反乱軍へ
ウィンディとの交換条件を達成するために氷の王国へと向けて出発したダリアとフィスタ。
バチェルに日暮れ前に到着した二人は、宿を営業しているレノバに誘われ、店へと入る。
そこで二人は、内紛の当事者の一人である「ヨルダン・ポートマン」について耳にすることとなる。
ー バチェル王国内、とある場所 ー
「帰ったよ」
閉ざされた部屋の木の扉を開け、一人の少女が中に入ってくる。
「ペンネ、またどこかに行ってたのだ?」
帰ってきた少女は、元々部屋に居たもっと幼い別の少女に質問される。
「ん、見回り。オルオ、気になることがあってさ」
ペンネと呼ばれた少女は部屋の奥に居た男に向かってそう言った。男は椅子に座ったまま背を向け、机の上に開いた地図を見続けていた。
「気になること?」
「ウチらが国王軍に喧嘩売ったってのに、バチェルに入ってきた奴らが居てさ」
「へぇ、また随分と気の抜けた守衛達だな」
オルオと呼ばれた男はそう反応する。彼にとっては特段興味のあるものではなかったようだ。
「気にしないんだね。そう言うと思ったけどさ」
ペンネはオルオに歩いて近づき、一枚の写真をオルオが見つめる机の上に落とした。
「これを見てもまだ、そう言える?」
ペンネの言葉に反応したオルオは、机の上の写真を手に取り上げて凝視した。
「彼は……」
「あなたが探してた『革命の種』。まさか自分から来てくれるとはね」
「やっと、ピースが揃った……!」
オルオはギュッと写真を握りしめ、そこに写る人物を見つめた。
「ダリア・ローレンス!」
◇ ◇ ◇
ー 翌日、バチェル王国内 ー
「お世話になりました」
「ありがとうございます!」
「はいよ、また宿に困ったらうちにおいで」
レノバさんの宿で一夜を明かし、俺達は改めて氷の王国バチェルの景色を見ることになったのだった。
俺達に今求められていること、それはこの国で起きていることを正確に把握することだ。ウィンディさんに依頼されたことを達成するためというのも勿論だが、レノバさんの話を聞く限りではバチェルの問題の解決は一筋縄ではいかないだろう。
「ダリアさん、これからどうしますか?」
「とりあえずは聞き込みかな。レノバさんが言ってたことも気になるし、やっぱり内紛してる国にしては静かすぎる気もするし」
「分かりました!」
◇
「内紛?あぁ、確かに今少し騒がしい時はあるけど、そんなに大事なのか?」
「国王の命でどんな店でも6時には閉めなくちゃいけなくてね。うちとしても商売あがったりだよ。あ、一つ買っていかないかい?」
「見たままよぉ。今のバチェルは平和そのものさ。だから昼から安心して酒も飲めるってもんよ」
レノバさんの店の近くで色々な人に聞き込みをしたが、国家内で起こっている事に対する人々の認識は明らかに異なっていた。
「内紛が起きてるって思ってる人は少ないみたいだな」
「そうですね。ウィンディさんが言っていた事を信じるなら、もっと荒れてるかと思ってたんですけどね」
「内紛が起きてるのが本当なら、反乱軍にあたる人達が居るはずだ。シンがいた国にも、国を変えようとしている人達が沢山居たから」
「その人達を、探すってことですか?」
「簡単に見つかれば良いけどね」
俺とフィスタが、気前の良い女店主の居る店のテラス席で話し込んでいるその時だった。
「確かに、そうだね」
その人は、いつの間にかそこに座っていた。オレンジ色の髪の毛をしていて、その一部が赤く染まっている。フィスタよりも少しだけ幼く見える彼女は、ツリ目をしていた。
「反乱軍を探してるんですか?」
「なっ……!」
突然現れた彼女に、俺とフィスタは思わず座っている席から立ち上がってしまった。ガタンッと倒れる椅子の音を聞いて、周囲の人の目線がこちらに集まる。
「ここじゃ人目に着きますから、少し場所を変えましょう」
オレンジ髪の少女は手招きをすると、俺とフィスタを店から見える裏路地の方へと歩いていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
「ダリアさん、着いていくんですか!?」
「今は手掛かりが無さすぎる。事情を知ってる人が居るなら、俺達は行動すべきだ」
「そ、そうですけどぉ」
俺はオレンジ髪の少女を追って裏路地へと入った。建物同士の間に出来たその空間は、狭さゆえか昼だというのに光がほとんど届いていなかった。
オレンジ髪の少女は路地の途中にある階段を指差し、自分が先にそこを下っていく。
「罠、とかじゃないですよね……」
「仮にそうだとしても俺が戦うさ。今はついて行くしかない」
俺達は階段を下り、ある扉の前に辿り着いた。木で出来た簡素なものだ。
「はぐれないようにしてね。中は1回迷ったら多分出られなくなるから」
オレンジ髪の少女はスタスタと歩いていく。俺とフィスタはそれに続くようにして、薄暗い道を歩いた。
◇
いくつもの曲がり角の先で、彼女は止まった。そこにあったのは、階段を下った先にあったものとは別の扉だった。
「中で詳しい事は話します。私達のリーダーが」
オレンジ髪の少女は扉を開け、その先へと俺達を誘う。俺達にはここまで来て戻るという選択肢は無かった。俺はフィスタを先導するようにして部屋へと足を踏み入れた。
薄暗い部屋。電気は通っているようだが、部屋を照らすためだけの簡単な灯りとしての役割のみだった。
そこには数人の人間の気配がした。その中心に居る、椅子に座った男。こちらに背を向けて何かを見つめているようだが、何を見ているのかは分からない。
「オルオ、連れてきた」
オレンジ髪の少女の言葉に反応して、部屋の中心に居るオルオと呼ばれた男は立ち上がった。
「来たか、『革命の種』よ」
透き通った桃色の髪に、整った顔立ち。彼は聖騎士と同じように全身を甲冑で覆っていた。
「初めましてダリア・ローレンス。僕はオルオ、オルオ・トーカー。この国を変える男だ」
「何で、俺の名前を……」
「志を同じくする者に知らない者は居ないだろう、君の名前はね。少なくとも僕は、君の事をずっと前から知っている」
オルオさんはそう言って笑った。彼が、この国の内紛を引き起こしている反乱軍のリーダーだというのか……。
「ようこそ反乱軍、いや革命軍へ。まずは僕達がここに居る理由から、君達に教えようと思う」
オルオは氷の王国の話を俺達にし始めた。
作者のぜいろです!
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