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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第5章 白銀の章 氷の王国編 ー今、確かに目の前にあるものー
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孤児

「遅い」


「ひぃっ!」


ペンネの強烈な一撃を、何とかしてフィスタはかわしたところだった。




俺とフィスタは今、反乱軍が行動を起こす日に向けて鍛錬を行っている最中だ。


「避ける時に相手に背中を見せてはダメ。次の攻撃に繋がるから」


「頭では分かってるんです!」


「だったら最初からそう動く」


ペンネはフィスタに付きっきりとなり、訓練をしていた。その様子を近くでポパイちゃんが見守っている。


「ダリア君、余所見はいけないな」


「えっ……」


フィスタの方に気を取られ、木刀を持ったオルオさんがその間合いまで近づいてきていたことに俺は気がついていなかった。




カァンッ



まさに間一髪のところで、俺はオルオさんの攻撃を受け止めていた。


「うん、流石の反応速度だね」


「ありがとうございます……!」


オルオさんはニコニコしているが、木刀に込められる力は本物だった。


「休憩にしようか」


オルオさんの一言で、ペンネとフィスタの方の訓練も中断となったようだった。






俺達が先程まで居た空間は、イグタスさんによって作られた空間らしい。正確に言えば、「夢」を見ているような状態のようだ。


「……」


イグタスさんは相変わらず口を開いてくれないが、俺に飲み物を渡してくれた。


「イグタスの加護は『夢想の加護』。人を強制的に夢の空間へと誘い込む事が出来るものだけど、こういう使い方も出来るってことだ」


オルオさんは水を一気に飲み干して言った。


「ただ、彼はあまり自分の事を話したがらないから、どうやって加護を身につけたかまでは教えてくれないんだけどね」


そう言ってオルオさんは、少し悲しそうな表情になった。


「反乱軍の人達はどうやって知り合ったんですか?」


「初めに出会ったのはペンネさ。この国の孤児として生きていた彼女を僕が里子として迎え入れたのが最初だ。その後同じようにしてポパイも。ただ、イグタスは少し特殊でね」


「というと?」


「彼は元々この国の人間じゃないんだよ。どこから来たかも分からない。ただ、ペンネとポパイのような孤児がいる現状を放っておけなかったらしい」


「イグタスさんからそう聞いたんですか?」


「彼は喋ってはくれないけれど、筆談は出来るからね。彼の方から僕のところを尋ねてきたんだ」


オルオさんはそう言って説明をしてくれた。国を変えたいと言う思いは、彼らに共通した理念とも言うべきものなのだろう。





「この国の孤児の発生、なんで僕がそれを気にしているか分かるかい?」


オルオさんは突然そう切り出した。確かに言われてみれば孤児はどの国にも居る可能性のあるものだ。反乱の原因としては若干弱い気もする。


「この国には他の国に比べて異常に高い()()()が存在しているんだよ。国の上層部は、バチェルが北側諸国の玄関口の役割を持っていることを理由に国防費としてこれを集めているけど、実際のところは違う」


オルオさんは顔を少し曇らせて言った。


「僕がバチェルの聖騎士としての役職を追われた後に中枢の調査を何度も行った結果は、悲惨なものだったよ。国防費とは名ばかりの統治者達による搾取、それが実態だったんだ」


「それが孤児の件とどう繋がるんですか?」


「この税はバチェル国民に対して()()()課されるものだ。それに、一人あたりの税は決して安くはない」


その瞬間、俺はこの国で孤児が増えてしまう原因を理解してしまった。それと同時に怒りとも悲しみとも言えない気持ちが心を襲う。


「そんなこと……!」


「気持ちは分かる。だけど今は抑えるんだ、ダリア君。僕の考える反乱は、何も国の上層部を打ち倒して終わりじゃない。その後に待っている『国民の意識の変容』、それこそが僕達、反乱軍の掲げる信念だから」


オルオさんはどれほどの感情をこの国に対して抱いているのだろう。大切な人を亡くして、壊れても仕方の無いはずの心を保った上で、その原因に立ち向かおうとしている姿は、俺も同情するところがあった。









「オルオ、そろそろ時間だから行ってくるね」


「ああ。そうだ、今日はダリア君とフィスタちゃんも一緒に連れて行ってあげなよ。()()()()きっと喜ぶよ」


「……」


オルオさんに向かってそう言ったペンネの顔は明らかに怪訝な表情になっていた。


「……分かった」


いくつもの葛藤を乗り越えたような、感情の無いペンネの返事によって、訓練を中断して俺とフィスタはどこかへと連れていかれることになった。





「ペンネさん何処に行かれるんですか……?」


反乱軍のアジトから出てしばらく、俺とフィスタはペンネに着いて行っているものの、彼女は一切顔色を変えることなくどこかへと向かって歩き続ける。


「……」


それでいてフィスタの問いかけにも答えないので、少々不安になってくるというものだ。


「ダリアさん、ペンネさんってもしかして私達のこと嫌いなんですかね……」


フィスタはペンネには聞こえないように俺だけにそう話しかけてきた。


「さぁ……?少なくとも俺は、そうは思わないけど」





( 最近知り合ったばっかりだから、何話したら良いか分からない……)




ペンネがただの人見知りであることをダリアとフィスタが知るのはもう少し先の話である。










「……着いた」


ペンネが向かっていた先にあったのは、子供達が走り回っている姿が外からでも見える施設だった。


「ここって、もしかして孤児院?」


「……そう。私とポパイがオルオに引き取られる前に居たところ」


ペンネがそう言うと、孤児院の中から一人の男性がこちらに向かって声をかけた。


「おぉ、ペンネ!久しぶりじゃないか!」


彼はペンネの方に駆け寄り、俺達にも気が付いたようだった。


「君達は?」


「初めまして。今バチェルに立ち寄っている、旅人のダリアと言います」


「フィスタです!」


「ダリア君に、フィスタさんだね。私はここの孤児院の院長をしているケインという者だよ。ペンネとはここに来て知り合ったのかい?」


「そうです」


「それでここにも来てくれたのか。子供達は元気が有り余ってるから是非遊んでやってくれないかい?私も最近は、彼らに付き合ってられるだけの体力が無くなってきてね」


ケインさんはそう言って初対面の俺達を快く迎え入れてくれた。




その時、孤児院の中から怒声が響いた。




「おいゲイルッ、おやつは2個までって言ってんだろうがっ!」



水色の綺麗な髪をしていながら、モヒカンに整えられたその姿は、どう頑張っても可愛いクマがプリントされたエプロンには似合わない。そんな男が子供達によるお菓子の取り合いの渦中に居たのだった。


「今日もいるのか、ウォル」


ペンネは彼のことを知っているのか、そう話しかける。


「来やがったな、ペンネ。俺は今忙しいんだよ、見たら分かるだろ?」


ウォルと呼ばれたクマさんエプロンの青年は、そう言ってペンネを睨みつけた。


「ウォル怖い……」


しかしその表情を見た子供達は、一様に目に涙を浮かべていた。それに気がついた青年は、必死になって子供達をなだめ始めた。




「ペンネ、彼のことを知ってるのか?」


「……あいつはウォルツロイ・ポートマン。この国の第3王子。つまりはナシェリーの兄にあたる人物」


その言葉に俺とフィスタが驚愕したのは言うまでも無いだろう。






お久しぶりです、作者のぜいろです!


この1ヶ月近く、投稿できて居らず申し訳ございませんでした!


理由は凄く個人的なものなのでここでは控えますが、無事に作者は大学を卒業致しました。(論文書くのって大変ですね)


ともかく、これからは週に3回〜4回程の更新を目指して頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願い致します!

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