三人目の仲間
獣王国エルドバでの目的を遂げたダリア達。彼らは新しい旅路へとつく……。
「随分と待ったぞ、お前らぁっ!」
エルドバの北側の関所へと着いた俺達を迎えたのは、この国でお世話になった人達と、誰よりも生き生きとしたシルバーだった。
「おにいちゃん!」
そこには、俺達がフォルリンクレーと戦うことを決意した要因となった、リスの獣人パウエちゃんの姿があった。隣には彼女の両親らしき姿もある。
「パウエちゃん!」
フィスタはすぐに駆け寄って行き、パウエちゃんを抱きしめる。もふもふした耳の彼女は突然の事に驚きながらも、満更でも無い表情を浮かべる。
「うちの子が迷惑をかけたみたいで、すみません……。そして、本当にありがとうございました」
パウエちゃんの母親と思われる女性は、父親と共に深々と頭を下げた。
フォルリンクレーに奴隷として売られた獣人達の行方は、キエルさんたち近衛騎士を筆頭として調査が行われ、多くの人が解放されることになった。
勿論その中には、働き手として召集されたパウエちゃんのお父さんもおり、無事エルドバに帰ってきたという話は聞いていた。
フィスタがパウエちゃんの両親と話し、シンがエルドバの騎士達と語り合っている時、俺の近くにはトルファンさんが来ていた。
「ダリア君、シルバーの件改めて頼む」
百獣の王の血を宿した彼は、深々と頭を下げた。俺はそれを見て慌ててしまう。
「いやいや、頭下げないでくださいよ!俺達としても、仲間が増える事は嬉しいことなので」
「そう言ってくれるだけで助かる」
俺とトルファンさんがそんな会話をしていると、間に割り込むようにしてシルバーが現れた。
「ようやくあんたの顔を見ないで済むな!なあ、言ってやってくれよリーダー」
シルバーは俺と肩を組み、トルファンさんに向かってそう吐き捨てた。コロコロと様子が変わるシルバーを見て、どれが本当の彼なのか分からなくなってしまう。
「ああ、次に会う時はもっと獣王に相応しい男になっていることだろう」
そこに、バルダンさんが突然現れた。シルバーはバツの悪そうな表情となり、トルファンさんはすぐに膝をつく。
「シルバー、お前を送り出すのはこの国の未来のためだ。外でしか学べないことをその身に刻んでくること、それが私からお前に伝える言葉だ」
「分かってるよ、ジジイ」
シルバーはそう言ってバルダンさんから目を逸らす。二人は余程の知り合いなのか、随分と親しそうである。
「ああ、それとダリア君」
「……はい?」
「君は今まで世界連邦から指名手配を受けていた罪人、という扱いだったのだが、どうやら今回の十帝会議を経てそれが変わったらしい」
「十帝会議、ですか……?」
俺は、記憶の隅にあったその言葉を思い出す。確か水帝ハピナス・ラハンさんが、世界連邦長のセイバさんに招待されていたものの名前と一致する。
「ああ。君とその仲間達は再び活動を開始した一つの組織体、『黒の旅客』と呼ばれるようになったのだ。つまりは、君一人から君の仲間全員に、均等な手配がかけられた、という事だ」
「えっ……」
俺は、その言葉を聞いて動揺した。今まで俺一人で抱えていたはずの闇を、皆に同じように背負ってもらうのは、違う気がした。
だが、そんな俺の不安ごと消し飛ばすように、明るい声が後ろから聞こえた。
「何暗い顔してんだよ、ダリア」
「わ、私達も指名手配って本当ですかっ……?でも、仕方ないか……」
「アハハッ!お前らまとめて俺と同格って訳だ、ざまぁみろ!」
シン、フィスタ、シルバーの三人は、俺のように目の前の出来事を重くは受け止めていなかった。
「どうしたんだよ、ダリア?」
「いや、だって……。皆にまで迷惑がかかるなんて思ってなくて……」
「そんなの今更じゃ無いですか!それが嫌だったら、最初から着いてきて無いですよ」
「俺はむしろ外の世界に出れてラッキーって感じだしな。感謝してるぜ、リーダー」
三人のその言葉に、俺はどれだけ励まされたのだろう。改めて、俺の旅は一人でやっているのでは無いことを知った。
強さを求めて、自らの責務を果たすため、偉大な父を継ぐため。様々な想いを抱えた皆と、俺は歩くのだ。この途方もなく、先の見えない道を、一歩ずつ。
「君達の今後の行先だが、私は雷の帝国を勧める」
「五大帝国、ですか?」
「ああ、そうだ。現在の雷帝は水帝と親しい間柄にある。多少気の荒い御方だが、ハピナス様に見込まれた君達なら恐らくは大丈夫だろう」
「でもよぉ、ジジイ。雷の帝国っつったら、あの山脈を越えて行かねぇとだろ?」
「そうなるな。準備は怠るな。エルドバとしても支援はする」
そう言ってバルダンさんは俺に包みに入った何かを渡してくれた。
「これって……」
「旅の資金に役立ててくれ。なに、国を救ってくれた礼だ」
「いいのかよ」
「ありがとうございます!」
「俺の分も忘れてねぇだろうな?」
「バルダンさん、そして皆さん、行ってきます!」
俺はエルドバで出会った人々に手を振り、別れを告げた。そうだ。俺達の旅は、再び始まるのだ。
ー とある国、とある場所 ー
「クラリアがやられたそうだが……?」
一人の人物がそう言い放ったのを、周囲にいる人物達は黙って聞いていた。
「へぇ、あの人死んだの?」
「我々ガ向カッタ時ニハ、既ニ遺体スラ無カッタ」
少年のような声と、機械音声のような声が続けて暗闇に鳴り響く。
「彼女、最近はあんまり働いて無かったみたいだし、仕方が無いね。ただ、今回の十帝会議で我々の名前が出たのだけは、少し予想外だった。もしかしたら、彼女が口を滑らせたのかも」
一人の人物の話に、その場の人物達は驚きを見せる。今まで世界の影に潜んできた存在、聖痕達。
「それはそうとさ、僕『殺戮の少年』に会いに行ってもいい?一度、彼と話したいんだ。同じ気配を感じるしね」
一人の人物が立ち上がり、部屋を出て行こうとする。しかし、それをリーダーのような人物が静止した。
「お前の気持ちは分からんでもないが、待て、ユダ。お前一人では何をしでかすか分からん。『マシャール』を連れて行け」
「えぇ……」
「分カッタ」
機械音声の主は立ち上がり、ユダと呼ばれた少年に続くようにして部屋を出ていく。
「分かっていると思うが、決して殺すなよ?あの少年は我々にとって必要なピースの一つなのだから」
「はいはい、分かってますよ」
「殺シソウニナッタラ、止メルサ」
「頼んだよ、マシャール」
マシャールとユダ、二人の人物は、部屋を出てダリア達の元へと旅立った。
「今会いに行くよ、ラグドゥル」
ユダは不敵な笑みを浮かべた。
作者のぜいろです!
今まで殆ど明らかにされてこなかったスティグマについて、そのメンバーの一部を公開しました!名前を聞いて「おや?」となった方も居るのではないでしょうか。
標的をダリア達にしている二人のスティグマについては今後登場するので、是非お楽しみに!
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