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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第5章 白銀の章 氷の王国編 ー今、確かに目の前にあるものー
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氷国騒乱 ep.4 清廉の加護

 バチェル東部 バイアット地域


 「へえ、これが君の能力なのか」


 バチェルに常駐する準筆頭騎士、ジェック・ハイアットは、反乱軍の一人であるイグタスと相対した瞬間に、彼の加護によって捕らわれていた。


 「この空間からは逃げ出せないぞ、ジェック」


 「ふーん。でもそれってあくまでも、君が加護を使い続けることに限っての話だよね?」


 ジェックはイグタスによって作り出された空間、夢世界(ワールド・ドリーマー)の景色を眺めまわしながらそう呟く。


 「それが出来ればの話でもあるがな」



 夢世界の番犬(ミューマ)



 イグタスが言葉を発した瞬間、どこからともなくカラフルな色で塗りたくられたような犬たちがジェックの周りに現れた。


 「これが君の能力ってこと?」


 ジェックは余裕そうな笑みを浮かべながらそう尋ねる。





 イグタスの加護「夢想の加護」による能力、夢世界(ワールド・ドリーマー)の中では、イグタス本人が強く願ったものが実際に物体として創造される。イグタスの集中力が続く限りこの能力に際限は無く、敵を完全に倒し切るまで続くことになる。




 「夢世界の番犬は現実の犬みたいに優しくはしてくれないぞ」


 イグタスがそう言ったのを契機に、召喚されたミューマ達は一斉にジェックに向かって襲い掛かる。舌を出し、よだれをまき散らしながら敵の方へと真っ直ぐに駆けるその姿は、まるで野犬のようにも思われた。


 「美しくない」


 しかし、ジェックに触れることも敵わず、数頭のミューマ達は()()()()()()何かによって弾き飛ばされるような形となった。


 「その見た目もさることながら、聖騎士に向かって馬鹿の一つ覚えのように直進してくる様子。本物の犬よりも知性を感じないな」


 ジェックは前髪をかきあげながらそう言った。ミューマ達は自分たちのぶつかったものの存在を理解しきれていないのか、その場にとどまって威嚇の態勢に移行する。


 「今のが、お前の加護か……?」


 「よく聞いてくれた!これこそ僕が天から賜った崇高なる加護!その名も、『清廉の加護』だ」


 ジェックは周囲に取り巻きでもいるかのようなテンションでそう言った。イグタスとミューマ達はその光景に呆気に取られてしまう。


 「断言しよう、イグタス君。君がどれだけ優れた加護の能力者であったとしても、僕には決して()()()()()()


 ジェックはそう自信満々に言ってみせた。はたから見ればその言葉に信憑性は無いだろうが、イグタスにとっては現実的な内容だった。




 しかし、それを理由にして攻撃の手を緩めるわけにはいかない、というのがイグタスの出した結論であった。


 「そうか、じゃあこれはどうなんだ?」


 七夜の豪雨(ノア・リフレイン)


 イグタスは先に創造したミューマ達を抹消する代わりに、夢世界の空間にあるものを召喚する。空間をすべて満たしてしまうほどの大量の水であった。


 イグタスが集中を始めると、夢世界の上空から突如として大量の水が流れ込み始め、その勢いは足元を埋め尽くそうとするほどである。


 「水攻めか。随分と古典的な手法を使うものだね」


 しかしその光景にもジェックは臆することなく、ましてや剣さえ抜こうとしない。もちろん剣技で同行できる状況ではないのだが、戦闘態勢すら取らないのである。


 夢世界を水没させんとする水は、明らかにジェックだけを避けてその場にたまり始めるのである。


 「だが、そんなことは関係ない」


 「くっ……」


 夢世界での出来事はイグタス本人だけには影響しない。そのため、ミューマ達による攻撃対象にもならず、水による影響も加わらない。しかし、そのルールを覆す事態が目の前で起こっているのである。


 「加護は人を選ぶんだ。だからこそ僕のように選ばれた人間にはそれ相応の力が備わるんだ」


 ジェックはそう言ってイグタスの方に向かって歩みを進み始める。彼が一歩踏み出すたびに、その場にある水が意志を持っているように彼を避けようと勝手に移動する。


 「それが聖騎士としての務めだよ」


 ジェックは瞬時に剣を抜き、水の召喚に意識を割いているイグタスの方に向かって切りかかった。イグタスは危険だと察知し、水から意識を遠ざける。


 夢世界を満たし始めていた水は消失し、イグタスは腰に差した剣でジェックの剣を受け止める。


 「並行していくつかの行動をとることは出来ないみたいだね!それが君の限界さ」


 「黙れっ!」


 イグタスは力を込め、ジェックを振り払う。ジェックはその様子に少し驚き、イグタスから距離を取った位置に着地する。




 「加護に頼りきりと思った割には、意外と剣も使えるみたいだね」


 ジェックが感じた違和感、それは、加護による能力だけに頼っていると思い込んでいたイグタスが、聖騎士である自分の剣に即座に対応したこと。それ自体は珍しいことではないが、最初から加護に特化した攻撃をしてきたことに疑問を感じ始めていた。


 (僕の力量を図ろうとしていた……?加護だけで倒せるならばそれでいいと踏んでのことか、それとも……)


 ジェックにある違和感は、その少しのきっかけから心の中で大きくなっていく。加護だけでの対応、それだけでは説明のつかない何かがある……。




 「それが知りたければ、自分の手で確かめると良い」


 イグタスはジェックの表情から何かを感じ取ったのか、彼の土俵であると思われる剣での戦いを受け入れる姿勢を見せた。


 「聖騎士相手にそうくるか。面白い!」


 ジェックは嬉々として剣を構えると、イグタスの方に向き直る。


 聖騎士は基本的に、加護に選ばれた者から選別される。世界の秩序維持のために古来から行われてきた方法であり、強敵を相手にすることの多い聖騎士故のものである。


 しかし彼らが、あくまでも騎士として選ばれているのは、その才に加えてたゆまぬ努力を続けているからである。それはもちろん、剣技についても同じであった。





 ジェックは先ほどイグタスに切りかかったスピードから数段ギアを上げて攻撃の態勢をとる。


 ジェックはイグタスへの攻撃に、正面からの攻撃を選んだ。力量を図るという意味での選択でもあった。


 縦に振り下ろされる剣戟を、イグタスは正面から受け止める。ジェックは受け止められた剣をそのまま力のままに地面の方へと向かって振り下ろし続ける。


 イグタスはその流れに逆らうことなく、むしろ相手の剣を滑らせるように自身の剣の角度を変える。それによってジェックの剣は空を切るように受け流された。


 しかし、それが隙になった。




 相反する二物(アンチェイン)




 ジェックの剣は地面に当たるかと思われた瞬間に、反対方向に向かって反発するように急加速した。普通ならばあり得ないその剣の動きに、イグタスの反応は一瞬遅れる。互いの命に触れられるほどの間合いで、その一瞬は命取りとなる。


 ザシュッ!


 ジェックの剣は、惜しくもイグタスの仮面を傷つけるのみとなった。しかし、仮面の下にある肌に触れていたのか、ジェックの顔に鮮血が返る。


 「これが聖騎士だ、反乱軍」


 イグタスの付けていた仮面は、ジェックに切り付けられた部分の影響で壊れ、地面に落ちる。


 「お前、その顔は……」











作者のぜいろです!


前回不思議な終わり方をしましたが、あれが回収されるのはもう少し後になります……!


ジェックとイグタスの戦い、ジェックの最後の言葉の真意とは……?次回もご期待ください!



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