王家と聖騎士
オルオを巡る王家との因縁を聞かされたダリア達。それを聞いてダリアは何を思うのか。
そして現れた王家の人間、第四王子ナシェリーは、反乱の末に「共和国」の設立を目指していることをダリアに伝える。
その一方で、王家側にも動きが……
氷の王国の王として即位するヨルダン・ポートマン、彼の元には4人の王子達が居る。
第一王子バルフェンス・ポートマン
王子の中でも特に優秀でありヨルダンからの信頼も厚いバルフェンスは、国王軍を率いるサイザーの上司にあたる王家王国軍指揮長と呼ばれており、軍政を取り仕切っている。
第二王子ミュラー・ポートマン
気の弱い性格でありながら知才においてはバルフェンスを凌ぎ、国の政治の長である執務長を担っている彼は、ヨルダンとバルフェンスに対して忠誠を誓っており、兄弟の中でも特に頭が切れる王子である。
第三王子ウォルツロイ・ポートマン
現国王ヨルダンやそれに従う兄達を酷く嫌っており、自由を求める王子と呼ばれている。王家の懇談にはほとんど顔を見せず、何をしているかも分からない放浪の王子である。
第四王子ナシェリー・ポートマン
王家の血を引きながらもオルオ率いる反乱軍に力を貸している王子。現王政を失脚させ、自らの手によって新しい国家形態である「共和国」の設立を目指している。
彼らは各々に個性がありながらも、国民の多くから支持を集める王子達であった。そしてポートマン家は近隣の諸国からも北方国家の要所を守る由緒正しい家系として知られいた。
ー バチェル王城、食餐の間 ー
「ロイとシェリーは相変わらずか」
「そ、そのようですね、父上……」
「放っておきましょう。それよりも今は優先的に解決すべき問題が山積みです」
ポートマン家及びバチェルへと訪れた来賓が食事をとるための部屋、「食餐の間」では、現国王ヨルダン・ポートマンとその息子バルフェンス、ミュラーが顔を出していた。
食卓に並ぶ豪勢な食事の数々には見合わないほどの人数に、その場に控える給仕の者たちは顔をしかめる。
第三王子ウォルツロイはある時を境に食餐の間に訪れないようになり、ナシェリーに関しては顔を表したことすらない。その事を他の面々は特に気にもしていないようだった。
「ここのところ反乱軍を名乗る者たちの動きが活発になっています。やはりあの時オルオ・トーカーを逃がした代償は痛いものがありますね」
バルフェンスはそう言って目の前の気品を放つ肉を頬張った。
「で、でも反乱軍達は沢山牢屋に閉じ込めたし、そろそろ大丈夫なんじゃ……」
バルフェンスとヨルダンの方を交互に見ながら、ミュラーは声を震わせて言う。
「オルオは食えん男だ。戦地上がりの聖騎士などいつ問題を起こすか分かったものでは無い」
ヨルダンは冷静にそう言った。
「オルオ・トーカー、確かに厄介ですが、ナシェリーがこれに加担しているという噂もあります。王家の者として看過するべきではないのでは?」
「シェリーのことはもうよい。あいつに何が出来るとも思えん」
ヨルダンの一言にバルフェンスは押し黙った。仮にも自分の息子であるはずのナシェリーに対する反応としては、いささか冷淡すぎるとも彼は感じていた。
「それに、今バチェルを守る聖騎士は既に私の思想に共感する者で埋めてある。オルオがどれだけ優秀な聖騎士であっても、奴らを越えてここまで来ることは無い」
「それはそうですが……」
「に、兄ちゃんも会ってみたらいいよ。とっても強そうだし、頼りになる感じがするから!」
「その呼び方はやめろ、ミュラー」
バルフェンスは、オルオに代わってバチェルに駐在することとなった聖騎士の存在を知ってはいるものの、まだよく知らなかった。それは王国軍内にある聖騎士に対する排他感情のせいでもあった。
