反乱の同士達
オルオ達反乱軍が動き出す裏で、バチェル王家ポートマンについても同様の動きを見せていた。
その中でも、軍政を司る第一王子バルフェンスは、それまで隔絶されていた聖騎士との会合を取り付けていた。
バチェル王家第一王子バルフェンス・ポートマンが聖騎士と密会を行っていた頃、それはダリアとフィスタがオルオ達反乱軍の面々と出会ったタイミングと奇しくも重なっていた。
ダリア達は反乱軍のリーダーオルオ・トーカーと、第四王子ナシェリー・ポートマンと出会い、反乱軍の動きについて聞いている最中だった。
◇
「君達に一つ残念なお知らせをするとするならば、ここに居る五人が反乱軍のメンバーの総員だということくらいだろうか」
オルオさんはナシェリーの話を聞き終えてからそう言った。
「これだけ、ですか……」
「驚くのも無理は無い。だが、一つの国家を落とすのには十分すぎるメンツと言ってもいいだろう」
オルオさんは何やら目配せをすると、後ろにたっていたオレンジ髪の少女は話し始めた。
「私はペンネ。ペンネ・ロッドマン。幼い頃に王家からの迫害を受けて、耐え忍ぶ生活をしてた。オルオと出会ったのは割と最近のこと」
オレンジの髪をいじりながら彼女はそう言った。
「何か勘違いしてるみたいだけど、反乱ってのはそう容易い事じゃない。規模が大きくなればなるほど、そこには情報が漏れるリスクが伴うわ。私達は同士を集められなかったんじゃなくて、意図的にそうしていないだけ」
ペンネさん、いや、ペンネはそう言った。小柄ながら、内に秘めている凶暴性というか、冷静さを感じる話し方だった。
「そこに居る仮面をつけた奴はイグタス。私も正直掴みどころの無い奴だと思ってるけど、オルオが信頼してるから私もそれに従っているだけ」
そう言って振り返ると、仮面を着けた人物は手を挙げてヒラヒラとさせた。言葉を発する事が出来ないのだろうか。
「私はポパイ・シュルカーよ!この中だと一番年下だけど、敬意を表してポパイ様とお呼びなさい!」
イグタスと呼ばれた人物の陰に隠れるようにして、ペンネよりももっと幼い少女が顔を覗かせていた。
「あ、今私の事子供扱いしたでしょ!何考えてるかくらい、すぐに分かるんだからね!」
「えっ……」
「ポパイもイグタスも、それにペンネも。僕達反乱軍は皆、加護に愛された者達だ」
ポパイちゃんの言葉を遮るようにしてオルオさんはそう言った。
「当然、君たちもそうなんだろう?」
オルオさんは確信をもってそう言っているようだった。探りを入れるような素振りは無く、俺達のことを見透かしている、そんな雰囲気だった。
「そうです。だから、力にはなれると思います」
「その言葉、了承と受け取っても構わないかい?」
俺はオルオさんと握手を交わした。ウィンディさんとの交換条件、内紛の平定のために、俺は反乱軍の方につくことを決めたのだ。
◇ ◇ ◇
ー バチェル、聖騎士駐屯所内ー
「これが、今分かってる反乱軍の面々だ。オルオ・トーカーを主体として、現王政に関わりの深い人物がほとんどだ」
「ほとんどって、随分と含みのある言い方じゃないか、バルフェンス君」
ベスティはバルフェンスからの報告を受けて、挑発をするような態度をとって見せた。
「敵の情報をくれるのは嬉しい限りだけどさ、確信の無いものまで寄越せと言った覚えはないんだけどね」
彼女はそのままバルフェンスを追い詰めるかのような態度をとる。憂さ晴らしでもしているかの様子に、同じ聖騎士であるはずのジェックとプリオラは口を閉じたままだ。
「それに、私は納得してないしね」
「何の話だ」
「君達王国軍と私達が、有事の際には同列になるって話さ。オルオ・トーカーの解任後派遣された私達には、その事を条件付けた上で普段の業務を行う司令が下ったんだよ」
「そんな事を言っている場合では無いと伝えたはずだが?」
「いいや、私達にとっては大事な話さ」
ベスティは机の上に足を乗せ、組んだ状態でバルフェンスを睨みつけた。
「少し居ただけで分かる。この国の空気は濁ってるってね。それがオルオ・トーカーにも通じたのを察したから、現国王は排除したがったんじゃ無いのか、あいつを」
「貴様……!父上を侮辱するつもりかっ!」
バルフェンスは立ち上がり、腰に差している剣に手を添えた。いつでも剣を交えることが出来るという、脅しを含んだ行為であった。
だが、聖騎士達はその様子に怯むどころか、嘲笑した。
「抜けるもんなら抜いてみなよ。どんな手段を使ってあのオルオ・トーカーを出し抜いたかまでは知らないけど、今のあんたじゃ足元にも及ばない事くらいは分かる」
「やめなよ、バルフェンス君。僕達は仲間なんだろう、一応。それに、君がここで戦っても掃除が大変になるだけだ」
ベスティに合わせるかのようにして、ジェックは鏡を見ながら呟いた。
「何が言いたい……!」
「君、死ぬよ?」
バルフェンスはその時、自分の喉元に冷たい感触を覚えた。それを感じた瞬間に、身体中に寒気がはしり、剣を握ろうとした手が震え出す。
「喧嘩は、ダメ」
その殺気を放っていたのは、ジェックの正面で俯いていたはずのプリオラであった。その目からは光が失せ、ただならぬ殺気を放っているのが、バルフェンスでさえ分かるほどだった。
「お前らは……何者だ」
「それを君が知って何になるのさ。ジェックも言ったろ、私達は仲間なんだ。私は聖騎士として、国を守るためにここに居るだけだ」
「僕もそうだよ」
「……」
聖騎士達は三者三様の反応を見せた。バルフェンスに唯一理解することが出来たのは、彼らにこの場で絶対に逆らってはいけないことだけだった。
「よろしく頼むよ、王子君。対等な関係で行こうじゃ無いか、国のためにさ」
ベスティが優しく触れたその手は、バルフェンスにとって重圧にしか感じられなかった。
今はまだ、鎖に繋がれている3匹の獣。それが解き放たれた時、それでもしバチェルが救われたとして、大きな遺恨を残すことになるかもしれない。バルフェンスはそう感じていた。
「……今日のところは、帰らせてもらう。元々、私が無理を言ってここまで来たのだから」
「そんな怖い顔しないでよ。僕達は別に、君のことを嫌ってなんかいないんだからさ」
バルフェンスの去り際にベスティが見せたその笑顔の裏に大きな闇が含まれていることを、バルフェンスは感じ取っていた。
「意外と、まともな奴だったね」
「そうかな、僕には少なくとも、プライドだけが高い典型的な王族に見えたけど」
「ジェック君、そういうことはあんまり……」
「いや、ジェックの言い分ももっともだな。だがこれなら、あいつを仕留める良い土台になってくれるだろうね」
ベスティは薄笑いを浮かべた。
「待っていろよ」
作者のぜいろです!
氷の王国編に登場するメインキャストは出揃いました!彼らがどんなストーリーを組み上げていくのか、是非お楽しみに!
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