさんの口から発されたその言葉、予想外、という他無かった。俺は自分の罪を追及され、この国に居られなくなると思っていたからだ。
「おいおい、仲間の俺が言うのもあれだけどよ、仮にも国の執政官が俺達と仲良くしていいのか?こいつの罪はもう、こいつ1人のものだけじゃねえ。ダリアを利用しようって企んでんなら、そうはさせねぇ」
俺の隣に座っているシンは、テトラさんを睨みつけ、不機嫌な態度をとった。確かに、俺のような人間の味方についてくれると言ってくれた今まで会った人々の優しさに甘えていたが、客観的に見れば俺は、極悪人に映る事だろう。
「……すまない、こちらの話が十分で無い中、誤解を与えてしまったようだ」
テトラさんはテーブルの上に乗せている拳をギュッと握りしめ、一呼吸置いてから話し始めた。
「この国に来て間もない君達は、少しこの国に対しての理解が浅いことだろう。そこからまずは、伝える必要がありそうだな……」
そう言って言い淀むテトラさんの手を握って、ハクアさんは優しく言った。
「テトラ、大丈夫。私から話すから」
「ハクア……」
ハクアさんは俺達の方に顔を向け、テトラさんが俺を待っていたという理由を聞くこととなった。
「まず、結論からお伝えしますが、フォルリンクレーの執政官である私達『七色の魔女』は現在、二つの派閥に分かれています。私とテトラ、そしてもう一人の『グリム』という魔女は、その派閥争いにおいて少数派となっているのです」
「派閥?権力闘争でもしてるってのか?」
シンはハクアさんの話に質問を投げかける。
「ええ、特に今後のフォルリンクレーを左右するような重大な決定について、私達は選択を迫られているのです。フォルリンクレーの女王、クラリア様は現在国政からは身を引かれており、実質的な統治は我々で行っているのが現状です。そのため、多数派主義になってしまうという悲劇だけは避けなければならないのです……」
そこまで聞いて、俺はハクアさんが「重大な決定」というものについて言いづらそうにしていると薄々感じていた。
「『重大な決定』って、何なんですか……?」
俺の問いに対して、ハクアさんは答えた。
「……獣王国エルドバの、支配です」
その言葉に、俺達は全員、言葉に言い表すことが出来ない感情に襲われることとなった。エルドバの支配……。あの心優しき獣人達の支配を目論んでいる人間がいるという事実は、どこまでも残酷に俺の体を震えさせた。
「待ってください!エルドバとフォルリンクレーは友好国なんですよね……?だったらなんで、上下関係を作ろうとしてるんですか!」
フィスタの怒りはもっともだが、それはある程度両国の関係を考えれば想像出来るものだった。
「お前らの同胞にとっちゃ、獣人と対等ってのが気に食わねぇんじゃねえのか?それか大使殺しの件、それに労働力の確保……。まあ、考え出せばキリはねぇよな」
シンは現実を突き付けるかのようにハクアさんにそう言った。ハクアさんからすれば言い難いであろう事情を、シンは正確に捉えているようだ。
「えぇ……。そのようにして、現在ある友好国としての関係を塗り替える。その思考過程を持つ彼女達を、改革派とでも呼びましょうか。私達はそれに対抗するべく、今日まで協議を続けてきたのです」
「……テトラさんは、俺達にその改革派を説得する手助けをして欲しいって思ってるんですか?」
俺はテトラさんの方を真っ直ぐに向いて言った。テトラさんは一息置いてから、話した。
「……いや、やっぱり君達を頼るのは違うな」
「違うとは……?」
「君達の助けを得て改革派を説得したとして、その上に立つ指揮者に誰が従うのだろうか?自分達の意見を通すことも出来なかった『敗北者』に、この国を引っ張っていけるだけの力は残されているのだろうか?私はまだ、自分に出来る最大限の努力をしたとは思えないんだ……。そう、考え直した」
テトラさんの目は、初めに見た時よりもずっと、遠くを見据えているように見えた。その目に、もはや揺るぎはないようにも。
「だったら俺達には関係ない話だな」
シンは話の流れを切るようにして立ち上がった。
「シン、それは流石に冷たすぎるんじゃ……」
俺の言葉に、シンは返した。
「過度な心配は、逆に枷になるもんだ。やるって決めた奴に助言は要らないだろ。俺たちに出来ることは見守ることと、何かあった時に手を伸ばしてやることだけだ」
その言葉は、誰よりもテトラさんに届いているようだった。全く、こんなやり方はシンにしか出来ないだろう。
「感謝する、旅の青年。是非、皆の名前を教えてはくれないか?」
テトラさんは少し嬉しそうにそう言った。
「ダリア・ローレンスです」
「シン・ネオラルドだ」
「フィスタ・アンドレアと言います!」
「ダリア、シン、そしてフィスタか。君達がこの国を出ていく頃には、きっといい結果を届けられるように頑張るよ」
テトラさんとハクアさんは笑って俺達を見送ってくれた。彼女達なら、きっと想いを成し遂げられるだろう。
ー魔女の塔、執政官ダスクの部屋ー
「……ようやく、本懐を遂げる時が来たみたいだな」
七色の魔女の一人、「黒の魔女」ダスクはそう言って不敵な笑みを零した。
「全ては、クラリア様の為。この国の安寧は、永遠に続くのですね」
ダスクの隣に立つ、紫色の服を羽織った女はそう呟く。彼女達の目の前には、二人の女が植物のようなものによって椅子に縛り付けられ、身動きを封じられていた。口には猿轡、目隠しまでされ、状況を把握することは出来ない様子だった。
「お前らに抵抗されるのは想定外だったが、これからは俺の従順な部下だ。変な気起こすんじゃねえぞ……。まあ、その気もいつか無くなるけどな」
二人の拘束された女達の後ろには、虚ろな目をした「緑の魔女」グリムの姿があった。
「最初にお前を引き入れて正解だったな、グリム。おかげで後の作業が随分楽になった」
「……はい、ダスク様」
グリムの声には生気が感じられず、まるで機械のような受け答えを行うのみになっていた。
「二日後のクラリア様の生誕祭、それが引き金だ。それを以てエルドバは、フォルリンクレー……いや、クラリア様の手に堕ちる」
そう言ってダスクは立ち上がり、拘束された二人の魔女の頭に手を乗せる。
「首尾は上々。後はテトラとハクアだけだ……」
ダスクの手からは黒いモヤのような物が蠢き、それらはゆっくりと二人の魔女の体を蝕んでいく。声を上げる事も許されない二人の魔女は、やがて抵抗ることさえ止めた。
「楽しい祭りにしようぜ、テトラぁ」
ダスクの声が、静かに部屋に響いた。
作者のぜいろです!
獣の王国と魔導王朝編、楽しんでいただけているでしょうか?
七色の魔女の一人、「黒の魔女」ダスクの動きが随分きな臭くなって来ましたね……。彼女はこの章における重要人物なので、是非今後の動向を楽しみにしていてください!




