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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第4章 獣の王国と魔導王朝編 ー生きとし生けるものの価値ー
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十帝会議 ep.2 因縁

十帝会議のために集まった時の為政者達。彼らの会議では、災いの渦中に居るとされる「スティグマ」が話題に挙げられたが、それと同時にダリアの話も提案された。











「ハピナス様、一つ宜しいですか?」


ハピナスの言葉に対して手を挙げたのは、裁帝マギアであった。


「私は十帝に任命されてから日が浅いので知識不足なのですが、『古代悪魔』とはそもそも何なのでしょうか」


「そうね。五大英雄の子孫達以外に馴染みの薄い話かしら。古代悪魔は、私達の最古の祖先、初代五大英雄の方々が生きていた時代に居たとされる()()()のことよ」


その言葉にマギアと、消帝フィルフは眉をひそめる。


「失礼、悪魔と呼ばれながら人間とは一体?」


「彼らはその所業が後世にまで残る程の遺恨を与えた者達。勿論、五大英雄とは対極的に悪い方の意味でね」


「言ってみれば悪の象徴の様なもの。だからこそ人々は、彼らの呼び名に根源的恐怖の名前をつけた」


ハピナスの話を補足するようにして、風帝トルシェリン・アルファは静かに話した。五大英雄の中でも特に博識の彼がその役を請け負うのはごく自然な事だった。



「それを踏まえて、その『殺戮の少年』、あえて分かりやすく名前を出すなら、ダリア・ローレンスには、その内の一人、『死』を司る悪魔ラグドゥル・フォン・ソロキオットが憑いているの」



その名前を聞いた瞬間に、会議場の雰囲気がひりつく。古代悪魔に関してある程度の情報を持っている五大英雄の子孫達もまた、例外では無かった。








「ここで私が言いたいのは、そもそも古代悪魔が現世の人間に乗り移った例は少なからず()()ということ。歴史を見てもそれは明らかだわ。そしてその誰もが意識を奪われ、巨大な犯罪の中核を担ってきた」


ハピナスの話は本当のことであり、それを知る者達は皆反論出来ずにいた。だがそんな中でも発言をする者は居る。


「それは勿論そうですけど、だからと言って見過ごすってのもおかしな話じゃないですか?少なくとも僕は悪魔ごと捕らえてしまうのが早いと思うんですけど」


口を開いたのは光帝ミツル・シノハラだった。彼の言う事もまた、正論ではあった。しかし、それはあくまでも、事情を知らない者の意見である。


「それは無理だな、『シノハラ』の」


雷帝ウィリアム・バッバーザードはミツルに対して呼びかけた。


「お前達が十帝となる前、つまりは先代の光帝や炎帝の時代に、同じようなケースがあってな。古代悪魔を身に宿した人間が現れ、甚大な被害が出た。当時、緊急の会議が開かれて捕縛、幽閉の話が出たんだが、結果は失敗。もう少しで十帝側に死者が出る程の死闘の末、古代悪魔に依代とされた人間は殺されたんだよ」


「十帝が……?」


「古代悪魔は十帝の実力を凌駕する。それでいて思念体とも言える状態で、何度も依代を見つけては世界に絶望を与えていくんだから、迷惑極まりないがな」


「じゃあ、無理ってことですか?」


「理論上はな。それに、捕まえた所で人はいつか死ぬ。依代が死んだらすぐにリセットされるのがオチだ」


「……」


ミツルを説得したウィリアムは会議中三本目の酒の蓋を空けた。ウィリアムが言っていることはもっともであり、それだけ十帝にとって長い間争ってきた相手なのである。






「それでお前はどうしたいのだ、ハピナス」


沈黙に包まれた会議場でハピナスを問いただしたのは、竜帝フェンネル・ドラグーンであった。古代悪魔の厄介さ、問題性を理解している一人でもある。


「私は、今の彼に今までの古代悪魔の依代達のような危険性を感じない。そう考えています」


「ほう、根拠はあるのか?」


「一つは、古代悪魔の中で唯一、初めて姿を表したラグドゥルが乗り移っているということ。そしてもう一つは、ダリア君とラグドゥルとの間に、何らかの意思の疎通が見られることです」


