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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第5章 白銀の章 氷の王国編 ー今、確かに目の前にあるものー
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はじまり -1

聖騎士専門の鍛冶師を名乗るウィンディとの契約を果たすために北方の礎となる氷の王国バチェルに足を踏み入れたダリアとフィスタ。


そこでダリアは氷の王国の二つの内面を知ることになる。


氷の王国の王ヨルダンは果たして正義か悪か……











オルオさんは俺の目を見て言ったのだ。ここに居る理由は何なのか、と。


「その前に君に一つ聞こう。ダリア、君はこの国を見て()()()()?」


「どう……とは?」


「君はここに来るまでいくつもの修羅場を越えてきたはずだ。当然その中には砂の王国ザバンのような悪政を敷いていた国も含まれる。それを踏まえて、君の目にこの国はどう映る?」


その言葉に、俺は少しだけ思慮した。


「俺には、平和な国に見えました。でも、ここに来る前にバチェルでは内紛が起きているとも。だから今は、少し困惑しています」


「困惑か。確かに君の見方は正しい。表面的にはバチェルもそう映るだろう」


そう言ってオルオさんは立ち上がり、近くの棚から何かを取り出した。


「だが、この国が抱える過去は少し複雑だ。今ある平和な国の裏には、陰りがある」


オルオさんは手に取ったそれを、俺とフィスタに見せた。





「これは……!」


「聖騎士の、エムブレム……!?」


そこにあったのは、血で濡れた聖騎士の掲げる十字のエムブレムだった。いくつもの傷がつき、割れかけたそれに、俺たちは驚きを隠せなかった。


ノエルさん、ベルちゃんやゼルちゃんなどの俺が会ってきた何人もの聖騎士は、それを必ず胸に掲げていたのだから、見迷うはずがない。



「僕は元々、聖騎士だった。世界の中枢、炎の帝国アルカラから派遣され、北方聖騎士団の一員としてこの国を守るために動いていた」


オルオさんが握りしめるそのエムブレムの裏には、オルオさんともう一人、女性の姿があった。






◇ ◇ ◇





ー 6年前、バチェル王都リグナイ ー


「お初目お目にかかります、バチェル王」


二人の聖騎士は王の前のということもあり、片膝を着いて敬意を表した。


その場に居るのは若くして筆頭騎士に任命されたオルオ・トーカーと、その右腕である準筆頭騎士のアイネ・リーダマンであった。


「お前達が、中央から送られてきた聖騎士か」


「僭越ながら、そうでございます」


「そうか、バチェルは北方の要。問題があってからでは遅い。お前達のような勲功を挙げた騎士によって守られるのは、民達のためにもなろう」


勲功、それは10年前に起こった風の帝国リカネルと雷の帝国との巨大な戦争で武功を収めた聖騎士に与えられたものであった。


オルオ・トーカーは戦勝国である雷の帝国側の一員として戦争に参加しており、その功績が認められたこともあって筆頭騎士へと昇格を果たしていた。


それが機となり、北方聖騎士団への正式な移動が達せられたばかりであった。





「バチェル王、あまりいい噂は聞きませんが」


戦争の機から常にオルオの近くで戦いを繰り広げたアイネは、オルオの移動に伴って自らもその所属を移した。そして王への謁見後、正直な感想をオルオに伝えた。


「王に問題があろうとなかろうと、僕達がやるべき事は一つでも多くの命を守ることだ」


オルオはアイネと同様の疑念を抱きながらも、自分達のやるべき事を冷静に判断していた。










問題が起きたのはそれから少し経った頃、依然としてバチェルは王の元で厳格な政治が敷かれ、オルオ達も聖騎士としてバチェル国内の治安維持に努めていた。


「オルオ様」


「オルオでいいと言ってるだろう、アイネ」


「そうは行きません。それよりも、最近の王軍の動きが妙なのはご存知ですね」


「ああ……」


アイネのいう異変、それは確かにオルオも感じ取っていた。




バチェルはその国土を大きく4つの都市に分ける。


雷の帝国に最も近く北側にある王都リグナイ、王城から見て右側のデスグーン山脈に隣接するノード、王城から見て左側「夜の王国ルーデシア」との国境に位置するバイアット、そして南側の門扉を閉ざすルルブである。


アイネの言う異変、それはルーデシアとバチェルとを繋ぐ国境近辺での()()()()()が減少していることであった。



「バチェルとルーデシアは同じ同盟の中にありますが、元はその領土を巡って争っていた国でもあります。少なくとも私達が来る頃までは兵同士の衝突が度々見られていました」


「そうだな、だが最近は極端にそれが少ない。と言うよりも、ルーデシアと衝突を起こす()()()()()()が少ない」


オルオ達聖騎士は国の守り手ではあるものの、その数は極めて少ない。少数精鋭を謳う聖騎士団の強さは、一人で大きな戦局や問題に対応できるだけの実力を有しているからだ。


それ故に、国の防衛の実権を握っているのはそもそもその国本来の兵士達であり、バチェルにおいても例外では無かった。


「何か、大きな事が起こる気がしてなりません」


「今は備えの時、だな」


巨大な戦争を経験したオルオとアイネにとって、自分の直感よりも信じられるものはなかった。





そして二人の直感は現実となった。





オルオとアイネがバチェルに派遣されてから、わずか5ヶ月、バチェルの隣国であるルーデシアは突如としてバチェルを急襲した。











「オルオ様、これは……」


「ああ、まずいな」


二人が危惧していた通り、兵の薄くなったタイミングを見計らうようにしてルーデシアはバチェルを攻撃し始めたのである。


それに対して兵士の動きは緩慢であった。


と言うよりも、バチェル王を支える護衛軍の軍長が、である。


この時軍長を任されていたバチェル王腹心のサイザーは、とある命によって兵士を意図的に動かしていなかった。


「何をやってるんだ、バチェル王軍は!」


オルオは激昂したが、それでもまだ動くことは出来なかった。バチェル王との約束により、オルオとアイネの両名は王の指示無しに問題に対応することが許されていなかったからである。


「このままでは、すぐに国民に被害が出てしまいますね……」


「……クソっ!」











オルオとアイネがバチェル王の命に逆らい、彼らの駐屯地を出た頃には、既に戦いは終わっていた。守るべきものであるはずの国民たちは多くが息を引き取り、血の海がそこに出来上がっていた。


「くっ……」


間に合わなかった事実、己の無力さを突きつけられるような現実が、オルオとアイネに襲いかかった。


「オルオ様……」


だが、二人にとっての戦いは終わっていなかった。





「そこで何をしている、オルオ・トーカー」


背後に現れたのは、サイザーが率いる王国軍の姿だった。何故か悠々と彼らは歩いてやってきたのだ。


「サイザー……!」


目の前の惨劇を背にして、オルオは怒った。自分の中に湧き上がる怒りを留める術を彼は知らなかった。


「捕らえよ、奴らが()()()






サイザーの発した一言はオルオとアイネに衝撃を与えた。そして二人が王国軍に捕らえられ、国家転覆の罪を着せられるまで長くはかからなかった。










作者のぜいろです!


最近投稿が滞っておりましたが、本日から再開します!氷の王国編はかつての砂の王国編に近く、それでいて異なるものとなっておりますので、是非お楽しみください!





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