赤の魔女と白の魔女
広場に出来た人だかりは、二人の人間を取り囲んで形成さているようだった。二人ともフードで顔を隠し、マントのようなものは身なりを顕にしないようにしている。
しかし、フォルリンクレーの人々はその姿を見てすぐに正体が分かったらしく、二人に対して歓喜の声を上げる。
「なんだよあいつら。顔が見えねぇじゃねえか」
シンは遠くを見るようにして右手を揃えて額につけてみるものの、くっきりとは見えていないようだった。
「でも女性っぽいですよね……」
フィスタは目を凝らして二人の様子を見つめている。
その時、民衆に囲まれた二人の女達は声を発した。
「今日の良き日に皆に会えたこと、嬉しく思う。クラリア様も皆の働きを喜ばしいと仰っていた」
赤いフードを被った女のその声は自信に満ち溢れ、人々からの尊敬の眼差しを受け取るのには十分すぎるものだった。
「本日は、二日後に行われるクラリア様の生誕祭の周知とその準備の確認で参りました。皆様足を止めずにお願いします」
白いフードを被った女は礼儀正しくそう言った。赤いフードの女とは対象的に、静かで、落ち着いた声だった。
その声を受けて、人々は広場から離れていき、やがてフードを被った二人の女だけがその場に残った。
すると白いフードを被った女の方が、俺達に気がついたかと思うと、ゆっくりと近寄ってきた。
「貴方達、フォルリンクレーで見ない身なりをしていますね。旅の方でしょうか?」
その言葉に対して俺は返答する。
「俺達は、エルドバから転送装置を使ってここに来たんです。キエルさんというエルドバの騎士の方が旅客である僕らを通してくれました」
俺はそう言ってキエルさんから預かった襟章を女に見せる。女はそれを近くで確認すると、小さく頷いた。
「確かにエルドバの騎士の方の物のようですね。ようこそ、魔導王朝フォルリンクレーへ。この時期にここを訪れた貴方達は運がいい」
白いフードを被った女がそこまで言うと、赤いフードを被った女も近づいてきた。
「折角の客人だ。良ければ外の話を聞かせてはくれないか?」
そう言って近づいてきた女はフードを外し、その顔を俺達に見せた。
赤く煌びやかな髪、透き通るような黒い眼、そしてなんと言っても、額に植え付けられたかのような虹色の光沢を放つ物体が目に留まる。
「私はテトラ。この国を取り仕切る『七色の魔女』の1人だ。まあ、執政官のようなものだと思ってくれればいい。こっちは同じく七色の魔女の1人、ハクアという」
テトラと名乗った女に名前を呼ばれて、ハクアという女は同じ様にフードを外した。フードの外にまではみ出て見えていた美しい白の長髪、そしてテトラさんと同様に、彼女の額にも宝石のような物体が埋め込まれているように見える。
「彼女の目は生まれつき見えなくてね。その代わり、気配を察知する力が他人に比べてとても高いんだ。だからハクアが目を瞑ったままなのは許してやってくれ」
ハクアさんは確かに目を閉じている。しかし、そう言われたのに気がつき、ニコッと笑みを向けてくれた。
「ここじゃなんだ、良ければ近くの店で話でもしようじゃないか」
「そうですね。俺達もフォルリンクレーについて興味を持っていたので、是非、お話聞かせてください」
俺達はテトラさんに連れられて、近くにあったカフェのような店に入った。
中に入り、奥の方の席へと案内される。店の従業員がテトラさんとハクアさんの顔を見て、何やらコソコソ話しているのが見える。
決して迷惑がっているような様子ではなく、顔を赤くしていることからも、二人がこの国で人気なのだと改めて思う。
俺達の席には、テトラさんの頼んだブラックコーヒー、ハクアさんのホットミルク、俺達の飲み物が並んだ。
「さて、君達は旅客との事だが、エルドバの前はどこから来たんだい?」
テトラさんの質問に俺は答える。
「『水の帝国』サドムから来ました。その前はミスティアを経由しています」
その言葉に、「七色の魔女」を名乗った二人は反応する。
「ミスティア?あの、『霧の王国』かい?つい最近王族の失踪事件があったとかで随分この辺でも噂になっていたが……」
「西方の聖騎士団が解決にあたったという話は聞きましたね。随分物騒なことが起こっているようですが」
二人の耳にも、ミスティアでの事件は噂程度に流れてきているらしい。リーシュタッド家、ミスティアの王族はあの後無事に帰還したそうだが、流石に他国にその事件を隠しきることは難しかったようだ。
「君達もその事件の際、王国に居たのかい?」
テトラさんの純粋な質問に、俺は思わず答えてしまった。
「俺達も、解決に協力したんです」
その言葉を聞いて、テトラさんとハクアさんの雰囲気が一変する。俺はその様子を見た後で、自分の零した情報に気がついた。
「まさか、君たちが……?」
「本当ならば、かなりまずいですわね……」
二人の顔はみるみるうちに曇っていく。そう、俺はあまりの経過した時間の長さで忘れてしまっていたのだった。
自分が、世界に追われる大罪人の身であることを。
かなりの時間、沈黙が続いたように思う。二人は何やら黙ったまま考え事をしているようで、俺達は何も言い出すことが出来なかった。
その沈黙を破るかのようにして、テトラさんは目の前のコーヒーを口に含んだ後に話した。
「世界連邦の情報網は、君達が思っているよりもずっと速く、そして広範囲に広がる。私達のフォルリンクレーにも、指名手配の少年が生きていたというニュースは届けられていた」
それに続けるようにして、ハクアさんも口を開いた。
「世界連邦が貴方を指名手配した時は、私達も信じられなかった。『蹂躙』のダリア・ローレンス。貴方の名前は、もしかしたらそうなのではないのかしら……?」
俺は二人の内容に一部疑問を抱きながらも、その話を認めるしか道が残されていないことに気が付いた。
「……そうです。俺が、ダリア・ローレンスです。でも、これだけは信じて貰いたいんです」
俺は息を深く吸い込み、そして吐き出した。
「俺は、……世間に思われているような悪魔じゃない……。ただ、俺も何が起こったのか分からないんです……」
俺の心からの言葉に、周囲の4人は押し黙る。気まずい空気が流れている最中、言葉を発したのはテトラさんだった。
「君を、待っていたんだ」
その言葉が、俺達の運命を大きく変えることになるとは、俺はまだこの時知る由もなかった。




