十帝会議 ep.1 波乱
ダリア達がフォルリンクレーとエルドバの争いに巻き込まれていた頃、炎の帝国「アルカラ」に集まった時の支配者達「十帝」。
今後の世界の行く末を話し合う十帝会議が始まろうとしていた。
ダリア達がフォルリンクレーとエルドバでの問題を解決していた頃、五大帝国の一つ「炎の帝国」アルカラに集まった世界の為政者たちによる会議が始まろうとしていた。
【十帝会議参加者】
「炎帝」レオ・クラウド
「水帝」ハピナス・ラハン
「風帝」トルシェリン・アルファ
「雷帝」ウィリアムバッバーザード
「光帝」ミツル・シノハラ
「裁帝」マギア
「消帝」フィルフ・ドグマ
「竜帝」フェンネル・ドラグーン
「それでは、此度の十帝会議を始めさせて頂きます。議長は私、レオ・クラウドが務めます」
「頑張ってレオちゃん」
炎帝レオ・クラウドが話し始めると、シリアスな雰囲気を壊すように水帝ハピナス・ラハンが直ぐに茶化しを入れてきた。
レオは多少咳払いすると、そこに居る十帝の面々に顔を向ける。彼が特に気を払っているのは「五大英雄」の子孫たち、つまりは現五大帝国の皇帝達である。
「今回の議題は大きく分けて三つ。一つはここ最近起きている『聖騎士失踪事件』について、二つ目は『聖痕』と呼ばれる者達について、最後に大罪人の少年が発見された件についての情報共有となります」
レオがそう言うと、風帝トルシェリン・アルファが直ぐに手を挙げて発言を求めた。
「浅い知識で申し訳ないが、会議を始める前に『聖痕』について詳しく説明をしてもらえるか?レオ」
「風の帝国」リカネルを代々治める風帝は、その誰もが特定の分野に深い知識を持つ。現風帝のトルシェリンは民俗学に精通しているが、どうやら歴史には疎い部分があるようだ。
「フェンネル殿、補足をお願い出来ますか?」
「あぁ、構わん」
相談役としての立場を担う、竜帝フェンネル・ドラグーンは口を開く。その重厚は気配に、十帝の面々は誰もが口を閉じる。
「『スティグマ』は歴史の文献にもその存在が殆ど残されていない組織、及び同一の思想を有する者達の俗称だ。今の時代にその名前が残されていないのには、今の世界の成り立ちにおいて敵対する者だったから、という曖昧な答え方しか出来んな。ただ、始祖の五大英雄は間違いなく奴らを『禁忌』の存在として扱っていたのは言うまでも無いな」
「ありがとうございます」
竜帝による説明が終わり、口を開いたのは十帝の中では比較的新参の消帝フィルフ・ドグマであった。
「そのスティグマが議題に上がるほどとは、具体的な事件でも起こっているという事ですか?」
「そうよ。先日私達サドムの友好国であるミスティア王家の失踪事件の時に、西方聖騎士団の騎士がスティグマを名乗る人物と接触しているわ。その時に現れた人物は神獣から『神威』を奪い去って行ったとの報告もね」
フィルフの疑問に答えたのは、水帝ハピナス・ラハンであった。まだ記憶に新しいミスティアでの一件を持ち出し、周知を図ったのだ。
「神獣って言うと……ジュカテブラの事ですか?」
「そうよ、ミツルちゃん。私も直接確認しに行ったけど、そこに残されていたのはジュカテブラだったもの。簡単に言えば抜け殻みたいになっていたわね」
「へぇ、てことは神獣の核が抜かれたような状況になったって感じですか」
「そう言えるわね」
光帝ミツル・シノハラはハピナスの話を聞いて何やら考えているようだ。多くの先端技術、発明を生み出している光の帝国「オルバラン」の皇帝としては、引っかかかる部分があったのだろう。
「そして今回議題に上げたもう一つ、聖騎士失踪事件がこれに関わっているとの見方が現在なされています」
レオはいくつかの写真を会議場の中央にある装置に映し出す。そこには地面に残された血痕と、とあるマークが描かれていた。
五芒星のエンブレムの中心にハートが描かれ、そこにヒビが入ったような模様。それが何を表しているのかは、その場の十帝達はすぐに察しがついた。
「随分とまぁ悪趣味な絵だな」
