おまけ② 筋骨隆々
ダリア一行の戦闘担当シンは、日々の鍛錬を欠かさない。それは彼自身の能力が自身の身体能力によってその幅を変えるものであるからだ。
各地を放浪する旅人として今を生きるダリアに着いていくシンにとって、体を休めること以上に安定した鍛錬を行う時間は何よりも大切なのである。
「一度、水馬車を止めますね。水馬を休ませますので」
フォルリンクレーへと向かう森の途中、少し開けた土地に着いた時に水馬車の運転手はそう言った。
「はい、分かりました!」
「……ダリア、今日もやるぞ」
「えっ……」
シンは自分のトレーニングにダリアを付き合わせるのが日常的になっていた。一人でも勿論それはできる。というよりもむしろ、ダリアと会うまでは一人きりでやってきたのだから、一人の期間の方が長いのだが、シンはついに気がついてしまった。
一人は寂しい、と。
効率を求めるならば断然一人でやった方が良いのは分かっている。ダリアの中に居るラグドゥルの存在を抜きにすれば、彼自身の肉体はシンのそれよりも明らかに弱いからだ。
だが、そうでは無い。共に旅をする仲間。戦地となれば背中を預ける戦友として、ダリアとの交流を図るのはシンにとってなくてはならない日課となっていたのだ。鍛錬と同様に、だ。
「二人共毎日やってて飽きないんですか?」
フィスタはおやつに取っておいたのか、美味しそうなクッキーを食べながらシンとダリアの様子を眺めていた。
ダリアはシンによって上から圧をかけられながらの腕立て伏せをしており、苦悶の表情を浮かべている最中だった。
「飽きてる場合じゃねぇだろ。まだ俺も適わねぇ相手が山ほど居る。時間は少しも無駄に出来ねぇんだよ」
「ぷはっ!」
シンが勇ましい言葉をフィスタに伝えている内に、ダリアはその場にうつ伏せのまま倒れ込んでしまった。
「おいおい、もうへばったのかよダリア」
「シンと一緒にされても困るよ……」
「確かにお前には奥の手があるけどよ。でもそればっかりに頼ってちゃダメだって、自分でも分かってんだろ?」
「それは……」
シンですら赤子同然に扱われたラグドゥルという人格の存在、それは全ての戦局を大きく一変させるジョーカーのようなものだが、それがダリアに与える影響の大きさを、シンもダリアも分かっていた。
「だからこうやって特訓してんだ。最後に役に立つのは自分自身の体だ。それを肝に命じとけよ」
「やっぱ凄いな、シンは」
「何言ってんだ、今からは俺の特訓に付き合え」
「え……」
「あの黒い状態で俺と手合わせしてくれ」
二人の夜はまだまだ長くなりそうだった。
作者のぜいろです!
今回は総合400ptを記念したおまけ話になります!今後も(基本的には)200pt刻みでおまけを投稿していこうと思っておりますので、応援よろしくお願い致します!