オルオとアイネの一件は良くも悪くも現王政に影響を与えるものとなった。国民からの聖騎士に対する印象も悪化したために、王国軍のトップであるバルフェンスは気軽に現在の聖騎士に接するタイミングを失ったのだ。
「父上、新しく配属された聖騎士との顔合わせを許可していただけませんか?これから反乱軍が本腰を入れてここを落としに来る可能性がある以上、私も彼らとの交流を図りたいのです」
バルフェンスの提案はあくまでも賭けに近かった。父であるヨルダンがこれを良しとしなければすぐに撤退することまで彼は想定していた。
「……良かろう、向こうの代表に話を通しておく。そろそろ軍と聖騎士の間の確執も埋めねばならんと思っていた頃だ」
「ありがとうございます」
「うむ」
◇
ヨルダンによる紹介によって、バルフェンスは現在バチェルに駐在している聖騎士達との面会を許された。本来ならば、有事を除いては王国軍と聖騎士は作戦を共にしないのが習わしである。そのため、バルフェンスは経験したことの無い緊張に襲われていた。
それは無論、オルオの一件があったからである。その現場に居て聖騎士の実力を知るきっかけとなった5年前の事件は、バルフェンスにとって良くも悪くも印象深いものとなった。
「……」
バルフェンスは意を決して紹介された場所に取り付けられた扉を数回叩く。
「ポートマンの者だ、代表者に会いに来た」
しばらくするとガチャりと内側から鍵が開けられ、それとほぼ同時に扉が開け放たれた。
「やあやあ、お偉いさん。ここでは粗茶しか出せないけれど精一杯もてなさせて貰うよ」
扉を開けた先に待っていたのは、茶色の長髪に黒縁の眼鏡をかけた女。聖騎士らしく甲冑を身にまとっており、近くで見るだけのその圧力に押されてしまいそうになる。
彼女の皮肉めいた言葉には気もくれず、バルフェンスは前に進んだ。
「そっちからコンタクトを取ってくるとは思わなかったよ。この国では我々聖騎士は蔑ろにされてると思ってたからね」
眼鏡をかけた女騎士は相も変わらずひねくれた口をきく。普段から溜まっている鬱憤でも晴らしているのだろうが、あまりにも直接的ではないだろうか。バルフェンスはその気持ちをグッと堪えた。
「ここで対応しよう。丁度他の面々も揃っていることだしね」
女騎士はそう言って奥の部屋までバルフェンスを案内した。そこには彼女とは別に二人の人物が待機していたようだった。
「随分と律儀に時間を守るものだね、王族というものは。僕に並ぶ気品と言ってもいいだろう!」
「あ、あの……王子様相手なんですから御二方とも、もう少しちゃんと……ひいっ!」
部屋にいたのは鏡を見ながら何度も髪を確認する男と、内気そうな女の子であった。
「これから戦いになるかもしれないって話は聞いてる。そのための顔合わせなんだろ、これは」
「ああ」
「私は北方聖騎士団筆頭騎士のベスティ・ノルマンド。親しみを込めてベスティとでも呼んでくれ」
強気な女騎士は自らをベスティと名乗った。それに続くようにして後ろにいた二人も同じように、バルフェンスに対して自己紹介をする。
「僕はベスティと同じく北方聖騎士団に所属している準筆頭騎士のジェック・ハイアットだ!貴様には僕をジェイと呼ぶことを許そう!」
「ほ、北方聖騎士団の一等騎士、プリオラ・ゼンバーです……」
二人は各々名前を名乗り、バルフェンスの方を見た。
「バチェル王家第一王子のバルフェンス・ポートマンだ。この国の軍政を取り仕切っている。此度の反乱軍の動きへの対応を円滑にするために、貴殿らに会いに来た」
反乱軍が動き出すのとほぼ同時に、バチェル王家と聖騎士達も動き始めていたのだった。
作者のぜいろです!
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