雷帝ウィリアム・バッバーザードはその模様を眺めて酒を口に運んだ。先程までの陽気な姿とは打って変わって、真面目な様相だ。
「これが、『スティグマ』の象徴という事なのですか?」
裁帝マギアはスティグマに関して一番詳しいであろうフェンネルの方を見ながら言った。
「ああ、辛うじて残っていた文献にある通りだ。と言っても俺以外に目を通すことが出来ない程の機密事項がこう易々と再現されていることから判断しても、再びスティグマが動き出したと考えて間違いないだろう」
その言葉に十帝達は各々息を飲む。自分達の祖先、始まりの英雄達が相対した可能性のある敵に対して、それぞれが意欲を駆り立てられていた。
「とは言っても、これ以上の情報がある訳でもない。ミスティアに現れた人物もすぐに姿を消したようだし、今俺達に出来ることは他の神獣から『神威』を奪われないようにすることくらいだ」
フェンネルは目を閉じてそう言った。スティグマが掲げるマークを知ったとしても、直接的な足掛かりとはならないので、当然の判断であった。
「フェンネル殿の言う通り、神獣の警護にこれからは尽力してもらうことになると思います。現在保護されている5体の神獣を除いて、それぞれ禁域となっている神獣についても対応を」
レオはそう言うと十帝の内、4人の前に地図を渡した。
「ウィリアム殿には北方の神獣、『信仰』のテルトを」
「あぁ、分かった」
「トルシェリン殿には東方の神獣、『不殺』のクシオーネを」
「……あぁ」
「ミツル殿には南方の神獣、『真言』のオルレンを」
「おっけー」
「そして最後に、フェンネル殿には『奉公』のウォーエンを」
「あいつか。良いだろう」
「『神威』を奪われることは直接、世界の安寧の維持の崩壊に繋がる恐れがあります。これ以上の勝手を許さぬよう、お願い致します」
レオの呼びかけに対し、神獣の警護を委託された4人は静かに頷く。
「それでは次に、大量殺戮を犯した大罪人の少年についての話です。これに関してはハピナス様からお願い致します」
レオは話をハピナスに振り、彼女はそれを受けて立ち上がった。幼い容姿だが、この中では年長者にあたる彼女の圧力を前に、十帝の面々は緊張の面持ちを見せる。
「まず先に言っておくことが一つ。私は、話題に上がっている少年に既に会っています」
水帝のその一言に、会議場は騒然とする。無理もない。五大英雄の子孫の中では一番長く十帝の座に着いている彼女の発言は、内容に対してあまりにも重いものだったからだ。
「何故黙っていた。理由によってはあんたにも罪が降りかかるぞ」
荒々しさを押し殺したウィリアムは、冷静に尋ねる。彼にとっても、その発言は予想外のものだったからであろう。
「ハピナス様、差し支えなければ理由をお聞きしても?」
レオはあくまでも慎重に、そう尋ねた。十帝の琴線に触れる事はそれだけで危機を意味する。同じ十帝の立場とはいえ、今の自分ではハピナスを止められないことなど、とっくに分かっていたからだ。
「古代悪魔」
ハピナスが放った言葉は、会議場に静かに響き渡った。その言葉を知る者は、事態の理解を進めていく。
「この先の話を聞く覚悟が貴方達にあるのなら、全てを話すわ。古代悪魔と五大英雄の家系、双方にある数百年を跨ぐ因縁の話を」
ハピナスは静かにそう語った。
作者のぜいろです!
長い間留まっていた十帝会議についての話をようやく動かすことが出来ました!
本当はもう少し早く書く予定だったのですが、思ったよりも「獣の王国と魔導王朝編」の執筆に熱が入ってしまい、このような結果となってしまいました。
それはさておき、十帝会議で登場した面々は今後のストーリーに大きく関わってきますので、是非ご注目ください!
イラストを書いていただいたのは、夜廻あんとさんです!素敵な絵をありがとうございました!
いいね、評価、ブクマ、感想等あると執筆の励みになりますので、よろしくお願い致します。
評価は下側にあります、☆を押して頂けると可能なので、是非是非よろしくお願い致します!