ハピナスの話を聞き、多少興味を持ったのか、フェンネルは肘をついていた姿勢から前のめりになった。


「皆も知っている通り、我がサドムには『精霊の神殿』があるわ。そこに彼は訪れ、一時は依代として力を解放した。その結果八騎聖(ウィット・シュバリエ)を圧倒する形にはなったけど、彼は少なくとも不殺を貫いている」


「その様子だと傷は負わせたように聞こえるが?」


「それは、事実です。ただ、八騎聖で相手をした者傷は浅く、私の加護ですぐに癒すことの出来る程度でした。今までの古代悪魔のケースと異なっているのは明らかだと言う事を、フェンネル様なら分かって頂けるかと」


「……まあ、一理ある」


フェンネルはハピナスの話に納得したのか、目をつぶって再び沈黙を貫いた。


「ダリア君の負の側面ばかり取り沙汰されていますが、彼が中心となって起こした事、勿論耳に入っているわよね?」


ハピナスは会議場の中央にある装置に、砂の王国ザバンと、霧の王国ミスティアの状況を映し出した。






「我々でも手を焼いていたネオン鉱石の生産地であったザバンでの革命、ミスティア王家の失踪を解決した功績。そのどちらにも彼は関わっている。つまり、力を正の方向へと利用している証明として不十分かしら?」






ハピナスの堂々たる発言に、その場の十帝達は最早何も言うことが出来なくなっていた。ただ、炎帝レオ・クラウドだけは、議長としての責任を果たす覚悟でいた。


「確かに、ハピナス様の意見は無下に出来ない部分があります。ただ、彼が大量殺戮を行なったという事実は既に知れ渡ってしまっています。故に、無罪放免、野放しという事には出来ません」


「まあ、それはそうね」


「なので、折衷案として一つ提案します。ミスティアでの聖騎士の活動報告を私も見ましたが、どうやら彼は今一人で行動している訳ではありませんよね?」


「そうよ。彼には今、仲間と呼べる存在が二人居るわ。その子達も訳ありみたいだけど」


「なら都合が良いですね。彼単体としての脅威認識を引き下げ、彼のいる集団を、程度を下げた手配犯にするというのはどうでしょうか。少なくともハピナス様の話を聞く限り、彼らも古代悪魔の事を知った上で共に行動しているということになり、世界における機密事項に触れている、という体にするのは解決になりませんか?」


レオがハピナスに提案したのは一種の賭けとも言えるものだった。ハピナスの要求は恐らく、ダリアの罪に関しての完全撤回であり、演説にはそういう意味があったのだろう。


ダリア個人に対する罪から、仲間たち全体への罪の切り替え。異例としか言いようがないその状況を、時の為政者たちは固唾を飲んで見守っていた。





「それはいい提案ね!」


「……!」


ハピナスの予想外の反応に、レオは面食らう。その様子は納得という言葉を使っても差し支えないほどのものだ。


「皆にも十帝としての立場があるわ。彼の起こした罪は消えていいものじゃない。それを仲間達と協力して乗り越えるのに意味があるもの」


レオはそこで、初めからこの話がハピナスの想定通りに進んでいたことに気が付いた。そう思えるほどに、彼女は余裕を崩さなかったからだ。


「でも、今彼らは罪を償っている途中なの。貴方達とはいえ、邪魔したらどうなるか、分かるわよね?」


ハピナスがその言葉と共に放った圧は、会議場全体を支配した。五大英雄の長の発言は、それ程に重いものがあった。





「ははっ、一本取られたな、レオ」


それに笑って返したのは唯一フェンネルだけだった。


「最初からお前の目論見通りだったわけだ、ハピナス」


「あら、何のことでしょうフェンネル様」


ハピナスは笑って返した。その様子にフェンネルはやれやれと言った様子で笑みをこぼす。


「レオ、これ以上はやめておけ。お前は議長としての責務を果たした。水帝の逆鱗に触れたくなければ、今の段階で手を引くことだな」


「その、ようですね……」


レオは苦い顔をするが、フェンネルはそれをなだめた。


「そうすると、彼らの事を呼称するための名前が必要ですね」


ミツルはそう言ってニコニコしている。この場の空気感に流されない独自の雰囲気を持つ彼は、マイペースという言葉が良く似合う。


「闇を背負った少年とその仲間、『黒の旅客(ボアジェ・ノワール)』とかどうですか?」


ミツルの意見に、意義を唱える者は居なかった。名前はあくまでも彼らを表現する一部に過ぎないのだから。











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